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第4回 DXの旅

DX幻想を越えて

 DXの実践について説明する前に、3回をかけて、よくあるDXにまつわる7大幻想を叩き斬って来ました。読者の皆様におかれましては、どうかこんな低次元のDX幻想にハマることなく、正しいDXの実践へ向け、視界がよりクリアになったことを期待しています。

図表:叩き斬るべき、7つのDX幻想

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第4回目から、本格的に「DXを実践するとは、どういうことなのか?」、この本質を描いて行きます。

図表:当連載の全体構成 ※〇数字は連載回

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DXの踏み絵

 昨今、日々、DXの必要性が過熱気味に語られますが、そもそも、なぜ、DXが必要なのでしょうか?この根源的な問いに対する、正しい理解がないままに、DXを叫んでも、本質を見誤り、ましてやDX幻想にハマってしまうだけです。
 この前提には、“デジタル”に対する認識、姿勢の違いがあります。このデジタルの対する認識、姿勢によって、真なるDXの推進となるか、DX的な見せかけの取り組みで終わるか、企業の方向性が全く変わってしまいます。
 よくDXについての相談を受ける中でも、「経営陣によって、デジタルの認識がまったく違って、それを合わせるのが大変で・・・(まして、デジタルやAIに変な幻想持っていて、、、)」と言うデジタル担当者の切実な悩みを、本当によく聞かされます。
 本来なら、経営陣に次のテストと言うか、DXの踏み絵となる問いを投げ掛けてみるべきです。

「デジタルとは、第4次産業革命か、(一過性の)ブーム、トレンドか?どちらだと思いますか?」

 この答え次第で、企業としての方向性は大きく変わってしまいます。さらに、経営陣によって足並みが揃っていなければ、そもそも会社としての方向性は統一されず、担当者達が駆けずり回って、忖度の最大公約数づくりに明け暮れるだけです。

図表:デジタルの“踏み絵”

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 ご注意頂きたいのが、この踏み絵は、デジタルが産業革命なのか、ブームやトレンドなのか、前者が正しくて、後者が間違っていると言いたいものではありません。経営陣の共通認識として、どちらのスタンスかを、しっかり明らかにすべき、そうしないと正しい戦略的方向性が導出できないことを言っています。
 もちろん、私自身は、この10年のデジタル技術の進展は、情報世界が物理世界を飲み込む、有史的なインパクトを社会にもたらす事象であると信じています。しかしながら、10年後に振り返ると、過剰期待が先行するハイプサイクルだったということも、あり得るわけです。経営リーダーは、スタンドプレーではなく、DXの踏み絵をしっかり踏んで、DXへのスタンスを明らかにしなければ、なりません。

真なるDXか、DXごっこか

 「デジタルとは、産業革命級のインパクトだ」と、経営陣が認識しているのであれば、産業革命の先に生き残るため、またむしろ好機と捉えて、真なるDXを全力推進して行くことになります。 
 「デジタルなんて、どうせブームかトレンドだ」と思っているならば、真のDXは必要ありません。「DXごっこ」として、既存事業の業務にデジタルを活用して、業務改善を続けるとか、もっと確信犯的にDXに付き合うなら、株主対策としてDXをやっている振りをすれば良いわけです。見せ球として、結論なきPOCが乱発されていることは、第3回目にPOC幻想として見た光景です。
 または、アナログ幻想に突き進み、テクノロジーにはない、古き良き人の温もりを重視した事業展開の回帰する手もあります(馬車、レコード針、写真フィルムのような、超ニッチ事業の未来しかないと思いますが、、、)。
 その上で、特に日本の場合、事情がなかなか複雑なのは、「デジタルは産業革命だ!」と経営陣が威勢よく叫んでいても、その先に大きなDX幻想の雲がかかり、正しいDXの姿が見えないことです。
 「デジタルは産業革命だ!」との意気込みのまま、DX幻想にどっぷりとハマりに行くと、結果、幻想あふれる楽な道を選んでしまっている(デジタルマーケ、AIデータ実証実験、デザインシンキングのワークショップ参加、POC無限ループ、情シスにDX丸投げ、、、etc―第1回目~3回目でお伝えしてきたことです)、これがDXの構造的な実態の一面です。

2つのDXの旅

 では、DX幻想の霧雲が晴れた先の、真なるDXには、何が待っているのか?
 実は、この先には2つの道しか本質的にはありません。
 産業革命級のインパクトに対し、DXは不可避、または好機だと突き進んでいく場合、「どこをDXするか?」を徹底的に企業は問い切る必要があります。
 よく安易に「全社DX戦略」を策定したいと取り組んでいる企業がありますが(しかも、この策定に1年かけていたりする、、、)、“全社”と言う言葉で、思考停止する必要はありません。

図表:デジタルの“踏み絵”全体像

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 一義的には、コア事業をDXするか、しないか?
 コア事業をDXするというのは、本来であれば既存事業モデルのままでも、まだまだ収益貢献をしてくれる本業を、失敗すれば寿命を自ら短くしてしまう恐れすらあります。また、社内反発も極めて高いことは予想に難くなく、企業文化の刷新とセットで取り組むハードシングス(Hard Things)、いやThe Hardest Thingsです。
 ただ、現在、脚光を浴びる米国のテクノロジー企業達も、実はこのコア事業のDX化を数年かけて進めて来て今があることは、もっと着目されるべきです。
 一つ例をあげると、日本でも普及著しい、Netflix(ネットフリックス)の元々のサービスを知っていますか?今や、動画配信サービスに留まらず、世界のキラーコンテンツメイカーの地位にまで上り詰めている同社ですが、実は元々は、DVDを郵便で配送してレンタルするという、アナログサービスの草分け的な会社でした。

写真:NetflixのレンタルDVD郵送サービス

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 2007年に動画配信サービスを開始、さらに2011年にはそれまでセットで提供していたDVDレンタルサービスと動画配信サービスを分離して、動画配信サービス単独での提供を加速させました。
 今の日本から当時のNetflix社の社内の様子は想像するしかありませんが、郵便配送のオペレーションをせっせとこなしている従業員にとって、動画配信サービスはレンタルDVDサービスの売上を下げる競合であると同時に、自分達の既存コア事業の否定でもあるわけです。会社全体にとって大きな覚悟が必要だったはずです(サービス分離によって実質的な値上げとなり、ユーザーからの批判を浴び、さらに株価は急落しました)。
 こんなコア事業の破壊と創造の道が困難な場合、もう一つのやり方が、江戸時代の長崎の出島のように、本体とは離れた場所にDX特区を作って、そこで専門人材を集結させて、本業への直接影響がない形で、DXを推進して行くものです。
 もちろん、本業に影響をおよばさないために、スケールしないような事業に制限しては、DXではありません。むしろ、10年後に、本業と収益を逆転させ、現在の本社を飲み込んでくれる第2本社を、本業と離れた場所でスタートさせるのです。
 このように、デジタルが産業革命と認識し、真なるDXに突き進む場合、安定的で希望に満ちた道などはありません。コア事業の破壊と創造にしても、未来に本業を飲み込むDX特区も、10年のスパンで取り組む、茨のDXの旅なのです。

★関連記事
第1回 DX幻想を叩き斬る 前編
第2回 DX幻想を叩き斬る 中編
第3回 DX幻想を叩き斬る 後編
第5回 DX ROADMAP
第6回 DX DRIVE
第7回 DX 組織

植野 大輔(Daisuke Ueno)
早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程 単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマートに入社、改革推進室長、マーケティング本部長を歴任の後、デジタル戦略部長に就任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導。2020年3月、DX JAPANを設立。

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