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コラボアルバムを発表したJPEGMAFIAとDanny Brownとは?

ラッパーでありプロデューサーのJPEGMAFIA(ジェイペグマフィア)は、ヒップホップにパンクやエレクトロなどのサウンドを加えた斬新な音楽スタイルで注目を集め、これまでに多くの作品をリリースしてきました。

一方、2000年代から活動を続けているラッパーのDanny Brown(ダニー・ブラウン)は、ケンドリック・ラマーエイサップ・ロッキーといったトップアーティストとのコラボレーションや、アメリカ音楽メディアから高い評価を受けるなど、実力派ラッパーとしても知られています。

そんな急上昇中の2人が今回、コラボアルバム「SCARING THE HOES」(2023)をドロップ。

ここでは、あまり知られていない2人のアーティストのこれまでのキャリアを解説します。

レーベル  : Warp
リリース日 : 2023年3月24日
名前    : JPEGMAFIA, Danny Brown
本名    :    JPEGMAFIA / Barrington DeVaughn Hendricks
        Danny Brown / Daniel Dewan Sewell
年齢    : JPEGMAFIA / 33歳
        Danny Brown / 42歳


出身地   : JPEGMAFIA / メリーランド州ボルチモア
        Danny Brown / ミシガン州デトロイト

JPEGMAFIAとは?

ジャマイカ人の両親の元に生まれ、ブルックリン、フラットブッシュで育ったジェイペグマフィア
幼少期の大半をフラットブッシュで過ごし、15歳の時に音楽制作に興味を持ち、ラッパー兼プロデューサーとして成功を収めたカニエ・ウェストに大きな影響を受けながら、サンプリングの方法を学び、楽曲制作をするようになりました。

18歳でアメリカ空軍に入隊し、イラクでの従軍経験を持ち、クウェート、ドイツ、日本、北アフリカで過ごしました。
日本での軍滞在中、彼はDevon Hendryxという名前で制作や作曲を行い、数枚のミックステープをリリースしています。

その後、軍を名誉除隊となり、2015年にボルチモアに移住し、JPEGMAFIA名義で音楽を作り始め、2015年にミックステープ「Communist Slow Jams」をリリース。
このミックステープは、日本でもレコーディングを行っており、全曲をジェイペグマフィア自身がプロデュースしています。

JPEGMAFIA - i used to be into dope

2016年、彼はデビューアルバム「Black Ben Carson」をリリース。
このアルバムは、アメリカ大統領選で唯一の黒人候補者であったBen Carsonにちなんで名付けられました。
収録曲の「the 27 club」は、多くの人気ミュージシャンが27歳で亡くなっていることに着目し、その原因として薬物やアルコールの乱用、あるいは暴力的な手段による殺人や自殺といった説を指しています。

その中で、ジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョプリンニルヴァーナカート・コバーンなどの27歳で亡くなった多くのミュージシャンの名前を挙げながら、現在の社会問題について歌っています。曲は、彼らが亡くなった時代と現代の社会問題を比較し、若者たちが直面する現代の困難や不平等について警鐘を鳴らしています。

JPEGMAFIA - ​the 27 club

2018年にはセカンドアルバム「Veteran」をリリース。
このアルバムには、以前彼がボルチモアに住んでいた頃に約120曲を録音していたものの中から、2017年半ばにロサンゼルスに移住した後に選曲されました。
その後、ミックスとマスタリングが施され、最終的には19曲がアルバムに収録されています。

リリース後は、チャートインこそ無かったものの、ローリングストーン誌の「The 30 Best Hip-Hop Albums of 2018」では20位に選ばれ、評論家からも高い評価を受け、収録曲の中でも「1539 N. Calvert」は特に注目され、Spotifyで6000万回以上のストリーミング数を記録しています。

JPEGMAFIA - 1539 N. Calvert

2019年には、3枚目のアルバム「All My Heroes Are Cornballs」をリリースし、自身初の全米チャート入りを果たしました。
今作でも全曲を自らプロデュースし、ヒップホップだけでなくパンクやエレクトロなどの多様なサウンドを取り入れ、人種差別や政治的なテーマについてラップしています。

彼は「ファンへの感謝の気持ちを明かしたものなんだ」と、このアルバムについて次のように語っています。

このアルバムは、本当にファンへの感謝の気持ちを明かしたものなんだ。
2018年に着手して完成させ、2019年にVinceツアーの直後にミキシングとマスタリングをしたんだ。
普段はプロジェクトをリリースした直後に何かに取り組むことはないんだ。
でも「Veteran」は人生で初めて何かに一生懸命取り組んで、それが自分に返ってきたんだ。
だから、仲間に感謝したかったんだ。
そして、全身全霊を込めたアルバムを作ろうと思った。
俺のすべての面をね。ほんの一部じゃなくてね。
このアルバムは、俺の人生で最も『俺』なアルバムだ。

