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第1回 自社を変える時に最初に取り組むこと

~はじめに~

私はこれまで25年間、小売・流通の世界におります。
22年間は三省堂書店、セブンネットショッピング、Amazonジャパン、イオン、カメラのキタムラといった企業に勤務し、事業者側として店舗、EC、商品、マーケティングといったフロントから、経営戦略、財務経理、総務、IT、物流、コールセンターといった本社業務まで経験しました。そしてその中で常に店舗とネット(EC)の融合という業務に関わってきました。
直近4年間はその経験を生かして支援側となるコンサルタントとして少し広い視野で小売・流通を見ています。

この連載では、その両方の視点からわかった、リテールビジネスのデジタルシフトに必要な事を、より現場業務に即した形でお伝えしていきます。

~顧客を数値で見える化する

 あなたが会社をデジタル化したい、そして顧客サービスをより良くしたいと考えた時に、まず取り組む事があります。それは社内の数字と世の中の数字で、顧客について整理する事です。
 きっと社内には、数値資料やレポート、報告書がたくさんあると思います。私は転職するとまずその会社の全会議に参加し、会議資料を貰います。その資料にはその部門が目標としている数値や、顧客との関わりや業務目的などが、チームや個人の管理目標とも関わりながら記載されている筈です。もし経営戦略に親しい人がいるなら、経営戦略が束ねている予実管理の数値資料や経営陣への上程資料を見せてもらうとなお良いです。店舗に行ったなら、事務所の壁に貼ってある本部からの指示書や、スーパーバイザーの指摘レポートのファイルなどをコピーもしくは写メさせてもらいましょう。(図1)

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 この中からあなたがする事は、会社の売上・経費・利益、在庫といった現場に直結する財務諸表の中で、各部署が注力する数値目標を整理しつつ、その数字が顧客とどういう関係にあるのか整理する事です。

 具体的には、年/月/週/日で客数がわかります。その前年比はどうなっているのか、売上を客数で割った客単価は前年とどう変わっているのかを見ましょう。もしID-POSのポイントカード情報やEコマース、通販事業など、顧客を特定出来るIDなどの情報から新規とリピートが見える化出来ているなら、その割合や前年比を見て、さらに新規/リピート顧客の客単価を個別に出します(図2)。リピート顧客、つまり既存顧客は、もしわかるなら初回購入からの継続年数や会員になった年度を基準にかたまりとして、毎年の売上に占める割合を出していきます(図3)。その際には新規/既存顧客へのそれぞれの販促施策費用と効果の検証もありますがこの詳細は販促・マーケティング部門の回にお伝えします。

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 会社の売上が伸びているなら、客数か客単価のいずれかが伸びている筈だし、新規/既存分解が出来ているなら、新規顧客が増え、既存顧客の継続利用が高く、それぞれの翌年度の離反が少ない筈です。業績が悪いなら、その逆の事が起きている筈です。こうして最初に売上と客数の関係から伸びている理由、悪くなっている理由を、社内の数字で明確に見える化します。

~売上・経費・利益を数値で把握する

 もちろん売上が伸びていても経費が増えてしまえば会社全体の業績は悪くなります。いわゆる販管費の部分を、人件費、販促経費、管理費と大きく分けて前年との売上比率を基準に整理しましょう。リテールでは売上に対する原価率、粗利益率とみるのが通常なので、経費も売上比率でみるとわかりやすく、説明しやすくなります。事業の詳細を見るには経費を売上の増減に影響されない固定費(家賃や人件費など)と、影響される変動費(カード決済手数料やモールの売上歩合手数料など)と分けて見ますが、ここではまず先の3つの区分だけで構いません(図4左)

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 社内の業績を、客数と関連した売上で把握し、経費の前年比も確認出来た所で、外部数値として、業界の現況、日本全体の国内市況について調べます。

~世の中の変化と消費者の変化を数値で把握する

 ざっくり整理すると、国内市場においては、この20年間で一番消費する生産年齢人口は10%近く減少し、世帯平均収入も650→550万円と減っています。子どもがいる家族世帯も減っていて、世の中の半分以上は単身もしくは夫婦二人世帯になって、その多くが高齢化しています。
 またネットやスマホの普及によって、消費者とリテール企業の接点は大きく変わってきています。ビジネスサイドでのECの浸透度指標となる経産省発表のEC化率ですが、年々EC化率のパーセンテージは増えているものの、一時期は295兆円近くあった分母も289兆円(18年:17兆円9,845億円÷6.22%)と微減していて、分母が少なくなる中でのEC化率の成長は必ずしもプラスとは言えません。国内市場がシュリンクしている影響がここにも数字としてあらわれています。一方で分類別のEC化率については、消費者が実際にECを使って買い物している事実を示していて、自社業界がどのくらいEC化しているかの平均値としてチェックすべきものです。いずれも経済産業省、総務省などの各種統計で調べる事が出来ます(図5)

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~3Cで見える化して、社内説明資料を準備する 

 ここに業界ごとの統計を加えたら、見える化の出来上がりです。
 こうしていわゆる3C(3つのC。Company:自社、Competitor:競合、Customer:顧客)を社内と社外の数値からきちんと整理すると自社の状況が良く見えてきます。ほとんどの企業が国内市場においては新規顧客を増やして売上増を目指すのではなく、既存顧客を重視しながら継続的な購買を維持もしくは増やすLTV(ライフタイムバリュー:生涯顧客価値)の最大化が重要事項となっている筈です(図6)。

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 どうでしょう。自分の上司に、社内に、経営に、デジタルシフトを進めなければならない状況を自信をもって説明する資料は出来たでしょうか。要点は「業績と客数/客単価の関係を明確にすること」「社内各部署の数値・指標を集めて、顧客・業務とつながった資料に整理すること」「顧客の環境変化も見える化すること」の3つです。

 私はセブンネットショッピングでは事業の立ち上げに伴って、Amazonでは週次の業務報告で、イオンではネットスーパー事業の立ち上げと本社デジタルビジネス戦略担当として、常に数値の見える化に取り組んできました。おかげでカメラのキタムラでEC事業責任者かつ経営の立場にある執行役員をつとめた時には、数値で社内に説明するのがうまくなっていたと思います。
変えなければならないという情熱はとても大事です。そこにこうした具体的な数値が伴うと、定量(数値)と定性(ことば)で語る事が出来、デジタル化が馴染まない、という人たちもまず話は聞いてくれます。定性部分には企業理念、デジタルシフト後のありたい姿、その為の課題、今取り組んでいる事などをまとめると、より社内では“自分ごと“となっていきます(図4右)。

 あなたの変えなければの気持ちはより強くなり、個人ではなく組織で動くフェイズへと進化していくでしょう。次回はリテールデジタルシフトのキープレイヤー「情報システム部門との協業」についてお伝えします。

(つづく 次回は3/31(火)更新です)

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逸見 光次郎(Kojiro Henmi)
三省堂書店、イーエスブックス(現セブンネットショッピング)、Amazon、イオン、カメラのキタムラ等で店舗とネット(デジタル)の現場を経験、その融合を推進。 現在はオムニチャネルコンサルタントとして独立。現場から経営まで、継続的な顧客満足と企業利益を重視した全体最適視点の可視化により、デジタル化に悩む小売流通企業の支援している。
著書:『デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』(翔泳社)

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