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ゲーム屋人生へのレクイエム 79話

商談で仕入れ値を教えるという前代未聞の暴挙を成し遂げたセールスをどうすべきか悩んでいたころのおはなし

「注文の締め切りの日が迫ってきたんだけど受注はさっぱりダメでね。目標の半分も無かったんだよ」

「セールスの責任ですかね?」

「いや、以前話したことがあるでしょ。いいゲームは勝手に売れるって。30話だ。ゲームに限って言えばセールスは注文を集める仕事で売り込む仕事ではないというのが俺の主張だ。

セールスが仕入れ値をバラしたけど、うちは値下げをして売ることは無かったのは不幸中の幸いだった。しかし注文の数が全く伸びない。だがこれはセールスの責任ではない」

「じゃあ誰の責任何ですか?」

「俺の責任だ。マーケティングの失敗だよ。ターゲットを明確にできていなかったと思う。

XBOXのユーザーにドリキャスからの移植版で文化もジャンルも違うタイトルを売ること自体に無理があったと思う。そして宣伝も十分ではなかった。時間をかけてマーケットに浸透させることができなかった。少ない予算だったから仕方がない部分はあるけど、それにしてもひどい受注の数だったよ。惨敗だ」

「それからどうなったんですか?」

「本社に受注状況を報告したら、プロジェクトのキャンセルを言い渡された」

「発売しなかったんですか?」

「しなかった。こんな数では発売すること自体が赤字になる。何もしないほうがまだマシだったんだよ。

これまでつぎ込んだ契約金や移植費、宣伝広告費のすべてが無駄になる。かと言って発売すれば元を取るどころか更に大きな経費が発生する。ディスクの製造コストとマイクロソフトに支払うロイヤリティだ。

プロジェクトがキャンセルされたことはこれまで感じたことが無いほど大きなショックだったよ。

自分の力量の無さを思い知らされた。読みが甘かった。

自分が移植作業に深く関わり過ぎて客観的にマーケティングをできなかったんだと思うよ。

自分の子どもは誰よりもかわいいということだろうな。売れて欲しい、売れるに違いないって思いこんでしまったんだ」

「このあとどうなったんですか?」

「本社の通達でゲームに関わる全ての活動を中止にした。ライセンス交渉も、商材探しも全て中止だよ。

会社の収入はゼロになる。このままいけば会社は閉鎖して全員解雇になるのは間違いなかった。

だから何とか自分たちで生き残る方法は無いかと模索しはじめたんだよ。

でも資金はゼロだ。ゲームの商売しかやったことない俺は他の商売は何も知らない。知識も経験も資金もない。これでゲームオーバーだと思ったよ」

続く

このはなしフィクションですよ

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