見出し画像

公務員の個人負担率を考える(支出編)

前回のnoteでは、最近、国民負担率が5割に届きそうという記事があったことから、本当に給料からそんなに引かれているのか調べるため、月々の収入について考えてみました。

収入のうち、およそ8割が人事院勧告等で公表されている基本給であり、残りの2割が地域手当をはじめとした諸手当でした。
参考:人事院勧告(国家公務員の給与) (jinji.go.jp)

ただし、あくまでも額面の給料です。ここから税金や社会保険料が引かれ、生活費等に使用できる手取りとなります。

前回紹介した記事にも記載があった通り、国民負担率は国民所得に対する税金と社会保険料の割合を表したものです。個人の負担率を考えるときは、月々の給料に対して、税金と社会保険料をどれだけ払っているかで割合が決まります。

社会保険料等によりどのくらい引かれているのか、引かれたものは何に使われているのか、調べてみることにしました。
※このnoteでは計算をする場合、小学生未満の子ども二人と配偶者(妻)を扶養している公務員を例にしていています。

1 社会保険料

まずは社会保険料です。公務員の社会保険料は大きく2つ「短期掛金」「長期掛金」として、給料から差し引かれています。それぞれについて掘り下げていきます。

(1)短期掛金

短期掛金は大きく「保健給付」「休業給付」「災害給付」に分かれます。事故などに遭った職員に治療費や見舞金等を支払う原資とするため、月々の給料から控除されるものです。

初めに、保健給付は、職員が病気やケガをした際に支払われる医療費や治療費など療養の給付や、一定額以上の入院費を支払った際に大幅な自己負担が発生しないように補填してくれる高額療養費、そして出産した際の出産費、亡くなった時に遺族に対して支払われる埋葬費などの支払いを指します。

休業給付は、疾病等により長期の休みを取得する際に支払われる傷病手当金や、私もお世話になった育児休業手当金など、長期間にわたって仕事が出来ない時期に、収入が滞って職員がやその家族が生活できなくなることがないように、給付金として一定額が支払われるものです。

災害給付は災害に遭遇した不幸に対する見舞金です。災害によって、職員本人や被扶養者である家族が亡くなった場合に対する弔慰金や住宅や家財が損害を受けた際に支払われる見舞金が該当します。
(以上、参考:短期給付の種類 | 短期給付 | 埼玉県市町村職員共済組合ホームページ (saitama-ctv-kyosai.net)

いわば、民間企業の健康保険料と雇用保険料等を合わせたものだと思います。この短期給付の財源として、大体、標準報酬月額の4~5%が一人ひとりの職員の給料から毎月控除されています。

標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料を計算するために、被保険者の報酬を一定額ごとに区分したものです。9月から翌年8月までの1年間の給与等の平均をだして、月々いくらもらっていたのか、被保険者ごとに区分を決めます。毎年7月ごろに給与表の備考欄等に掲載されています。
参考 東京都の報酬月額(協会けんぽより)

基本給に諸手当や残業代など、様々な手当が上乗せされたで金額であるため、自分が想像する月給よりも少し高めの金額が設定されています。こんなにもらっていないのに!と一瞬思うのですが、税金等が引かれる前だと確かに、このくらいかと我に返ります。

なお余談ですが、標準報酬月額が高いと、保険料は増える一方で、老齢厚生年金や傷病手当金などの給付金額も増えるメリットもありますので、もらっている給料よりも高いなと感じますが悪いことだけでもありません。

前回のイメージ家庭の月の給料の額面が38万4500円だったので、標準報酬月額は北海道の保険料額表で見ると、38万円です。

北海道の市町村組合の短期掛金率は4.97%、道庁職員などが加盟している地方職員共済組合の掛金率は4.408%ですので、月々1万5000円から1万9000円ほどの短期掛金の支払いがあることになります。
※加入している共済組合によって掛金率は異なります。

(2)長期掛金

次に長期掛金です。ごく単純化していえば長期掛金は年金にかかる支出ですが、長期掛金も大きく2つに分かれます。「厚生年金掛金」と「退職等年金」です。

「厚生年金掛金」は、退職年金等の原資となるものです。退職をして老齢厚生年金をもらっている元職員の方や不幸な事故等によって障害厚生年金や遺族厚生年金を受給している方々に支払うための年金の原資とするため、月の給料から引かれています。

厚生年金については賦課方式と呼ばれるもので、今払っているものは主に退職した職員のために使用されるので、長期掛金が自分のために使われることは稀ですが、月々の拠出額をもとに、将来の自分の厚生年金額が決定されることになるので、現在の支払いが全く自分に無関係という訳ではありません。

厚生年金掛金が主に他の人に払う年金の原資となるのに対して、「退職等年金」は、自分のための積立年金の原資となります。将来受給するであろう年金の3階建て部分である「年金払い退職給付」の原資となります。

