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ゲーム屋人生へのレクイエム 84話

ゲーム販売会社からゲーム移植会社へ商売替えしてなんとか生き延びていたころのおはなし

「移植の仕事は何とか続けていたんだけど会社の会計は火の車だったんだ。

仕事を受注しても売り上げは全て本社からの貸付金の返済にあてるから利益はゼロ。すこしでも現金が足らなくなるとまた借りる。

いわゆる自転車操業というやつだ。少しでも仕事と仕事の間にすき間ができるとすぐに赤字になるからいつもヒヤヒヤしながら仕事してたよ。

そして心配してたことが起きてしまったんだ」

「仕事が途切れたんですね」

「そうだ。受注が途切れてしまったんだ。一か月ほど仕事が途切れて次の仕事も決まっていない状況でね。

Mさんは日本で営業をしてくれていたんだけどこればかりはこちらの都合で何とかなるものじゃない。受注できそうな案件があったんだけど相手の都合もあるから待つしかない状態だったんだよ。

そうしたら本社の経理担当から連絡があったんだよ」

「ついに会社閉鎖ですか?」

「いや、そこまではいかなかったけれど深刻な問題に変わりは無かった。それは本社からの仕送りを受注が決まるまで減額するという連絡だったのよ」

「どういうことですか?」

「つまり、収入がゼロの状態で貯金もない。となると本社からの貸付に頼る他はない。ギリギリ経費だけを払える金額を送ってもらっていたんだけど、それを大幅に減額するという通達だったんだよ」

「収入が無いのに大変なことじゃないですか」

「そう。大変だった。でもどうにもできない。削ることができる経費のほとんどは削ったけどそれでも足らない。悩んだ末に俺の給料の支払いを止めることにしたんだ」

「給料をもらわないで働くんですか?そんなことあり得ないでしょう」

「ありえないけどどうしようもない。アシスタントのKの給料と会社の家賃やら医療保険やらの必要最低限の経費を払うためにはこうする他には方法は無かったんだ。

仕事を待っている間に少しでも受注につながるように今までの仕事の実績をアピールするプレゼン資料を作ったり、ありとあらゆるメーカーや開発会社にセールスメールを送ったりしていたよ。

でもさっぱりだった。あとはMさんが交渉してくれている案件が決まるのを祈るような気持ちで待つしかなかったんだ」

「うまくいかないものですね」

「下請けの宿命だよ。自分たちで自分たちの将来を決めることができない。できたとしても限界がある。世界中でこの苦しみから逃れることができない会社が星の数ほどある。あきらめるか、メーカーへ転身するか。どちらも簡単ではないんだよ」

続く

フィクションです


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