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シネマ飛龍革命 おもてなしリベンジ映画『PIG/ピッグ』

キアヌ・リーヴスは愛犬の為、悪党相手に銃を撃つ。

分かる。
めっちゃ分かる話である。


誰しもが異論を挟む余地はない。
じゃあ、ニコラス・ケイジはどうなのか?
ニコラス・ケイジは愛豚の為、悪党相手におもてなしをする。

え⁉︎
何て⁉︎


そんな一瞬誰しもが耳を疑ってしまうおもてなしリベンジ映画がニコラス・ケイジ主演の『PIG/ピッグ』だ‼︎

ノマドレベルの高いニコラス・ケイジと愛豚



山奥で人を遠ざけ愛豚と暮らす、トリュフハンターのロブ(ニコラス・ケイジ)。
たまに来るのはトリュフの買い手アミール(アレックス・ウルフ)だけ、ソーシャルディスタンスを空けに空けまくる生活を送っていた。
だが俺には豚がいる!
…という気持ちがあるのかないのか分からないがノマドを極めるロブであった。
しかし、まさかの事態が発生してしまう。
なんと謎のならず者集団に愛豚を攫われてしまったのだ。
いつもは無口のロブも、コレには黙っていられない。
豚を奪ったのは、どこのどいつだ⁉︎
己の愛豚を取り戻すべく、かつて住んでいた街へ舞い戻るロブ。
だが、それは今まで己が捨てていた過去との対峙を意味していたのだった。

愛と哀しみのニコラス・ケイジ

奪われた豚に対してだけでなく、自らの過去にも落とし前をつけていく本作。
ここ最近の己に持たれているイメージをニコラス・ケイジが逆手に取った作品だ。
グラウベ・フェイトーザの放つブラジリアンキックばりに変則的な展開で観客の期待を裏切ってくれる。

こんな感じ


ともすれば、あらすじを見て「ああ、はいはい。いつものニコラス・ケイジね~」と半笑いで済ますものがいるかもしれん。
かくいう俺も彼氏のアグレッシブな演技を期待していたフシがある。
だが、そこは演技の鬼ニコラス・ケイジだ。
はしゃいだ作風を期待する人に対し、ゴリゴリのシュート(真剣勝負)を演技で仕掛けてくる。
ニコラス・ケイジの真骨頂に目を見張ってしまうだろう。
そんな彼に応えてなのか、製作側も照れ一切なしでシリアスに描き切っている。
何より、今までニコラス・ケイジを見続けてきた人からすれば「彼にしかできない!この役は!!」となるキャラクターを演じているのが見逃せない。

思えばメジャー作品で一枚看板を張っていたものの、気が付けばVシネ路線を爆走したニコラス・ケイジ。
本作のロブも名声を捨て、人里から離れて山奥で孤独に暮らす姿と何処かオーバーラップしてしまう。
あるいはゴシップ雑誌に取り上げられ痛いセレブとして叩かれたように、劇中でも物理的に殴られまくるが、彼は終始黙って耐える。
これが大切な恋人や可愛いペットの為では成立しえない。
人によっては醜いと蔑まれる豚の為だからこそ、グッと来てしまう。
アミールにも「何故ここまでするの?」と聞かれる訳だが、それに対してニコラスケイジは、こう答える。

愛さ。


もう観ている俺たちも納得するしかない。
メディアのインタビューでも「どんなに低予算の作品でも全力で演じてきた」と語ったニコラス・ケイジ。
ここ最近の主演作品を隠喩したのが劇中の豚だったのではなかろうか…と思えてしまう。
いや、薬物をやってるわけじゃないですよ!
ただニコラス・ケイジを過剰摂取しているだけです!
おまわりさん!

それはそれとして、今まで半笑いでニコラス・ケイジを「ニコケイ」なんて語っていた人にこそ、見てほしい作品だ。
お前たちにとってはタダの醜い豚かもしれん。
だが俺にとっては大事な豚なんだ!
…そういわんばかりに全力で奔走するニコラス・ケイジの姿を笑う奴は表に出ろ!!
俺は寝ている!!
家で!!

他人から見たら馬鹿げたことに見えるかもしれんことを全力でやる大切さ。
世間の目やら周囲の評価…意味があるとか、ないとか・・・そんなしゃらくせえ二元論に囚われないニコラス・ケイジの情念を感じさせてくれるだろう。特に高級レストランでの「おめーは本当に自分の人生を生きてるのか?」というニコラス問答は必見。

海原雄山の「このあらいを作ったのは誰だ⁉︎」を彷彿とさせるシーン



他人の目を気にして本当の自分を見失いがちな我々にもブッ刺さる(ある意味で)バイオレンスな演技だ。

最初のあらすじから予想できない展開を経て、なんやかんや逃げ続けた過去へリベンジを果たすロブ。
瓢箪から駒と言うが、豚を奪還する流れから、まさかニコラス・ケイジの自分探しになるとは夢にも思わなかった。
折り合いをつけるのはニコラス・ケイジだけにとどまらない。
『ヘレディタリー継承』や『オールド』など、ここ最近映画に出演すると劇中の家族が不幸になりがちなアレックス・ウルフ演じるアミールも、彼と一緒に行動するうち、気まずかった親父との関係に向き合っていく相互作用を生んでいく。
ニコラス・ケイジに限らず、何かをこじらせた人間が希望を持てる映画に仕上がっている。

家族不幸になりがち!

『リービングラスベガス』『救命士』そして本作『PIG/ピッグ』を後世に残したい3本としたニコラス・ケイジ。
3本の中でも特に『PIG/ピッグ』は彼自身の映画人生が透けて見える。
アッパーな演技も良いが、こうしたダウナーな演技での喜怒哀楽表現も彼の持ち味というのを改めて我々に気づかせてくれる作品ですよ。

ニコラス・ケイジのおもてなしを見逃すな!

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