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公務員とリスキリング

リスキングという言葉を目にすることが増えています。
新しい職や、今の職で必要とされる変化に対応するためのスキルの獲得を示すそうです。昨年の記事になりますが、日経新聞には、公務員こそ、リスキリングが必要と掲載されています。
公務員こそリスキリング - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ここの記事は、現在進んでいる行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)に対応するための人材が不足しているため、既存職員をリスキリングする取り組みが公務員にも欠かせないと記載されています。

公務員にはリスキリングが必要であり、リスキリングすることで、急務である行政におけるDXの対応を進めようというものですが、そう上手くいくものでしょうか。

今回は公務員とリスキリングについて、考えてみました。

1 リスキリングについて

そもそも、リスキリングは、2015年から欧米で広まって、注目されるようになりました。その背景にあるのは、『技術的失業』によるものだそうです。

デジタルテクノロジーが浸透することで、既存の技術の必要性がなくなり、今の仕事がなくなる可能性のある人が増えていきます。

そのため、労働者を今後なくなっていく可能性が高い仕事からデジタルなどの成長産業に労働移動させることが目的となっているそうです。
以上参考:NHK2月8日 みんなのプラス

2 今までとは何が違うのか。

今までも、似たような言葉は取りざたされました。「リカレント教育」「学びなおし」「スキルアップ」というものです。これらとはリスキリングは、異なる概念だそうです。

まず、リカレント教育は、「働く→学ぶ→働く」のサイクルを回し続けるありようであり、新しいことを学ぶために職を離れることを前提としています。

さらに、”recurrent”「反復」の言葉が示すように、個人が学びと仕事を反復することから、個人の関心が原点になる一方で、リスキリングは、企業等がなくなってしまう可能性のある職業から成長産業へと労働移動させる目的があるので、主体は、個人ではなく企業等になるそうです。

また、学びなおしとも異なります。学びなおしは、個人の関心に基づいて、様々なことを学ぶことを良しとする言説が多いのに対して、リスキリングは、これからも価値を創出し続けるために必要なスキルを学ぶことを強調するそうです。

最後に、スキルアップとの違いは、今の職務をより高度化するのが、スキルアップであるのに対して、なくなる可能性が高い職務から、違う職務に移ることが、リスキリングとのことです。(能力を上に伸ばしていくのではなく、違うところに飛び乗るイメージでしょうか)

まとめると、企業等が主体となって、現在の能力を伸ばすのではなく、今いる社員を成長産業へと労働移行させるために能力の再開発をすることがリスキングだそうです。

以上参考:経済産業省「リスキリングとは
以上参考:NHK2月8日 みんなのプラス

3 すでに公務員とリスキリングを行っている

主体が組織として行われる職員の異なる分野の能力開発なのであれば、公務員は、すでにリスキリングを行っているとも言えます。ジョブローテーションが頻発して起こるからです。

公務員は、3~5年に一度、多くの事務職員が、現在の職務とは異なる職務へと移動します。

今までが福祉分野だった人が教育分野、産業分野だった人が土木分野など、大きな局(部)という区分けだけでも、広域自治体や政令市ともなれば10以上に及びます。

「管理職に昇格して、初めてこの分野に携わる。よろしくお願いする。」という挨拶を、着任当初にする方も珍しくありません。

当然、今であれば貧困対策、感染症対策などに重点が置かれ、成長産業、重点化すべき施策を行っている所属、要するに今必要なところに厚く人材を配置します。

DXという言葉がトレンドとなって、行政にデジタル人材が必要だからこそ、冒頭の記事のように、公務員にもリスキリングを求めるような動きがあるのだと思われますが、言葉だけをとれば、公務員はすでにリスキリングを行っているということもできます。

4 リスキリングしないとまずいのか

DX人材が足らないのは、事実だと思います。一方で、根本の職員自体が足りていません。
人手不足で地方公務員がブラック化する未来 | 政策 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

また、「●●人材が足らない!」は、その時々に、よく表れるワードでもあると思っています。

オリンピックの前は「英語を話せる人が少ない。バイリンガル人材の不足」と嘆かれましたし、新型コロナの当初は、医療人材が足らないと悲鳴が聞こえ、私の周りでは、理系人材が欠乏しているとも言われています。DX人材が足らないというのも、この流れの一環のように思えます。

公務員の中に、人材がいないということは、その人材が、民間でも需要があるということだと思います。その時代に求められるスキルを持っている人は、民間企業も放ってはおかないでしょう。

公務員には公務員の魅力があることは重々承知していますが、予算や副業などの制約も少なく、煩雑な決裁手続きや議会対応などの付随業務もなく、給料も高いかもしれない、こうした総合的に自由度の幅が広い民間と、人材獲得で競争するのは並大抵のことではありません。

冒頭の記事にも記載がありましたが、民間との人材獲得競争が困難だからこそ、内部の人材をリスキリングして、DXを進めようとなるのでしょうが、DX自体のトレンドもいつまで続くかは分かりません。

DX自体は重要だと思います。デジタル化が進めば、業務が効率化され、住民サービスも向上するでしょう。

一方で、テクノロジーの進化は日進月歩です。今日学んだ知識が、ずっと求められる保証はなく、学んだことがすぐに陳腐化する可能性も否定できません。

DXが重要だ、さあリスキリングだと乗っかって、AIについて知識を深めようと意気込んでも、時代が学んだことから、さらに進化してしまていれば、これからも価値を創出し続けるための必要なスキルアップではなくなってしまいます。

5 リスキリングにこだわる必要はない

大きな意味で学ぶことが大事であり、言葉の定義にこだわる必要はなく、リスキングでも、学びなおしでも、リカレント教育でも、スキルアップでも、きっかけは何でもよいので、自分を成長させると思うことに挑戦すればよいと思います。

公務員は、3年~5年でジョブローテーションがあります。異動となったら、まずは配属された職務のことをしっかり学び、実践し、組織に貢献することが、公務員として価値を創出し続けることにつながるのではないでしょうか。

そして、さらに先を見据えて、プラスアルファができれば言うことはありません。どこの自治体も、財政状況が厳しくなり、公務員が絶対安泰な職業、向こう40年の未来を保証してくれる職業ではなくなってきました。
大阪の財政再建、「公務員特権」にメス 人材確保課題に - 日本経済新聞 (nikkei.com)

組織に過度に依存せず、何かを学び始めることが重要だと思います。以前に、公務員は時間外でも勉強すべきか でもnoteにまとめましたが、学ぶことは癖となって、自分の人生を成長させてくれます。

もちろん、組織の中で上に行くことを求めている野心的な人であれば、とりあえず今の組織で求められていることは、DXに強い人材なのだから、デジタルに強い人材となって、頭角を現していくことは、賢い選択です。

個人的には、学び続けるためには、まずは好きなこと、自分の興味のあることからスタートして、小さな成功を積み重ねていくことが、成長を実感できて、豊かな人生の近道となるのではないかと思います。

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