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第3のレシピ クラウドCRM実装レシピ Salesforceその2

 この2か月でコールセンターをと取り巻く環境は一気に変わりました。従来のBCPは自然災害や拠点障害への対応として、センターの地域分散化という方向で語られてきました。しかし新型コロナ対応は「3密」というコールセンターの業態そのものへと向けられています。「業務時間の短縮」「職場での健康配慮」「不要不急の入電の抑制」など、できる範囲での対応は既に行われています。しかし、これから考えなくてはいけないのは今の延長線上での「次世代コンタクトセンター構築」ではなく、まったく新たな枠組みの「新時代コンタクトセンターの構築」です。在宅センターだけでなく10名程度の小規模センターを数多く持つという考えも浮上します。その中でキーとなるのは、やはり「クラウド」です。あらゆる機能がクラウド化に向かうわけですが、その中でもSalesforce Service CloudのようなCRMのクラウドが「新時代コンタクトセンターの構築」において重要な役割を担います。

 前回に引き続き谷川さんに登場いただき、今回はCRMのクラウド化に立ちふさがる課題について、実践的な助言を得たいと思います。

谷川さん写真

株式会社セールスフォース・ドットコム
Service Cloud第一営業部 
部長 谷川 尚之

前回4つのポイントがありました。

1)お客様の体験をどう変えるかという意識やイメージを持つこと
2)お客様との全てのタッチポイントを把握し、その情報はCRMに統合する
  こと
3)コンタクトセンターで働くエージェントや管理者の方々に優しい仕組み
  を追求すること
4)コンタクトセンター以外の部門の人や情報とシームレスにコラボレーシ
  ョンできる環境を作ること

今回は1)と3)に注目したいと思います。特にオペレーターの方がお客様と向き合うフロントラインで、どのチャネルであろうと、必要な情報が整理されていなければ満足な応対はできません。この基盤となる情報をCRM上に実装するために有効なレシピについて伺いたいと思います。

谷川さん
 「新時代コンタクトセンターの構築」においては、クラウドCRM化と並行しぜひ準備いただきたいものがあります。ナレッジの整備です。昔からコンタクトセンターでお客様満足度を高める重要なKPIとして”初回解決率”があります。ナレッジが整備されていると、無駄なエスカレーションや折り返しのコールを軽減できますので、短時間でスムーズにお客様を問題解決へ導くことができます。
 近年KCS(Knowledge Centered Service)という考え方があるのですが、これは端的にナレッジの作成権限を従来のスーパーバイザーやナレッジ担当からオペレーターの方へ移譲していくと言うものです。
 オペレーターの方々は問い合わせ時にナレッジを確認し応対していますが、ナレッジが存在していないものは自ら作成するという考え方です。そして新規にナレッジを作成したオペレーターの方を評価し、また多く作成したオペレーターの方には表彰する。こうすることで、『活きたナレッジ』を作る文化が醸成されていきます。
  Salesforce Service CloudではCRM画面上にナレッジがビルドインされており、最新のKCSv6にも認定されていますので、満足度の高いセンターの実現が可能です。

)スクリーンショット 2020-05-06 9.22.49(谷川

 加えて、ご活用いただいているユーザー企業に喜んでいただいていることとして、後処理時などで発生するルーティンワークのようなプロセスを一括処理するマクロと呼ばれる仕組みがあります。応対した内容を関連する部門へ共有し、お客様にアンケートへの協力メールを送るなどの手間を自動化させると言ったものです。これにより、オペレーターの方々には負荷軽減を、またコンタクトセンターの処理スピードが向上することで、お客様には繋がりやすいセンターを実現することが可能です。

スクリーンショット 2020-05-06 9.23.18(谷川)

 最後に、これからご要望が多くなるものとして、お客様毎個別に寄り添った応対すると言った、ベテランのオペレーターの方々が持っているTips(こつ)を仕組みで支援することです。定型的な応対ではなく、お客様に「自分にとって得になる情報を提供してくれた、または手当をしてくれた」との感情を持ってもらうことは、CX(お客様体験)を大幅に向上させると言われています。
 SalesforceのクラウドCRMには様々なお客様情報が蓄積されており、AIを活用しオペレーターの方にNext Best Action(推奨した方が良い内容)を表示する機能を提供しています。
 人員の定着が難しく、サービスによるお客様ロイヤリティ向上が求められる時代には、不特定多数への同一応対から個別化された応対をAIが支援する機能は、今後強く求められる機能ではないかと思います。

