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ウェルビーイングの鍵は「やりがい」と「つながり」~特別講演「Well-Beingあふれるデジタル社会を目指して」レポート~

こんにちは、デジテック運営事務局のやまたんです。

やまたんが、はじめて「メタバース」という単語を聞く方に例として挙げるのが、細田守監督の「竜とそばかすの姫」です。映像作品ですし、日常生活とメタバースを見事に融合させて表現しているので、感覚的に非常に分かりやすいと思っています。

その原点ともいうべき同監督の作品「サマーウォーズ」もお勧めですね。メタバースで現実世界も巻き込む大事件が起こり、主人公の高校生が、仲間達や世界中の人々が協力して立ち向かうスペクタクル作品です。

この作品で大好きな点は、主な舞台となるヒロインの田舎の実家に、祖母の誕生日を祝うために二十人を超える親族が集まり、作品を観ていると、まるで親戚の家に里帰りしたような気持ちになるところ。原作小説を読むと、各キャラクターの背景が分かり、更に親戚度アップです(笑)。

「あんたならできる!」作中のおばあちゃんの言葉は、信頼が人を強くすることを教えてくれる一言です。

ウェルビーイング特別講演が開催!

先日のnote記事で、特別講演「Well-being にあふれるデジタル社会を目指して」が9月8日に山口市で開催されることをご紹介しました。

やまたんも、当日は当然会場に足を運びましたが、会場には約100名の観衆が集まり、ウェルビーイングに対する関心の高さが窺えました。

ウェルビーイングやスマートシティに関して国内第一線で活躍されている講師陣から貴重なお話をお伺いする機会となった講演の様子をまとめましたので、よろしければぜひご覧ください!

「やりがい」と「つながり」がウェルビーイングにつながる

最初の講演「デジタル化とウェルビーイング」の講師は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司さん。山口県のご出身で、日本のウェルビーイング研究の第一人者として大学で教鞭を執る傍ら、全国各地で講演などを行いウェルビーイングの普及を行っていらっしゃいます。暮らしや社会におけるウェルビーイングの意義や重要性、山口県でのウェルビーイングの推進などについて、お話いただきました。

まず、ウェルビーイングの重要性について、例えば、幸福感の高い社員は、創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%高いことが分かっているとのこと。また幸せを感じている人はそうでない人に比べて7.5~10年寿命が長く、幸福学は予防医学にも通じるなど、エビデンスを見ると、ウェルビーイングに取り組まない理由はないと強調されていました。ちなみに、時間にルーズな方が幸せという研究結果もあるようですが、それは寛容性が高いと考えると良いようです(笑)。

さらに、老年的超越といって90~100歳の高齢者の幸福度は極めて高い傾向にあるそうで、言い換えるなら、日本の超高齢化社会は、デジタルの力を使って幸せな社会となるシナリオがあり得るとのこと。幸せというのは結果でなく原因であり、未来は明るいと考えれば、ワクワクと幸せな気持ちになって、創造性が3倍となり、本当に明るい未来が実現できるとの言葉には勇気と希望をいただきました。

また、金、モノ、社会的地位などの「地位財」による幸福感は長続きせず、安全や健康、心的要因などの「非地位財」が幸せにつながるとのこと。心的要因には「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」の幸せの4つの因子があり、これらがウェルビーイング実現には特に重要だそう。自己実現や成長に向けてやってみよう!何とかなる!と前向きに取り組むことが「やりがい」を、周囲との絆や感謝の気持ちを大切にすることが「つながり」を生み、ウェルビーイングにつながると力説されました。

デジタル技術の進展によって、まずやってみることが有効な社会になってきている。また、デジタル社会は新たなつながりを実現する一方で、他人と自分を比較しすぎる傾向も生んでいるので、デジタル技術の良い側面をうまく活用してウェルビーイングを目指すことが大切だとも。地域も一緒で、幸福度のランキングをつけるのではなく、それぞれの強みや個性を生かしていくことが重要だと話されました。

我々一人ひとりが「やりがい」と「つながり」をもって暮らすことが、個人や社会全体の幸せ、ウェルビーイングにつながるということを、様々な知見や観点から教えていただいた講演でした。

スマートシティは、人間の生き方への問いへと深化

次の講演「デジタル田園都市国家構想とWell-being指標」の講師は、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事の南雲岳彦さん。デジタル田園都市国家構想のウェルビーイング計測指標であるLiveable Well-Being City指標(LWC指標)の開発で中心的な役割を担われたとのこと。また、スマートシティのスペシャリストでもあることから、スマートシティの構築や指標の活用方法などについて、お話いただきました。

これまでのスマートシティの取組はデジタル化を目的化しがちで、その取組が生活にどういう関係があるのか実感がわかず、スマートシティ導入に関する市民の参加意識を高めることが一番の課題とされてきたとのこと。それに対する政策提言として、まちづくりの目標であるウェルビーイングの向上を、「市民の幸福感」や「暮らしやすさ」という主観の視点と、スマートシティの取組など客観的な視点で総合的に把握できる指標としてLWC指標を開発されたそうです。