JPEGMAFIA - Jesus Forgive Me, I Am A Thot

2021年10月、自身の32歳の誕生日に合わせて4枚目のアルバム「LP!」をリリースしました。
このアルバムはストリーミングサービスでリリースされた「ONLINE」バージョンと、YouTube、SoundCloud、Bandcampで公開された「OFFLINE」バージョンの2つのバージョンがあり、サンプル関連の問題でそれぞれ異なるトラックリストを収録しています。

なお、このアルバムはEQT Recordingsとのレコーディング契約の下でリリースされる最後のアルバムとなり、今後はインディーズアーティストとして活動することを明言しています。

俺は12歳の時から音楽を作ってきた。
でも、音楽業界には4年ほどいて、その間ずっと、俺の利益を1番に考えてくれない人たちに囲まれてきたんだ。
俺は、誇大広告ではなく、作品の質で生きているんだ。
それを誰かが邪魔するようなことをした時点で、俺にとっては死なんだ。
俺は契約を果たすために、そしてこういった状況から抜け出すために、アルバム用に取っておいたものをたくさん使ったんだ。
レーベルからのリリースはこれが最後だ。
今日から俺は超自由だ。
今までの俺よりも遥かに自由で、長い間感じていなかったことだ。
俺は※ディックライダーのために音楽を作らないし、因果応報のために音楽を作らない。
その空白を埋めるために、ケツになりたい黒人がたくさんいるんだ。
皿洗いの間など、バックグラウンドで流す音楽が必要な場合、そのような音楽が必要だけどね。
俺の目標、体、心、出身地が違う......。
同じものを目指しているわけではないんだ。
俺は真のはみ出し者であり、そいつらを引き込みたいんだ。
もし君が、あらゆる場所で居場所がないと感じたら。
君のためにここにいるよ。
それはまさに俺がいつも感じていたことだからね。
今はそれを感じてくれる人がいて幸せだよ。

※非難されるような行動や発言をしたアーティストやアイドルなどを擁護するファンのこと

JPEGMAFIA - BALD!

Danny Brownとは?

ミシガン州デトロイトで18歳の母親と16歳のフィリピン人ハーフの父親の間に生まれたダニー・ブラウン
父親がハウスDJであり、Roy AyersLL Cool JEshamA Tribe Called Questなどの音楽に触れ、物心ついた頃からラッパーに憧れていました。

しかし、彼が育ったデトロイトは犯罪が多く、治安の悪い場所として知られていたため、両親は彼をそのような環境から守るために、常に家にいるように注意していたようです。

両親は俺を家から出したくなかったんだ。
彼らは俺を家の中に閉じ込めておくために、最新のビデオゲームでも何でも、できる限りのことをしてくれた。
でも、子供を家に閉じ込めておける時間は限られているんだ。
そのせいで俺は保護され、一旦逃げ出すと4日間くらいは姿を消していたんだ。

そういった親の苦労も虚しく、ダニー・ブラウンは18歳の頃に麻薬の売人になり、大麻の所持などの罪で逮捕され、8ヶ月に渡って収監された過去があります。

マリファナを持って徘徊しているところを捕まって、執行猶予に抵触してしまったんだけど、裁判所には行かずに逃げたんだ。
少なくとも5年間は逃げ続けた。
でも、捕まってしまったら、8ヶ月の刑に処されたよ。
他に何もなかったから、音楽の勉強を再開して、ラッパーになろうとしたんだ。
刑務所から出たら自信がついたんだ、なぜならその日から葉っぱを売り始めたからね。
でも最初の2カ月は金がなくて『刑務所にいたほうがよかった』って思ったよ。
その頃にはもうニューヨークに行ったり、レコーディングスタジオに行ったりしていたから、刑務所に入った時にはもう本気だったんだ。

そして2003年、デトロイト在住のラッパーChipsとDopeheadと共にラップグループRese'vor Dogsで音楽活動を始め、アルバム「Runispokets-N-Dumpemindariva」をリリースしました。

その後、彼はソロキャリアをスタートさせ、9枚のミックステープをリリースした他、2010年には、ラップグループG-Unitのメンバとして知られるTony Yayoと親交を深め、コラボミックステープ「Hawaiian Snow」(2010)をリリースしています。

