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ゲーム屋人生へのレクイエム 81話

会社の金を持ち逃げしようと企てたセールスをクビにするころのおはなし

「セールスに解雇を宣告する前日にアシスタントにそのことを話したんだ。彼が出社したら俺が彼の部屋に入って解雇を伝える。万が一彼が暴れたり騒いだりしたら、すぐ警察に電話できる準備をしておくように頼んだんだ」

「警察を呼ぶって、そこまでしなければいけないんですか?」

「ここアメリカでは珍しいことではない。社員の解雇も日常茶飯事だから暴力沙汰に発展することだってありえる。そういう時の為にあらかじめ警察を呼んで別室に待機してもらったりすることもあるし、警察に対象者をエスコートして社外に連れて行ってもらうこともある。解雇に逆上した社員が銃を乱射する事件が実際に起こっているくらいだから用心するに越したことはないんだよ」

「解雇するのってずいぶん危ない事なんですね」

「うむ。慎重に事を運ばなければならない。まずは秘密厳守。最低限の人間にしか解雇の事を知らせない。どこでどう話が漏れるかわからないからね。

解雇するときは解雇当日に本人を会議室へ呼び出してその旨を伝えて人事担当と一緒に本人のデスクに直行させる。人事担当以外にも警備の人間が付くこともある。

人事担当の立ち合いのもと、デスクの私物だけを箱に入れさせて持ち帰らせる。パソコンとか一切触らせないで社員証や鍵などを返却させて社外へ連れていく。これがアメリカでは一般的な解雇の方法だよ」

「お別れのあいさつもできないんですね」

「できない。非情に見えるが、こうすることで会社のリソースを守るんだ。パソコンにアクセスしてデータを消したりどこかへ転送したりできないようにしているんだ。会社の備品を盗んで持ち帰ることだってありうるからね」

「犯罪者みたいな扱いですね」

「いろんなひとがいるからな。会社としても不測の事態に備えておく必要があるということだよ。

俺が勤めた別の会社でも社員を解雇したことがあったんだけど解雇されたことに激昂して社長室に乗り込もうとした社員がいたよ。周りに制止されたけど大声で叫んだり暴れたりしたので警察を呼んでつまみだしたことがあったよ。

不思議なもので警官が目に入った瞬間におとなしくなるんだ。我に返るんだろうな。警官相手に暴れたら手錠をかけられて留置所へぶち込まれるってわかるんだろうな」

「警察を相手に勝ち目はないですもんね」

「うむ。それで、そのセールスに解雇を宣告する日の朝が来たんだ」

続く

フィクションですぞ

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