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Hinds『The Prettiest Curse』レビュー。自然体のまま飛躍する変化作

Hinds『The Prettiest Curse』レビュー。※この記事は2020.06.10にDIGLE MAGAZINEに掲載されたものです。

 今から2年前。ちょうど前作『I don’t run』がリリースされる頃、アメリカで開催されたSXSWから帰国したばかりのTENDOUJIを取材する機会があった。その時の彼らは実に屈託なく、同イベントに出ていたHindsの素晴らしさを語っていた。彼女達の楽曲の素晴らしさ、ユルい曲でダイブが起こるその光景…曰く、「ナチュラルで、客との境がない。それでいて音楽に対してはアグレッシブ」とのこと。「DJが音楽をかけるチークタイムみたいなところで、客がどんどんステージ上がっていって。Hindsはステージ上でめちゃくちゃベロチューしてるんですよ(笑)」というエピソードも、彼女達の魅力を存分に伝えるものだとう思う。飾ってないのにオシャレ、簡単なのにエキサイティング、Hindsは太陽みたいに眩しい。

 鳴らされるのはスカスカのローファイ・ガレージ・サウンド、力の抜けた歌…そんな誰にでもできそうなのに、彼女達にしかできない音楽だ。2016年の『Leave Me Alone』リリース以降、母国スペインを飛び出し着実にワールドワイドな存在になっていったのは必然だろう。きっと世界中のインディファンが思ったはずだ、「本当にカッコいいバンドってこういうことだ」と。

 そうしたイメージからすると、今作はちょっとした変化作である。煌びやかなシンセ、太くなったボトム、まろやかになったギターの音、事前に公開されていた「Riding Solo」や「Good Bad Times」が示唆していた通り、へなへなな音は一旦おあずけ。派手な衣装のジャケットさながら、全編を通してくっきりとした輪郭を感じる音になっている。

 NYでレコーディングを行い、プロデューサーはBat for LashesやThe Wombatsらを手掛けるジェン・デシルヴェオ(Jenn Decilveo)。昨年リリースされたBat for Lashesの『Lost Girls』も、80’sのエッセンスを美しく付与された作品だった。本作の「Good Bad Times」の音色が、レトロでドリーミーなものになったのも、彼女の手腕が働いているのだろう。アレンジには華があり、メロディが一層活きるサウンド・プロダクションが施された格好だ。

 作品タイトルの「The Prettiest Curse」は、”最高にかわいい呪縛”の意。「素晴らしくもタフでなければ続けていく事ができない、女性がロックバンドとして生きる呪縛を、全面的にポジティブに受け入れていくという決意」が込められているという。なるほど、本作で感じる音の「厚み」は、そうした彼女達の意志の表れなのかもしれない。それは音だけではないのだ。歌唱やコーラスの変化は顕著で、「Boy」や「Burn」、「Waiting for You」の溌剌(はつらつ)とした声には力強さを感じる。

 感情が爆発したようなアウトロで終わっていく「Riding Solo」。それがツアーで感じた孤独について書かれた曲だという通り、本作にはやはり彼女達の悲喜こもごもが反映されているのだろう。そんな作品がこれまでで最もポップでカラフルな音楽になっているところに、タフな心意気を感じる。一回り成長したHindsは、一回り大きいステージに立つ度量を手にしたんだと思う。どんなサウンドもサラっと着こなしてしまうセンスがあり、根っこにある「ナチュラルであること」の魅力が、ここにきて引き立っている。

Writer:黒田隆太朗
平成元年生まれ、千葉県出身。ライター/編集。MUSICA編集部→DIGLE編集部
掲載元:DIGLE MAGAZINE
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