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キャリーはするよりも、してもらう方がつまらない

キャリーが人を手助けするとは限らない。
これは「快適さと引き換えに自立心を損なう」といった話をしているのではない。

そのキャリーは快適ですらなく、ただの苦痛かも知れない。


寄生なのか、姫プレイなのか

キャリーとは、ゲームにおいて優位なプレイヤーが劣位なプレイヤーをアシストすることを言う。
具体的にはバトロワなどのPVPで初心者とチームを組んで勝たせてあげることだったり、MOやMMOで最前線まで進んでいるプレイヤーが始めたばかりのプレイヤーのレベルを上げてあげたり、強い敵を倒してあげることだ。

多くの人は、ここから思い浮かべる光景は二つだろう。

ひとつは寄生だ。そこまで極端ではなくても、テイカー的な気質の人というのはいる。
そういう人が絡むと、「なんとなく周りの人間は白けつつも、その人の面倒を見る」という構図が出来上がる。
「強くしてください」というチャットはネットミームとなった。

そしてもうひとつは姫プレイだ。
典型的な例ではオタサーの姫とその囲いといったところだろうが、「周囲の人間は快くキャリーしている」という状況は全て広義の姫プレイに含めてしまってもいいだろう。

多くの場合、キャリーを分類する指標はキャリーをしてあげる人間が嫌々なのかどうかだ。
それによって、好印象と悪印象が区別される。姫プレイを旗から見て薄ら寒いと思う人はいるだろうが、少なくとも本人たちは幸せそうなイメージがする。

「一緒に遊んであげている」のはどちらか

しかし、実のところ、キャリーには「キャリーされてあげている」という状況が存在する。
上級者が初心者のケアをしているわけではなく、初心者が上級者をケアすることがあり得るのだ。

キャリーの過程には二つある。
「困っている初心者を見つけたから助ける」というのと、「未プレイの人間を誘って、誘ったからには面倒を見る」というものだ。

後者の場合、相手のペースに合わせてやっているのはむしろキャリーをされている方だ

PAYDAY2というシューティングゲームが先日STEAMで破格のセールをしていたので、友人たちとやることになった。

が、二人を除いてあっという間に離脱した。
理由には様々な事情が関与しているだろうが、間違いなく、キャリーが発生していたのはその理由のひとつだ。

そして、脱落したのはキャリーをしていた側の人間ではなく、キャリーをされていた側の人間だ。


「強くなって結果を出すのが目標」という暗黙知

PAYDAY2はクエストを周回してキャラクターを強化していく協力型のゲームだ。ものすごく強引なくくりだが、モンスターハンターと似たようなものだと思ってくれればいい。

周回に乗じて武器やキャラクターを強化していくゲームは、当然のことながら初心者と脱初心者ではやっていることが違う。

より難しいステージへ進むために強化を行う、というのを繰り返すのがこの手のゲームの目的だ。プレイ時間が多くなればなるほど、難しいステージ、強い敵に挑戦する。
後から序盤で苦戦した敵と戦うと、あっさりと倒せてしまう。

さて、この手の協力型のゲームではある問題が発生しやすい。
それは、皆が皆、進行度がバラバラだということだ。

そしてバラバラというのは、強い装備、強いキャラクターのプレイヤーと、弱い装備、弱いキャラクターのプレイヤーが混在しているということだ。

進行度がバラバラの面々が集まって何をやり始めるのかというと、まずは低水準なプレイヤーのレベルを引き上げるのが目標になる。

そしてキャリーが始まる。
上級者が初心者の敵を蹂躙する。
果たして、これは面白いだろうか?

初心者の楽しみ方は無視される

俺はPAYDAY2をなかなか楽しませてもらったが、最初の体験が「上級者が敵をなぎ倒して行っているのをただ見ながらレベルが上っていくのを待つ」だけだったら間違いなく早急に放り投げている。

PAYDAY2を面白いと感じられたのは、段階を踏んでいたからだ。
まず、このゲームはそれなりに難しい。そこで、「どうすればクリアできるだろうか?」というのを、プレイ面と装備やレベル面の両方から考え、試行錯誤する。

この過程がよかったのだ。

なのに、「よーし、じゃあとりあえずレベル50まで上げようか」などと言ってパワーレベリングさせられたところで、その初心者本人は何のためにそんなことをしているのかわからない。

いや、もちろん、説明すれば理屈の上ではわかるだろう。
「とりあえず〇〇っていうスキルが取得できれば世界変わるから、そこまでレベルを上げようか」と言われれば、「〇〇はこのゲームで必須の強スキルなんだな」ということはわかる。

だが、もっと立ち返る必要がある。

何故そのスキルは必要なのか?
圧倒的に動きやすくなり、勝てる相手が増えるからだ。

そこまではいい。
しかし、では、何故このゲームを快適にしたいのか? もっと効率を高めたいのか? 勝ちたいのか?

