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【連載小説】新説 桃太郎物語〜第五章


【第五章 “絶望と挫折”の巻】

桃太郎一行は、各地で発生している鬼の悪行を、ひとつひとつ解決しながら旅を続けていました。
そして、少しずつ鬼の情報を得ていく中で、大変重要な事柄を知ることになります。

鬼が住う巣窟…

はるか鬼門の方角に浮かぶ島…

…その名は…

“鬼ヶ島”

桃太郎一行は、今まさに明確な目的地に向けて動き出したのでした。
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鬼ヶ島を目指し旅をしていた桃太郎一行は、峠の茶屋で一休みしていました。

そんな中、猿が徐に、桃太郎に尋ねました。

『…なあ桃太郎。オイラずっと気になっていたんだけどよぉ。桃太郎の首筋にある星形の痣…。そりゃいったい何なんだ??』

それを聞いた桃太郎は答えました。

『…これは、僕が桃から産まれた時からあるらしいんだ。おじいさんとおばあさんがそう言ってたっ。』

雉と犬も桃太郎の首筋を覗き込みました。

『あらっ?!私は気がつかなかったけど、ほんとに綺麗な星形をしているのね。…でもなんかかわいいわねっ?!?』

雉がそう言うと、桃太郎は少し照れた様にはにかみました。

桃太郎一行がそんな取り止めもない話をしていると、茶屋の主人からある話を耳にします。

「旅のお方、実は妙な話がありましてね…。この近くにある峠の村で、最近子供が次々と消える“神隠し”が頻繁に起こる様になったらしい…。村人は口々に、鬼の仕業だと言っているみたいなんですよ…。」

それを聞いた桃太郎一行は、次の目的地をその峠の村に決めるのでした。

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峠の村に着くと、まずは村人達に話を聞くことにしました。

数多くの話を聞いてみたところ、全容はこの様なものでした。

狙われるのは、年端も行かない子供ということ。
頻度は、三ヶ月前より、新月と満月の夜にだけ起こるということ。
どこかに出かけて帰ってこないのではなく、寝床で寝ていたはずが、朝になると忽然と姿を消していること。
心配して親が一緒に寝ていたとしても、気付けば子供がいなくなっていること。
親は口を揃えて、不審な音や気配などを感じていないこと。

そして…

…何よりも奇妙なのは…、

着ていた服は残ったまま、子供の肉体だけが忽然と姿を消しているということ…。

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宿に戻ると、猿がおもむろに言うのでした。

『…桃太郎…、やっぱりこんな芸当できるのは、鬼の仕業としか思えねぇよなっ?!?』

『状況から考えるとその可能性が高いだろうね…。問題はどうやって次に襲われる子供を特定するか…。』

『あいやわかったっ!?!オイラいいこと思いついたぞっ!!!村の子供を全員同じところで寝かせればいいんじゃないかっ?そしたら見張りが一処ですむだろっ?!?』

『馬鹿ね、猿は…。そんなことしたら、鬼が警戒して出て来なくなっちゃうじゃない…。』

雉がそういうと、猿は肩を落としました。

『明日がちょうど新月だからなんとかしたいけど…。僕らが手分けしても四人しか見張れないし…。室内で行われてるということは雉が空から見張るわけにもいかないし…。音や気配がしないってことは犬の耳や鼻で感じ取ることもできないし…。』

桃太郎は頭を抱えてしまいました。

その時です、今まで黙って話を聞いていた犬が静かに口を開きました。

『…俺にいい考えがある…。』

三人は同時に犬を見遣りました。

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次の日の新月の夜

桃太郎一行は、村の真ん中にあるお堂の前で、犬を中心に集まっていました。

『いやぁ〜!?!でもまさかこんないい方法を犬が思いつくなんて思ってもみなかったなぁ〜??!!?』

『しっ!!うるさいわよ猿っ!!犬が集中できないじゃないっ!!!』

雉は小声で猿を叱るのでした。

犬が考えた作戦はこの様なことでした。

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時は戻って前日の宿

『犬っ?!一体どうやって次に襲われる子供を特定できるっていうんだいっ??』

桃太郎は犬に尋ねました。

『…俺の耳はどんな些細な物音も、しっかり集中していれば、聞き逃すことはほとんどない…。』

『だーかーらーっ?!!相手は、音はもちろん気配まで消しちまうやつなんだぞっ!?!いくらお前の耳が凄くても、ないものは感じ取れないだろうがっ??!』

猿は呆れた様に言いました。

『…違う…。奴の音を聞くんじゃない…。音がないなら作ればいい…。』

『…???どういうことっ??』

三人は首を傾げ、犬の次の言葉を待ちました。

『…子供たち全員に鈴をつける…。』

『…っ?!?!』

『そうかっ!?!鬼に音や気配がなくても、さらう時に絶対に子供には触れるはずだっ!!その時子供が全く動かないっていうことは考えにくいっ??!!だったら鬼じゃなくてっ、子供に音を出してもらって、その音を聞けばいいってことかっ??!?!』

桃太郎は興奮気味に言いました。

『それだっ!?!?こりゃいけるぞっ?!?!!』

『いい考えっ!!さすが犬だわっ?!?!』

猿も雉もまた興奮気味に言うのでした。

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再び新月の夜

見張りを始めてから三刻(6時間)ほどが経過していました。

『…ふぁ〜〜…。。。いつになったら動きがあるんだろうなぁ〜…。。。オイラ眠くなっちまったぜぇ〜。。。』

猿はあくびをしながら言いました。

『何も動きがないことに越したことはないじゃない。そうすれば被害を受ける子供は出ないんだから。』

雉は言いました。

『確かにそうだけど…。それだと根本解決にならないからなっ…。』

桃太郎が呟いたその時でしたっ!!