LWC指標の目的としては、ランキングではなく、自治体が「個性を磨く」機会を創出することだとも。また、基礎自治体ごとの客観的に測定できるデータと市民の主観によるアンケートデータの両方を無料でオープン化しており、スマートシティの取組推進に活用して欲しいと話され、任意のエリアの回答データを集計・表示可能なダッシュボードも近日リリースされる予定とのことでした。

また、人間の幸福感を、欲求段階を踏まえて「快適な人生」「良い人生」「意味のある人生」で整理してみると、全国都市の主観データから、「快適な人生」には住宅、「良い人生」には地域とのつながり、「意味のある人生」には教育機会の選択の自由が、特に重要な要因となっているという共通項が見えてきたそうです。

講演では様々な自治体の指標やレーダーチャートも紹介され、ぜひ皆さんも地元の強みや個性を見つけ出し、スマートシティ形成に向けた施策や取組に生かして欲しいと話されました。

さらに、スマートシティ形成や持続的な地域DXを構築するためには、産官学民の連携の巧みさが鍵を握るとも。自治体や民間企業、NPOなど各主体の強みを生かして、どうやって連携体等を構築するかが重要なようです。

スマートシティの考え方は、デジタル技術主導の議論を越え、地球環境との共生や人間の本質的な生き方に関する問いへと視点を深めており、その中心概念にあるウェルビーイングを可視化(計測)することが重要であるとのまとめに、大きく頷かされる講演でした。

地方におけるウェルビーイングについての熱いセッション

後半は講師のお二人がパネラーを、村岡知事がファシリテーターを務めるトークセッションが行われました。

まず、地方においてウェルビーイングの取組をどのように進めていくべきかとの問いかけに、前野教授からは、地方は個性を生かすことが大事。山口県には維新の地という個性がある。産業革命以降の成長至上主義から持続可能な社会への転換期である現代において、維新の地である山口県に学ぶに来るという流れがあってもよいのではと。

また、もう一つの観点は都市から地方への回帰。現代はデジタル化を進めながら昔の良さを取り戻していく時代で、ルネッサンスやロマン主義に通じるところがある。自然豊かなくらしなど、地方の良さを再認識する動きが強まっている。地域の個性をポジティブに捉えて、創造性を発揮してイノベーションを起こし、ウェルビーイングな社会をつくっていくことが大事ではないかと語られました。

南雲専務理事からは、欧米でウェルビーイングを実現するために大事にしていることは自然との接点、そして芸術・文化などを重要視し、精神的な豊かさを求めている点であり、世界の方程式のようになっている。治安の良さや繁華街の賑わいなど、人が集まりやすい環境が、文化を生み、イノベーションも起こるような連鎖をつくり出す。暮らしやすさの中に、自然や文化との接点が多いことを求めると、結果的にウェルビーイングなまちとなり、人が集う場所になるのではないかと答えられました。

次に、若い世代がウェルビーイングの考えの理解を深めていくための取組についての問いかけに、前野教授からは、ウェルビーイング教育は必須。例えば道徳の授業を哲学ではなくサイエンスとして捉えて、アンブレラ科目としてウェルビーイングを教える考え方もある。教育は未来をつくるものであり、将来は希望に溢れていて明るいと子ども達が考えてくれることが重要初等教育から社会人教育まで、様々なウェルビーイング教育を考えていくべきと語られました。

また、スマートシティ形成に向けた課題とそれを乗り越えるための取組についての質問に対して、南雲専務理事からは、スマートシティが上手くいかない一番の理由は、テクノロジー優先となっている点。ウェルビーイングの観点から、市民にとって何をすることが生活に最も好影響を与えるのかを見極めることが大切。例えば、まずデジタル化しない項目を決めてから取組を進めた自治体もある。デジタル化が全てではなく一部であると考え、何を目指してデジタル化を進めるのか、まちづくりを市民と一緒に考えることが重要だと答えられました。

その後、参加者からの質問や登壇者からの総括があり、あっという間の40分間でした。

今回の特別講演を通じて感じたのは、講師お二人から語られる内容の濃度と熱量でした。日本の将来を考えるならば、ウェルビーイングやスマートシティを必ず普及させなければならないという確信に満ちた言葉は、現地会場にいたことで、なおさら胸に響きました。

また、本講演は、我々が今後どのように生きるべきかを考える契機にもなりました。講師のお二方、山口県で素晴らしい講演をありがとうございました。

現在、今回の講演のアーカイブ配信を下記URLで行っています。今回の記事では両講師の熱い思いを十分伝えられなかったかと思いますので、ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

我々一人ひとりや社会が目指すべき新たな目標、ウェルビーイングについては、今後も引き続き注目していきたいと思います。では、また!

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