小川進『QRコードの奇跡』東洋経済新報社、(2020)
QRコードは株式会社デンソーが開発をしたことは知っていた。この本を読む前までは、歴史的にはずいぶんと前に開発されていたんだが、近年モバイル決済のキーとして取り上げられ爆発的に普及したという認識であった。さらに、「もともとはコードリーダーの販売ビジネスに注力するためにQRコードを普及させたのだけど、結局コードリーダーの方は大したビジネスにならなかったんだよね」なんていう居酒屋での知ったか話をどこかで聞きかじっただけであった。
で、そんなイメージがこの本を読んで思いっきり吹っ飛び、大学院で技術経営を学んだものとしては読んでて胸熱になる内容であった。
「日本ではイノベーションは起きにくい」「日本のビジネス環境はイノベーションを起こしにくい体質なんだよ」なんていう人には、ぜひ読んで欲しい。
ここに書かれていることは、まさに「日本型のイノベーション」であり、さらに示唆に富んでいると感じられるのは「ユーザーイノベーション」の視点も垣間見られることである。
どういうことかというと、デンソーはトヨタのグループ企業であり、本来は自動車部品メーカーである。自動車部品メーカーとしてはQRコードの開発は本筋の開発ではなく、トヨタの一取引会社として「業務プロセス改善のためのQC活動の一環である」とも見ることもできるだろう。取引相手との業務プロセス改善であるがゆえにユーザーイノベーションの性質を持ち、さらに本来のコアとなる事業価値から離れていつつも、本筋への業務プロセス改善にも寄与するという絶妙の投資領域になってるのだ。
加えて、それが日本型と言っていい所以はその開発プロセスであり、地道な改善とトライアンドエラーの繰り返しという、いわゆる日本型のモノ創りのプロセスが最終的にイノベーションを生んだと言えるのではと感じている。
様々な立場のビジネスマンにお勧めしたい。