年金払い退職給付は、月々の拠出金額を積み立てて組合が運用して、積立額と運用益を合わせた額を自分の退職後に厚生年金等に上乗せして払われることになります。
参考:退職等年金給付(年金払い退職給付)|年金給付事業|年金関係情報|全国市町村職員共済組合連合会 (shichousonren.or.jp)

まとめると長期掛金は厚生年金(2階建て部分)、年金払い退職給付(3階建て部分)の年金関係の原資となるものです。月々引かれる掛金率は、それぞれ9.15%、0.75%です。この掛金率は組合によって差はありません。

これも標準報酬月額38万円で計算すると、厚生年金掛金が34,770円、退職等年金で2,850円ですので、およそ38,000円ほど控除されていることになります。

以上が大きな社会保険料の主な拠出ですが、これに福祉事業が控除される場合もあります。福祉事業は職員の健康診断や特定健康診査を行ったり、職員に住宅や教育の貸付をするための原資となります。(組合によっては短期掛金とまとめている場合もありますが、地方共済だと0.128%で、38万円だと月々およそ500円ほどです。)

社会保険料だけを合計すると、例に挙げている家族で57,000ほど給料から引かれていることになります。給料38万4500円の割合から言えば14.82%です。

2 税金

(1)所得税

給与から社会保険料を出したら次は税金です。所得税の計算方法は国税庁が公表している通りなのですが、計算方法がややこしく、当然のことながら、その年の収入が未確定のため、確定申告を行わなければ正確な所得税額は計算できません。

しかし所得税は毎月給料からちゃんと引かれています。それは、前年度の収入から社会保険料を引いて、給与所得の源泉徴収税額表を利用して算出しているためです。

この税額表を利用して、先ほど来のモデル家庭の所得税額を計算してみます。額面が38万4500円で、その社会保険料が57,000円です。差し引いて32万7,500円となりました。

32万7,500円を税額表の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」に当てはめます。扶養親族(16歳未満の子は含まず配偶者のみ)1名の欄の金額を見ると7,840円でしたので、月々7,840円の所得税の支払いがあることになります。

また余談ですが、これは簡易的な所得税の算出方法であり、実際は様々な控除を入れて計算して年額の所得税額を出すことになります。この年額の所得税額と、月々控除している所得税の積み上げの差を還付したり追徴したりするのが年末調整です。

(2)住民税

最後に住民税ですが、詳しい計算方法を書くと、それだけで数千文字になります。そこで、一番簡単な月々の住民税の額の調べ方は毎年6月ごろに届く住民税決定通知書の記載を確認することです。通知書に月々支払う住民税額が記載されています。
参考:「住民税決定通知書」の見方を確認。「年収400万円の会社員」手取りはいくら? (msn.com)

正直、住民税決定通知書は、普通はあまり使用することはないので、すぐに見つからない場合も多いと思います。ざっくりとした計算方法であれば、去年の源泉徴収票の課税給与所得控除の10%を12等分すれば、月々の住民税額の大枠の目安となります。(または給料表の2月か3月に昨年の課税給与所得控除が掲載されていると思います。)
※所得税と住民税では控除の額が違ったり、寄付金控除等による影響も大きいので本当に目安です。

モデル家庭だと、住民税は大体2万円になるので、所得税と合わせて税金で約28,000円ほど月々引かれていることになります。給料38万4500円の割合から言えば7.28%です。

3 月々の負担率を出してみる

収入が38万4500円で支出(税金や社会保険料)が28000円+57,000円で85,000円です。いわゆる手取り額は384,500円ー85,000円で299,500円です。

単純に割り返すと85000÷384,500≒22.1%であり、月々の2割強が引かれていることになります。巷でいわれている五公五民の半分以下です。

ただし、あくまでも収入に対する税金や社会保険料の負担です。税金を考えるのであれば、ここに消費税が加わりますし、人によっては固定資産税や酒税、自動車関係の税が大きな負担となる場合もあるでしょう。

私個人の負担率も踏まえて考えてみると、消費税を10%として、固定資産税や自動車関係の税等含め、収入に対しておよそ35%ほどが引かれている計算でした。

割合だとピンときませんが、仮に年収が500万円だとすると、35%で175万円です。ちょっとした車が買えるくらいの値段のため、安くはないでしょう。

一方で、冒頭の47.5%の国民負担率が国民の平均の負担率と考えると、私の負担率は大きく下回っています。これは年収の高い人が多額の税金を払っているためであり、私の分を誰かがカバーしてくれていることとなります。ありがたいことだと思います。

また、他の先進諸国の国民負担率を見ても、日本が突出して高いわけでもありません。他国とは行政サービスの内容が異なりますし、税制度も異なりますので、一概に比較はできませんし、日本の税負担が社会保障等のサービスに見合っているかは様々な意見があるところです。

結論としては、税金も社会保険料の負担率も自分ではコントロールができない事柄です。往年の名サッカープレイヤーのヨハン・クライフの名言には人生で避けられないことに死と税金が挙げられています。

重い負担に嘆くよりも、引かれるものはしょうがない、むしろ私の分を負担している人もいると割り切って、更なる収入増に励むほうが、前向きでいいなと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?