【メモ】「広告」の役割を限定させないために。

ネット広告をメインに取り扱っていると、「広告」の範囲を限定的なものにしてまう傾向が強いと最近思う。

クライアントの要望もあるために、ある意味仕方はないとは思うが、ネット広告の場合には売上に直結する効果を求めてプランニングするケースが多い。

そうすると、

・売上に直接的(あるいは間接的なリーチ)に効率的に直結する広告
(データからそう判断出来る広告) →良い広告、必要な広告、意味のある広告

という意識になるのはある意味避けられないとは思う。しかし、


・売上に直接的(あるいは間接的なリーチ)に効率的に直結しない広告
(あるいは、データにあらわれない広告)
 →悪い広告、不要な広告、意味のない広告

という意識を持ってしまうことは正しいのだろうか。

より成果を求めて行ったその結果、売り上げに直接(間接)に関与しない広告は一切否定してしまうことは正しいのだろうか。

たとえば、株式会社東芝が2010年に新聞に掲載し、各種の広告賞を受賞した「一般白熱電球製造中止広告」という広告がある。
http://www.pressnet.or.jp/adarc/pri/pdf/NAP2010_02.pdf

これは「日本国内では白熱電球の製造を中止し、LED電球へとシフトしていく」というメッセージであり、企業の姿勢を伝えるとともにLED電球のシェア拡大といった販売にも貢献をした広告である。

シェア拡大や売り上げにも貢献をしたという意味で、ROI視点でも非常に成果をもたらした広告であると言える。この広告は媒体としては朝日新聞、日経新聞といった全国紙を中心に掲載されたのであるが、その中で一地方紙である下野新聞にも掲載されている。

企業メッセージの伝達、売り上げシェア拡大の視点で見た場合、生活者へのリーチを考えれば朝日新聞と日経新聞への掲載だけでよいのではと思われるが、なぜ下野(しもつけ)新聞にまで掲載したのだろうか?

下野新聞は栃木県を主な配布エリアとする新聞であるが、実はそのエリアには今まで白熱電球を製造していた東芝ライテック社の鹿沼工場がある。つまり、下野新聞への掲載というのは、いままで白熱電球の製造や販売にかかわってきたその地域社会、地域経済に対しての感謝のメッセージであると考えられる。さらには、その工場に勤める従業員、その家族、OB、さらに彼らの属する様々な地域コミュニティーに対してのメッセージであり、リーチや商品売り上げ、効率とはまた違う視点での掲載意図があると考えることができる。

企業活動等というものはその企業だけで成立しているのではなく、企業の立地している地域コミュニティーや従業員、家族などさまざまなリレーションのもとで成立している。
エンゲージメントといわれるものも、その企業と生活者との間にだけあるものではなく、時にはその企業と関係性を持つ地域社会や様々なコミュニティーなど、いろいろなエンゲージメントを考えて行く必要もあるだろう。

広告は様々な意図を持って実施されるが、その目的は多くの場合、売上拡大、シェア拡大、ブランド認知であることが多い。
しかし、何かのKPIから外れた広告を不必要な広告といっさい否定するのではなく、様々な角度からコミュニケーションを考えて広告の可能性を広げていくことは常に考えておく必要はあるだろう。

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