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ゲーム屋人生へのレクイエム 83話

セールスをクビにしたものの次は自分たちがクビになると凹んでいたころのおはなし

「セールスをクビにしたでしょ。次は自分たちの番だって毎日戦々恐々だったんだけど、本社のMさんから俺たちにぴったりの仕事があるって連絡が来たんだ。てっきりクビの連絡かと思ったから驚いたよ。首の皮一枚つながったギリギリのところでMさんが仕事を見つけてくれたんだよ」

「どんな仕事だったんですか?」

「日本語のゲームのテキストを英訳する仕事だったんだ。リリースはキャンセルになったけど面倒な英訳を自分たちでやったことがあったじゃない。77話と78話だな。

あの仕事の実績をMさんがあちこちのゲーム会社にアピールしてくれて、移植業務の仕事を受注してきてくれたんだよ。ゲームを販売する仕事から移植業務を受託する仕事に切り替えようってMさんからの提案だったんだ」

「ゲームの販売会社じゃなくなったんですね」

「そうだ。ゲームのマーケティングはもうできなくなった。残念だったけどゲームを販売するにはこの会社の規模ではあまりにも投資のリスクが大きすぎる。

これからは自分の身の丈に合った商売をしなければならない。そこでゲームの移植の商売ならば経験もあるし、投資もほとんど必要ないって考えたんだ。

問題は安定した受託ができるかどうかだったけど、とにかく実績を積んで少しでも受託に有利になることを優先したんだ。あの当時は目の前にある仕事なら何でもやったよ」

「どんなゲームの移植だったんですか?」

「最初に受託した仕事はサッカーチーム経営シミュレーションゲームの英訳だったな。シミュレーションゲームはとにかくテキストが多い。

俺もアシスタントのKもサッカーには興味なかったから英訳には手間取ったよ。専門用語が多くてね。この時の英訳はMさんも手伝ってくれて、難しい専門用語をJリーグの事務所に問い合わせて調べてくれたりもしたな。

このあとの移植は漫画が原作のボクシングゲームの移植だったよ。これもシミュレーションゲームでどうやってボクサーを育てるかというゲームだった。サッカーの移植と同じで専門用語にまた頭を悩ませられた。

もうしばらくシミュレーションゲーム移植は勘弁してほしいと内心思ったけど、贅沢を言う余裕はない。会社が潰れてクビになるくらいなら何でもやるぞって自分に言い聞かせてがむしゃらに仕事を進めたんだ。

こんな感じで規模の大きな移植から携帯ゲームの英訳まで途切れることなくプロジェクトが続いてすっかり移植専門の会社に衣替えしたんだよ」

「ギリギリでゲーム業界にいる感じですね」

「毎日が必死だったよ。次の仕事があるのかどうかは受託するまでわからない。不安は常にあったけど仕事の忙しさでなんとかそれを書き消そうってしてたよ」

続く

フィクションです



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