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第4回 心理ロイヤルティの構造化 その2

 第3回では、ロイヤルティは、基本価値と体験価値の複数のロイヤルティドライバーの満足から構成されること、そして各ロイヤルティドライバーの満足度は、「頭の満足」レベルと「心の満足」レベルで測れることを解説しました。第4回では、さらにその下のレイヤーの構造化について解説します。

複数の顧客体験がロイヤルティドライバーの満足を決める

 ロイヤルティドライバーの満足レベルを左右するものは何でしょうか。それは各々のロイヤルティドライバーの複数の顧客体験です。どのような顧客体験をしたのかが、ロイヤルティドライバーの満足レベルに大きな影響を与えます。いわゆるカスタマーエクスペリエンスです。たとえば、アパレル店舗での「試着」というロイヤルティドライバーの満足レベルに影響することは、試着室の環境や試着の際の店員の対応等の体験です。
 顧客体験は、ポジティブ体験とネガティブ体験に分けられます。ポジティブ体験は満足レベルを押し上げ、ネガティブ体験は満足レベルを押し下げます。「試着」というロイヤルティドライバーでは、「試着室が広くて着替えしやすい」とか「スタッフから上手な着回しや雑貨とのコーディネートのていねいな提案があった」等がポジティブ体験であり、「試着室が暗くて商品の色がよく分からない」とか「試着室に案内されただけで、そのあとは全く気にかけてもらえない」等がネガティブ体験です。
 顧客体験は、ロイヤルティを構造化した際の最下位レイヤーの要素です。この顧客体験レベルを見える化し定量化すると、より具体的な顧客体験の改善策を作成できます。

心の満足に影響を及ぼす「感動体験」と「落胆体験」

 次に、「頭の満足、心の満足」と「ポジティブ体験、ネガティブ体験」の関係を明らかにしていきます。まず、すべてのポジティブ体験とネガティブ体験は、頭の満足に影響を及ぼします。ロイヤルティドライバーの満足レベルを高めるためには、ポジティブ体験を増やし、ネガティブ体験を減らして頭の満足レベルを高める必要があります。
 それでは、心の満足に影響を与える体験は何でしょうか。前述のとおりロイヤルティの向上、愛着度合いを向上させるためには、頭の満足に加えて、感情的に感じる満足、すなわち心の満足を高めなければなりません。
 筆者のコンサルティングの経験から、各々の顧客体験は頭の満足と心の満足との影響度に差があることが分かっています。またポジティブ体験にはお客様の心に響き、心の満足に好影響となる「感動体験」があり、同様に、ネガティブ体験には心の満足に悪影響を及ぼす「落胆体験」があります。
 たとえば、小売店の「接客」というロイヤルティドライバーでは、「豊富な知識で的確にアドバイスしてもらえて嬉しかった」というポジティブ体験を数多くのお客様が体験します。これに対して「同伴者(夫婦、親や子供、友人など)への気配りがあって嬉しかった」というポジティブ体験は、体験者数は少ないものの「心の満足」に大きな影響を与える「感動体験」であることが分かりました。また、百貨店の「入店・回遊」というロイヤルティドライバーでは、「マナーの悪い客がいて、嫌な思いをした」というネガティブ体験は多くのお客様が体験します。一方、「フロアーが汚くて、嫌な思いをした」というネガティブ体験は、少ないものの「心の満足」に大きく悪影響を及ぼす「落胆体験」であることが分かりました。
 つまり、ひとつの顧客体験が「頭の満足」にどの程度影響するかを明らかにすると同時に、その体験がどれくらい心に響き、「心の満足」に影響するのかを把握できると、顧客体験がロイヤルティにどう影響を与えているかが分かるようになります。ロイヤルティ向上にとって大切な心の満足に影響を及ぼす、感動体験と落胆体験をロイヤルティドライバーごとに把握できると、改善施策の立案にとても有効です。

ロイヤルティを構造化すれば施策が見えてくる

 上記で解説したロイヤルティの構造化を図にしたものが以下です。「ロイヤルティ」「ロイヤルティドライバーの満足」「顧客体験」の3階層でロイヤルティは形成されていることが分かります。

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 具体的に百貨店の事例にあてはめてみましょう。
 50代以上の年齢の顧客セグメントは他世代よりロイヤルティが高いことが分かりました。さらに構造化されたロイヤルティに基づいて分析を加えると、数多くのロイヤルティドライバーの中でも、「ギフト購入」というドライバーの「心の満足」が高く、ロイヤルティに好影響を与えていることが分かりました。
 さらに顧客体験レベルまで分析を加えると、お客様の気持ちになってギフトラッピング材を選択してくれることが感動体験になっていることが分かりました。
 ギフトラッピングの数はコスト削減対象になりやすいアイテムですが、むしろロイヤルティを向上させる重要なアイテムであることを認識し、さらにギフト包装時の接客に対しての強化策を打ち出しました。
 ロイヤルティを構造化して分析していくと、具体的な施策まで落とし込んでいくことが可能になります。

デジタルシフト時代のマーケターの重要ワークは自社顧客のロイヤルティの構造化

 2回に渡ってロイヤルティの構造化について解説しました。
 「ファンづくり」が目的となる農耕型マーケティングが重要となるデジタルシフト時代のマーケターがまず実施しなければいけないことは、自社の顧客のロイヤルティの構造化です。決して、「購買者づくり」が目的の狩猟型マーケティングの施策であるキャンペーンやセールのプロモーション企画を立案することではないのです。
 そして前述の百貨店のような分析をするには、実際にはロイヤルティの構造化だけではできません。構造化された各項目を定量化して分析していくことになります。

 最終回の次回では、その構造化されたロイヤルティの定量化と分析について解説します。

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第1回 マーケティングの真のデジタルシフトとは?
第2回 ロイヤルティマネジメントの重要性
第3回 心理ロイヤルティの構造化 その1
第5回 心理ロイヤルティの定量化と分析

渡部 弘毅 (わたなべ ひろき)
ISラボ 代表

1985年日本ユニシス入社、2000年日本IBM、2005年日本テレネットを経て、2012年にISラボ設立。一貫してCRM分野に関わり、プロダクトマーケティング、業務改革コンサルタント、事業企画を経験。現在はロイヤルティマネジメントのコンサルティング活動中。日本オムニチャネル協会、情報処理学会、コールセンタージャパン等、複数の研究会のリーダーを務め、定期的に数多くのセミナーの講師を担当している。
著書:『お客様の心をつかむ心理ロイヤルティマーケティング 「心の満足」と「頭の満足」を測り、科学的にロイヤルティを高める手法

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