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第5回 コストセンターをプロフィットセンターに変える~CSと物流~

CSは苦情処理係ではない

 カスタマーサポート、コールセンター、コンタクトセンター、カスタマーサティスファクションとCSには様々な読み方がありますが、ここではカスタマーサポート全般と解釈ください。電話やメール、チャットによってお客様をサポートする業務です。
 CSは様々な後処理に関わることが多く、その中には苦情処理も多く大変な業務です。
 しかし実はCSこそ最も早くデジタルシフト出来るし、そのほうがCS部隊が楽になるだけではなく、全社の課題が見えて改善できるようになるのです。

私はCSには2つの役割があると常々思っています。
① お客さまの問い合わせに迅速に回答すること
② 様々な問い合わせや要望を定期的に経営や全社にレポートすること


多くのCS業務が①に振り向けられているのではないでしょうか。でも実際はその行動の結果である②がとても大事なのです。

CSの本当の指標は?

 迅速に回答する目安として、電話を頂いた際にすぐに出て対応し、忙しくて電話が取れない率(呼損率)を極力減らす事は大事です。また実際にお客さまとやり取りしてもすぐに回答出来ることばかりではありません。オペレーター自身が調べて回答する事、他部署に確認(エスカレーション)して回答する事なども多いはずです。その時には自分で確認出来る1次回答は30分以内、他部署確認の2次回答は6時間以内などと、お客さまに回答納期をお伝えして約束します。その遵守率も大事です。声の大きなお客さまを優先に対応、ではだめですよね。
 そして自社運営にせよ外部委託にせよ、年間予算を固定費で考える事が多く、“問い合わせ件数を減らす”か“対応時間を短くする”ことによってコストを抑えようとしています。予算を決める時には問い合わせ件数を売上件数の何%(変動費)と考えて設定する事が多いと思いますが、予算として決まった後は固定費的に考えてしまってないでしょうか。でも本当にそれがCS部隊が守るべき予算の考え方でしょうか?

全社の改善はデジタルシフトしたCSから始まる

 通話時間が長くても、問い合わせやクレームを頂いたお客さまがオペレーターの説明に納得し、また買い物を続けてくださるとしたらどうでしょうか。
 そのお客さまのこれまでの店舗やネットでの購買状況が見えていてロイヤル顧客である事がわかって、オペレーターに対応権限(一定金額までの決定権)が与えられるとしたらどうでしょうか。
 売上が伸びれば問い合わせは増えます。商品や販売、販促や物流など、他の部隊が何かミスをしても問い合わせは増えます。単純に総問い合わせ件数で管理するのではなく、問い合わせ件数の中身を見える化することが大事です。それが②となります。

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 例えば図1のように問い合わせ分類が出来ていて、対応する毎に分類を入れておけば後でどんな問い合わせが多かったか集計することが出来ます。そして週次月次と経年変化で比較することで、問い合わせの傾向も見えます。特に件数が多い分類や、著しく増加している分類については、図2のように関係部署と整理して解決していく流れも必要です。

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 この見える化が社内に定期的に出来ていれば、経営も他部署もCSの課題解決に協力しやすくなります。
 日々①の業務に頑張っていることは誰も否定しないでしょう。しかし②につないでいかない限り、周りは理解出来ないのです。きちんとデータで見える化していくことがCSにとっても大事なのです。最初は紙で、次にエクセルで、最後にはBIメニューでいつでもどこでも誰でもすぐに見れるようになるでしょう。
 見える化して自ら情報共有を続けていると、商品からは発売前の新製品に関する情報が、販促からはキャンペーン前の確認が、販売からは店頭で増えている問い合わせの共有が、物流からは悪天候やトラブルによる遅延情報が、CSのもとにいち早く集まってくるようになり、仕事がしやすくなるはずです。
 こうしてCSがお客さまの声を集めて件数や変化を基に適正に見える化する事で、会社の中の課題が見える化され、どの課題に今取り組むべきか、優先順位が見えてくるのです。
 そしてLTVを上げるオペレータが評価される指標に変わることで、より現場のモチベーションは高まるはずです。こうした見える化はデジタルシフトする事によって仕組みは構築出来ますが、あわせて①②をCS部門の目的と明言する事で、よりデータが的確に活用され、会社全体の改善・改革につながっていくのです。

物流はコストセンターじゃない

 同様に固定費予算のコストに縛られているのが物流です。またその総費用やコスト構造を経営や他部署が把握していない事も多いのです。
 物流の現場では、午前と午後早い時間はバイヤーが発注した商品の検品/入庫作業に追われ、それと並行して夕方にかけては、店舗向けの補充商品出荷と、通販でお客さまからご注文頂いた商品の宅配便による出荷に追われています。企業の規模によっては店舗と通販・ECで物流センターを分けていることもありますが、入庫と出荷に追われる状況は変わりません。

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 物流現場で一番困るのは、急に売上が伸びて出荷が増えたり、連絡なく新製品やセールのために商品部のバイヤーが大量発注する事で、倉庫内の格納場所が足りなくなったり、作業計画通りに手配した人員計画が意味をなさなく事です。
 もし物流部門と商品部門、販促部門が情報でつながっていたら、販売部門(店舗・EC)とつながっていたら、急増する入庫と出荷の事前予測が出来るのではないでしょうか。その結果、作業計画と人員計画を修正する事が出来ます。もっと掘り下げると、発注システムにおける自動発注(在庫が一定数を切ったら発注するシステム)やバイヤー、店舗発注の履歴データと、メーカー・卸からのEDI(電子受発注)経由での入荷予定(メーカー出荷日)データが見える化出来ていたら、という事です。出荷についてはECの受注状況や楽天やアマゾンでのセール情報、販促52週計画が共有されていて、過去セールによる売上見込みから計算された出荷件数を算出してデータで見える化出来ている、という事です。予想、ではなく直近データを組みあわせて10日前後の予測を正確に立てるという事です。私の経験では、この取り組みにより、一日の平均出荷量の3倍まで同じ物流センターで運用する事が出来ました。
 その結果、毎朝出社後に、その日の作業計画を変更し続けていた物流部隊はようやく計画的に動けるようになり、業務時間内で倉庫内の動線改善や従業員のスキルトレーニングなどに改善活動に取り組む事が出来るようになります。そして倉庫家賃などの固定経費以外の倉庫内作業費など、売上に連動して増える変動経費を他部署の予算と連動して組み上げ、必要な経費を確保した上で、より早い出荷や、物流量の変動に耐えうる物流部門を改善しながら作り出していけるようになります。こうした数字は売上高に対する物流費率の提示など、財務諸表に連動して全社に見える化され、コストセンターではなくプロフィット(利益)センターとして攻めの物流へと生まれ変われるのです。

次回最終回は、管理部門と経営戦略部門とのコミュニケーションについてお伝えします。

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逸見 光次郎(Kojiro Henmi)
三省堂書店、イーエスブックス(現セブンネットショッピング)、Amazon、イオン、カメラのキタムラ等で店舗とネット(デジタル)の現場を経験、その融合を推進。 現在はオムニチャネルコンサルタントとして独立。現場から経営まで、継続的な顧客満足と企業利益を重視した全体最適視点の可視化により、デジタル化に悩む小売流通企業の支援している。
著書:『デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』(翔泳社)

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