それは、面白いゲームをもっと面白くしたいからだろう。
「面白い」とはじめに思えて、やっとレベリングの動機が生まれる。

メラを覚えたら、次はバギやイオを、メラミを覚えさせたくなる。
そんな過程を面白がっている最中に、いや、まだメラすら覚えていないような段階で「とりあえず全体攻撃呪文覚えたいよね」などと言われても、興ざめもいいところだ。

初心者が熱中するフックになり得る光景をすっ飛ばして、キャリーをする人は山頂へ一直線に駆け上がろうとする

初心者が「面白い」「もっと勝ちたい」という気持ちを抱いていない段階でこのような効率重視のプレイを推奨しても、ほとんどの場合無意味だ。

それはただの作業だ。脱初心者のプレイヤーが作業に耐えられるのは、目的意識が明確だからだ。
そうでない作業はユーザーの離脱を招く。

都合のいいお友達が欲しい

宿命的に、上級者が主導するキャリーというのはこの構図に陥りやすい。
上級者が初心者に足並みを合わせるメリットが存在しないからだ。
何故か。

上級者が初心者の面倒を見る目的は、ほとんどの場合一緒に遊ぶ仲間が欲しいということだ。

しかし、これには注釈を付けなければならない。
ただ一緒に遊べればいいわけではない。

上級者がやっているのはエンドコンテンツだ。
初心者から見ればかなり難しいステージを、一周あたり何分まで切り詰めて同じ時間でどれだけ周回し、いかに効率よくアイテムを入手するか、というようなことをやっている。

上級者はエンドコンテンツを一緒に遊ぶ仲間が欲しいのだ。
いや、それも違う。
キャリーをするのは必ずしも上級者ではないし、引き入れようとするのもエンドコンテンツだとは限らない。これらはあくまで一例だ。

熱心にキャリーをする人は、初心者を「自分が楽しいと思うコンテンツ」を、自分が最大限楽しむために引き入れたい
理由はそのコンテンツを効率よく進めるためだったり、単に一人でやるのが寂しいために仲間が欲しいからだったり、自分の技量の高さを評価されたいという動機だったりと様々だ。

善意もなくはないだろう。もう少し意地悪な言い方をして、「いいことをした気分に浸りたい」というのもなくはないだろう。
しかしそれらは副産物だ。

彼らの視野は、自分が楽しいと思うことに埋め尽くされている。
だから彼らは基本的な操作もおぼついていない段階で最も火力の出せるコンボを教えたり、装備を整えさせたりする。

そこに初心者の立場に寄り添ったアドバイスなど望むべくもない。初心者を都合のいいように仕立てるのが目的だからだ

こういうキャリーは、大抵の場合破綻する。
破綻していないのだとしたら、よっぽどキャリーをしている人が注意を払っているか、キャリーされている人が菩薩みたいな人なのか、ただ断れずにズルズルと続けてしまっているかのどれかだ。
つまり、ただの接待だ。

あるいは、ゲームの楽しみを見つける適性や下地のある人間か。
才能のある人間は、「こいつの教え方は下手だなあ」などと思いつつ、指導者の技量とは関係なく勝手に上達していくものだ。

相手との温度差を感じ取れない人

この記事は、実質的にこちらの兄弟だ。
ざっくり言うと、ニーズにアウトプットを合わせられない人について書いている。

ポケモンのメインシナリオ部分に興味を持った人に、オンライン対戦環境に主軸を置いたアドバイスをしてしまうような行動が、「教えるのが下手な人」の特徴のひとつだ。
逆に、シビアな対戦にしか興味がない人に向かってポケモンの愛らしさなど解いても仕方がない。

または、仮に対戦に興味を示していたとしても、ろくに経験もない初心者にカイリューのノーマルテラスタルしんそく耐え調整を推奨するといったような、実践的過ぎるアドバイスをする。
こんなことをさせるのは、実際に対戦環境に潜ってみて、カイリューというポケモンの脅威が骨身に染みてからで構わない。というよりも、そうでなければ意味がない。

ニーズにアウトプットを合わせられない、というのは例えばこういうことだ。
「何言ってるのかよくわからないし、その話別に自分にとってはどうでもいいんだけど……」というシグナルを感じ取れないと、聞き流されている話を延々と続けてしまう。
そして「こいつはつまらない人間なんだな」と判断される。

同じように、「こいつとこのゲームするのはつまらないな」と判断される。

面倒を見てもらうという申し訳無さ

もちろん、他人から当たり前のように助力を引き出そうとする、厚顔無恥なテイカーの存在だって無視できないだろう。

ただ、基本的に初心者は肩身が狭いものだ。

単純に言えば、「自分が低技能だと知っている人は、常に質問のときに引け目を感じる」ので、徐々に質問しなくなる。

https://blog.tinect.jp/?p=64018

初心者は引け目があるから質問をしないし、助力も求めない。
ならば、心得のある人間が構ってやるしかない。だが、多くのアドバイスは不適切だ。

しかも仮にアドバイスが適切であったとしても、初心者は常に引け目を持ち続ける。その体験は「楽しい」と呼べるだろうか?

初心者を楽しませ、コンテンツに定住させるのは難しい。
結局のところそういうつまらない結論を導くしかない。

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