『…?!?静かにっ??!』

犬が何かを感じ皆に知らせました。

『…これは………、…鈴の音……。。。…こっちだっ!!!!!』

そう言うと犬は素早く駆け出しました。

桃太郎、猿、雉は急いでその後を追いかけました。

時間はちょうど丑三つ時でした。

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犬が導いたのは、村はずれにある大きなお屋敷でした。

『犬っ?!確かにこの中から鈴の音が聞こえたのかっ??』

桃太郎は犬に問いました。

『…間違いない…。急ぐぞっ!!』

犬はそう言うと屋敷の中に駆け込み、鈴の音がする部屋に急ぎます。

『…あそこだっ?!?』

四人は勢い良く部屋の襖を開けるのでした。

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部屋に入った一行は、鬼の所在を探しましたが、そこに鬼はいませんでした。
鬼がいないどころか、部屋の真ん中には、寝息で布団が規則的に上下し、すやすやと眠る子供がいるだけです。

『…!?なんだ…っなんもいねぇじゃねぇかっ?!?気張って損したぜっ?!?』

『でもよかったじゃないっ。何にもなかったんだから。でも珍しい…、犬が音を聞き間違えるなんて…。』

猿と雉は言いました。

その時…

突然部屋の中に鈴の音が聞こえてきました。
その鈴の音は、寝ている子供の方から聞こえてきます。

『…っ!?!?!』

一行は子供の方を一斉に見遣りました。猿がいいます。

『…子供の様子…何かおかしくないかっ…?!?!』

そうです。子供の寝息と思っていた布団の上下ですが、よく見るとだんだん動きが早くなり、上下の幅も大きくなっていきます。

意を決した桃太郎は、恐る恐る子供に近づき、一気に布団を剥ぎ取りました。

『…うっ?!?!?!??』

そこにあったのは、百…、いや…千を超えるほどの青白く光る糸が、無数に刺さった子供の姿でした。その糸は子どもの血から骨から皮までも、どんどん吸い込み喰らっていました。

桃太郎は刀を抜き、その糸に一閃見舞うと、糸は切れ、襖の向こうに消えてゆきます。

『…っ?!待てっ…?!?!』

桃太郎は糸を追い、襖を超えて屋敷の中庭に出るのでした。


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三人も桃太郎の後を追い、中庭に出ました。

そこに立っていたのは…。

…指から青白い糸を出して、静かに佇む青い色の鬼でした。

四人はその青い鬼を取り囲み、戦闘態勢を敷きます。

猿は大きな声で言いました。

『やいやいっ?!?お前が神隠しの犯人だなっ?!!遠くからその気持ちわりぃ糸で、子供の精気を吸ってたから物音や気配がなかったのかっ??!ましてや骨から皮まで吸える糸って…っ?!?どんだけ趣味悪りぃーんだっ?!?!』

『…こんな年端もいかない子供ばかり狙うなんて…。…最低…。』

『…っ…許さんっ…っ。』

雉、犬も憤慨します。

『我が名は桃から生まれた桃太郎っ!!鬼退治の旅をしているっ!!これ以上子供たちを襲わせないっ!僕たちが今ここでお前を成敗するっ!!みんなっ?!?いくぞっ!!!』

桃太郎は怒りを込めて言うと、刀を振り上げました!!

…シュン…。

『…っ!?!?!』

…その刹那…

四人は風切り音と共に…

…青い鬼から“籠の目状の青白い光”が発せられるのを見ました…。

桃太郎は…

…視界が歪み…

紅蓮に染まる闇の中に…

…ゆっくりとゆっくりと…

…落ちて行くのでした…。。。


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…………っ、

………んっ……

………………ん……んっ………

『………はっ!?!』

桃太郎は、意識を取り戻しました。起き上がろうとすると全身に強烈な痛みが走り、指の一本動かすことも困難です。そして周りを見渡すと、どうやらそこは療養所の様です。

「気がついたかっ??」

『…あっ…あなたは…?』

「わしゃこの療養所の医者じゃよ。」

そこには桃太郎のおじいさんほどの歳の老人が立っていました。

『…僕らは…鬼を…。』

「お主たちは、村外れにある屋敷の庭で倒れていたんじゃ。どうやられたかは知らんが、全身、籠の目に深い裂傷を負ってな。屋敷の主人が発見して行ってみると、そりゃ酷い有り様じゃった。すぐに手当てをしたが、こりゃ助からんじゃろうと思おとうたが…、お主ものすごい生命力じゃな。」

桃太郎は驚愕し、医師に尋ねるのでした。

『…他のっ…?!…他の三人はっ??!?』

「なぁ〜に、他の三人もまだ意識は取り戻してはおらんが、お主同様驚異的な回復力で、命に別状はありゃせんよ。ほれっ、みてみい。」

隣を伺うと、全身包帯だらけの三人が床に伏せていました。

「屋敷の子供も残念ながら後遺症は残るが、間一髪命は助かったようじゃ…。お主たちのおかげじゃよ。…何があったかは知らんが、とりあえずもう少しここで養生することじゃ。」

『…ありがとうございます…。』

…。

『…今まで色々な鬼と対峙してきたが…、あそこまでの強さは見た事がない…。…何をされたかも何もわからなかった…。僕たちは…、本当に鬼退治なんかできるのだろうか…。。。…正直…圧倒的すぎる…。。。…畜生…、畜生……。。。』

桃太郎は、生まれて初めて、圧倒的な“絶望感”と“挫折感”を味わい…

いつまでもいつまでも、布団の中で静かに咽び泣くのでした…。

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