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ゲーム屋人生へのレクイエム 73話

会社崩壊状態からの再建を命じられて社長代理になって奮闘したころのおはなし

「すごいじゃないですか。社長代理になりましたね」

「ちっともすごくない。社員は俺ひとり。何もかもひとりでやらなきゃならない。2週間の引継ぎで保険名義変更に銀行口座の代表名義変更、アウトソースしている経理会社担当と会ったり、経理システムの使い方を覚えたり、いくつか進行中のプロジェクトの引継ぎ、広告会社との契約内容変更などなどやることが盛りだくさんで大忙しだったよ。

そして2週間後に最後の給与明細を受け取った彼らは会社から去っていったんだ。しかし社員俺一人でも会社は支払うものは支払わなければならない。家賃、電気代、電話代、インターネット料金、健康保険に社会保険。

収入はほとんどないから預金を取り崩してこれらを支払ってね。社長が辞めたくなるのもわかるほど会社の財務状況はひどいものだったよ」

「どうして収入がないんですか?」

「会社の運転資金のほとんどを日本の本社からの送金に頼っていたんだ。これは借金だから返済しなければならない。ゲームを売って入ってきたお金のほとんどを返済にまわしていたからキャッシュフローはほぼゼロに等しい状況だったんだ」

「それでも社員を雇ったんですか?」

「雇わないことには前に進まないからな。まずは俺のアシスタントを雇うことにした。やることが多すぎてひとりではとても手が回らないからね。

本来なら募集広告を出したり、人材派遣エージェントを使って人を探すんだけど、なにせお金がないからいろいろ伝手を使って探したんだ。

そうしたらゲーム業界での経験はないけどバイリンガルでゲームが三度の飯より好きな若いのを見つけてね。さっそく面接して採用したんだ」

「ゲーム業界未経験でも大丈夫なんですか?」

「あの時に俺に必要な人材は 秘書みたいなポジションで何でも頼める人だったんだ。

ゲームのプロジェクトはすべて保留になったからまずは会社の再編成を優先しなくてはならない。

社長は本社の社長が兼任して、実質的な社長と人事総務はとりあえず俺がやって、将来はだれかを雇うことにした。経理はアウトソースしているから雇わなくてもいい。プロダクトマネージャーはプロジェクトが再開されるまではいらない。

でもセールスは急いで雇わないといけなくって四方八方手を尽くして探したんだ」

「どうしてセールスを急いで雇わないといけないんですか?」

「それはね、販売継続中のゲームがいくつかあって追加の注文や値引きの交渉とか、待ったなしの仕事があったからだよ。

今はどうか知らないけど、あの当時のゲーム業界ではセールスは直接小売りとやり取りすることはまずない慣習だったんだ。小売りと会って商談をするのは全米に点在する販売代理店契約を結んだ専門業者だ。セールスレップ(Sales Representative)って言うんだけど、彼らが顧客から注文を取ってきたり、値引きの交渉をしたりするんだ。この代理店たちとやりとりするのがセールスの仕事だよ」

「どうして直接売らないんですか?」

「そうね。いい質問だね。実は俺もはっきりとした答えはわからない。

昔からそうなっているからって思う節もある。たぶんだけど、全米を相手に直接セールスするとなると複数のセールスを雇うことになるじゃない。アメリカは広いからね。

それでセールスの給料は結構高い。雇ってしまったら仕事があってもなくても給料は払わないといけない。ゲームを一年中売るほどたくさんタイトルがなければセールスに払う給料はもったいない。

だがセールスレップは売り上げに対する歩合制だから売れたら払えばいい。これらを総合的に考えて、セールスレップを雇うほうが安くつく、ということなのかと俺は推察するよ。

でもね、70話でも話ししたけど今じゃオンラインでゲーム売るでしょ。

リンクだ。

オンラインで売るとセールスいらないんだよね。オンラインは値引き、返品が無いだけじゃなくてセールスも雇わなくていい。もうひとつすごくいいことがあるけど、1600文字を超えてもうそろそろ切り上げないといけないのでまたいつかネタにしよう」

「そうですね。最近話が長いですからね」

「PV伸びないのはそのせいかなあ」

「またはじまったPV病」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません


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