スクリーンショット 2020-05-06 9.23.43(谷川)

出水
 もう一つのポイントは先ほどの「後処理の自動化マクロ」にも関係するのですが。お客様からいただいた用事、要望をデータベース上への登録についてです。これは「Salesforceは入れたけれど?」で良く出会う課題だと思います。特にばらばらに構築された既存システムとの連携がボトルネックとなって、なかなか進まないという声を耳にします。日本独特の現象という声もあるのですがいかがでしょうか?

谷川さん
 まずシステム連携を考えるとき、なぜ当該データを連携させる必要があるか?目的を定めていただきたいと思います。その目的を定める基準はCX(お客様体験)もしくはEX(従業員体験)に寄与することなのか?そしてそれがビジネスにどの程度のインパクトを与えるかを明確化していく必要があります。
 失敗するプロジェクトとして、長年培ってきた文化や慣習をベースに、同じ内容を新しいCRMプロジェクトに全て踏襲させると言った例があります。
 新型コロナウィルスの感染拡大による影響でお客様や働く方々の環境はより一層目まぐるしく変わっている状況ですので、システム連携ありきではなく、一度リセットしてお客様、従業員の方の目線で業務を考え、それに必要なデータは何かを整理いただきたいのです。
 データによっては業務プロセスとも紐づいているものも多いと思いますので、連携するにあたって難易度、即時性、コストなどを勘案し優先順位をつけていくのが良いかと思います。優先順位によって、フェーズを分けて実装していくことは良くありますし、構築中に連携不要になることも多々あります。このような過程があることを前提で考えていくことが大事と思います。
 Salesforceは多様なシステムとのAPI連携の実績が豊富にあります。また最近では他システム(オンプレ・クラウド問わず)との連携を容易にするMuleSoftといったプラットフォームも提供しております。

出水
さらに実装の過程で、インプリ(implementation)をするためには専門のSIer(システムインテグレーター)にお願いしないと実装できないということがありますが、この点はどうしていったらよいのでしょうか?

谷川さん
 日本において、Service Cloudの実装のスキルを持った方が、お客様側にまだ多くないことは事実です。そのため初期のインプリに関しては経験豊富なパートナー様にご支援いただく方が、お客様の成功を早期に実現できるものと考えております。加えて、Service Cloudは年3回のバージョンアップがあり、全世界のユーザー様の声から生まれた多数の機能が都度追加されますので、最新の機能を活用いただく観点からも、理解いただいているパートナー様のご支援は有効と思っております。
 一方で中長期的な視点で申し上げますと、簡単な内容であれば、お客様で実装できることを目指していただきたいと思います。SaaSやクラウドシステムが享受する大きなメリットとして、急激な変化やニーズに素早く、柔軟に対応できることです。
 Salesforceでは、無償で楽しみながらスキルを習得いただくTrailheadという自己学習ツールをご用意し、Salesforceのスキルを持ったお客様を増やしていく活動も行なっておりますので、ぜひ皆様にも気軽にチャレンジいただければと思います。

スクリーンショット 2020-05-06 9.24.04(谷川)

 谷川さんのお話を聞いて、企業のシステム担当者、マネジメント層の方はクラウドCRMを「使いこなすための勉強」が必要と感じました。「ナレッジ作成はアウトソーサーに」「システム構築はSIer(システムインテグレーター)に」といった日本型から離れ、パートナーの支援を受けながら自ら行うことが大切でしょう。合わせてシステムに合わせた業務設計という考え方が、徐々にマネジメント層に浸透していくことが望まれます。

 次回は「新時代コンタクトセンター」のもう一つのキー、「BoT」導入のレシピです。「第4のレシピ BoT導入の最前線」と題し、コロナ対策でも注目を集めているLINE AI事業推進室長の飯塚さんに「BoT」の最前線を伺います。

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出水 啓一朗 (Keiichiro Demizu)
1974年信越放送入社。2003年WOWOW常務取締役、2006年スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)執行役員常務、2009年同社取締役執行役員専務兼マーケティング本部長を経て、2011年スカパー・カスタマーリレーションズ代表取締役社長に就任。2019年6月同社退任。

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