ゲーム屋人生へのレクイエム　22話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。なんとなく入社したゲームメーカーで工場勤務だった男がアメリカ子会社出向から帰任してからのおはなし。

「ちょっとブラジルへ行ってきてくれ」

「それ、どっかで聞いたことありません？」

「そうだっけ。上司の部長にそう言われてさ。えっ？て思ったよ。アメリカから帰ってきたばっかりなのにどういう事って思ってさ。それで、事情を聴いたらアメリカの子会社、俺が出向してた会社ね、ここがブラジルのゲームの展示会に新製品の展示をすることになったけど、対応できる技術者がいなくって、まあ当然だよね、技術者全員帰任させて現地のスタッフはクビにしたんだから。それで俺にブラジルへ行って展示会の準備やら撤収やら対応してこいって話になったわけよ。まあ、日本に居ても何もすることなかったし、ちょうどいいやって出張することになったよ」

「それって帰国されてからどのくらい経ってたんですか？」

「ひと月半かなあ」

「戻ってすぐじゃないですか」

「そうなんだよ。帰任をもうちょっと伸ばせばアメリカからブラジルへ出張すればいいだけなのに、わざわざ日本からアメリカへ行ってそれからブラジルって、金がもったいないって思ったよ。今から思えばそういう無駄がいっぱいあった会社だったよ。古くて大きい会社ならではかな。無意味でも慣習とか慣例とかを大事にする会社だったと思うよ」

「それでブラジルへ行ったんですか？」

「そう、まずアメリカに行ってさ。俺が帰任した後に会社は引っ越ししててさ。それまでの大きな建屋を引き払ってすごく小さい事務所になってた。30人くらいいた社員は６人くらいになってたよ。俺の面倒を見てくれた副社長は会社を辞めて独立して自分でゲーム機販売の会社を経営してたよ。

アメリカに数日滞在したあと、セールスマネージャーと社長と一緒にブラジルへ行ってさ。展示場には日本のゲームメーカーがでかいブースを構えててさ。有名な会社はみんな出展してたよ。でもね、そこで聞いた話はブラジルの景気が悪くなってるって話でさ。ほら、前に話したデノミで金銭感覚がおかしくなって消費が増えたって話。やっとみんな何かおかしくねえかって気が付いたらしくてさ。以前のようにモノが売れなくなってきたって噂しててさ。出展してた他社のゲーム会社のセールス達も困惑してたよ。景気が良かったのは２年前まででその時にブラジル進出に消極的だった日本の本社が今になって進出を決めて、対応が遅すぎるって。で、展示会はそんな感じで盛況っていう感じはなかったな」

「展示会では機械は売れたんですか？」

「商談成立ゼロだったよ。展示した機械を利益ゼロで売っぱらった。ブラジルから送り返す予算無いし。やっぱり景気悪いんかなって思った。展示会の後片付けを済ませて、そこからはセールスに付きあって現地のお客さんを訪問してさ。

そこでブラジルで会社経営してる日本人のお客さんと会ってさ。すごく興味深い人だったよ。もともとは日本のどっかの会社勤めをしてたらしいんだけど、一念発起して何か自分で商売しようってブラジルに来てさ、服飾会社を立ち上げて、ブラジル有数のブランドにまでしたんだよ。俺も滞在中にショッピングモールに行ったらどこのモールでもその人の店があったよ。それで、いろんな人がその人を頼っていろんな商売を始めてさ、そのひとつがゲーセンの経営だったのよ。日系スーパーの中に大きいゲーセンというか遊園地みたいなフロアを作って経営してたよ。で、その人と会ってさ、話を聞いてたら、もうブラジルのゲーセンの経営からは手を引くって言っててさ。ああ、やっぱり景気悪くなってるのかって思ったよ。

で、ブラジルの商売じゃなかったら何の商談かと思ったらさ、ペルーの話だったのよ。その頃ペルーは政策でゲーセン非合法だったらしくって商売できなかったのを政府と交渉してうまくいきそうって。ついては機械をうちの会社から仕入れたいって話だったのよ。うちの会社は日本ではゲーセンを手広くやってたから他社の機械でも何も問題なく仕入れることができるし、ノウハウもあったし、その辺を考えての商談だったよ。俺も技術的にあれこれ宿題をもらってさ、検討することになってさ。ブラジルの次はペルーなんだって。商売に国境ないんだなって思ったよ」

「ブラジルでもピンとこなかったですけどペルーはもっとピンとこないですね」

「俺もペルーと言われて思いつくのは当時のペルー大統領が日系人だってことくらいだったな」

「ええーっ。日系人が大統領？はじめて聞きました」

続く

*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。