同年にデビューアルバム「The Hybrid」(2010)を発表し、続けて翌年にセカンドアルバム「XXX」(2011)をリリースしました。
「XXX」は、ニューヨークのブルックリンを拠点とするレコードレーベルFool's Gold Recordsからフリーダウンロードでリリースされ、Complex誌の「過去5年間のベストヒップホップアルバム」の8位、Spin誌の「2011年のヒップホップアルバム」で1位に選ばれ、批評家からも高く評価されました。

また、アルバムに収録されている「Blunt After Blunt」は、エイサップ・ロッキーが監督を務め、彼自身もカメオ出演して話題となりました。

2011年には、同じくデトロイト出身のプロデューサーBlack MilkとコラボEP「Black and Brown!」(2011)をリリース。
また、Childish Gambinoとのツアーも開始し、2012年にはXXL誌が選ぶ「Freshman Class 2012」に選ばれ、French MontanaMachine Gun KellyIggy Azaleaなどと共に全米中から注目を集めました。

2013年に発表した3枚目のアルバム「Old」は、エイサップ・ロッキーFreddie GibbsSchoolboy Qなどがゲスト参加し、自身初の全米チャート入りを果たしました。
また、音楽メディアからの評価も高く、Complex誌やPitchfork誌は「2013年のベストアルバム」5位に選出し、本人はこのアルバムについて次のように明かしています。

俺はいつも自分が1960年代のオールドスクールなアーティストであるかのように振舞うようにしているから、このアルバムもレコードを作るような気持ちで臨んだんだ。サイドAとサイドBがあるよ。
俺の考えでは、俺は常に2つの異なるアーティストだったんだ。
アンダーグラウンドのヒップホップもやるし、トラップもやる。
XXXはストーリーを語っていたので、今回は「熱意を抑える」みたいに、ランダムにいろんなことが起こるけど、最後にはまとまるような作品にしたかったんだ。

DANNY BROWN feat. PURITY RING - 25 BUCKS

2016年、4枚目のアルバム「Atrocity Exhibition」をリリース。
前述のプロデューサーBlack Milkがプロデュースしたシングル「Really Doe」が収録されており、ケンドリック・ラマーAb-Soulらがゲスト参加しています。

ダニー・ブラウンは、「Really Doe」について、ケンドリック・ラマーが未完成曲を聴いて、それにフックとバースを加えて完成させたと語っています。

俺がやったんじゃない、Kendrickがやったんだ。
この曲はスタジオにあったんだけど、まだ未完成の曲だったんだ。
俺はこの曲をどうするか考えていたんだけど、彼はスタジオに行って、そのまま持って行ったんだ!
そして戻ってきた曲は、彼がフック、ブリッジを作った後、EarlとAbに連絡を取ったんだ。
俺が何を言いたいかわかると思うけど、彼らの詩をそこに入れたんだ。
本当に彼の曲なんだ!

Danny Brown feat. Kendrick Lamar, Ab-Soul, Earl Sweatshirt - Really Doe

2019年には、ヒップホップグループA Tribe Called QuestのメンバーであるQ-Tipがエグゼクティブプロデューサーを務めた5枚目のアルバム「U Know What I'm Sayin?」をリリース。

このアルバムでは、前述したジェイペグマフィアとのコラボレーションに加え、彼のプロデュースによる「3 Tearz」Run The Jewelsをフィーチャーしています。

Danny Brown feat. Run The Jewels - 3 Tearz

その他にも、ダニー・ブラウンドレイクやエミネムらの楽曲に選ばれるなど、多くの著名アーティストと共演してきました。
また、彼はエイサップ・ロッキーと共にツアーを回り、彼自身のデビューアルバム「LONG.LIVE.A$AP」(2013)に収録された「1 Train」では、ケンドリック・ラマーJoey Bada$$らと共演しました。

A$AP Rocky feat. Kendrick Lamar,Joey Bada$$,YelaWolf, Danny Brown, Action Bronson & Big K.R.I.T - 1 Train

おわりに

プロデューサー、ラッパーとして高いスキルを持ちながら、自分のスタイルを貫くためにインディーズの道を選択したジェイペグマフィア

一方、XXL誌の「Freshman Class 2012」に選出され、業界やメディアから高い評価を得ながら、独自のスタイルで多くのファンを魅了しているダニー・ブラウン

次記事では、彼らの融合作品「SCARING THE HOES」(2023)について解説します。


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