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夏とフラメンコと、Amador Rojas

2011年11月の終わり、あの日から今日まで東京の臍と言われる日比谷や銀座には全く足を運んでない。
それまでは毎日毎週のように、当たり前のように仕事で出掛けていた表参道や銀座、赤坂‥。その名前さえも脳内で薄れかけている2022年初夏、私は人生の大きな節目を迎えている。

これまでにも節目は何度か訪れ、その度に終わりの見えない坂道を上ったままになりそうな極限の緊張感の中で、私は何度も何度も力尽きた。だが、今回の節目はこれまでとは違う。
多くの優しい人達に囲まれて、その人だかりは波のように何度も寄せては返し、又寄せて来る。皆が笑顔で私たち夫婦を取り囲んだまま、談笑が絶えない。
 


これまでの私を阻んでいたものは、一体何だったのか‥。
2021年の冬、実母が他界した。彼女の死後、私の周囲の環境が一変一転した。それまで押しても引いても上手くは行かなかった私の人生が、母の死を境に大きく変化した。
そして私は確信した。私の人生や魂を永遠に疎外し封印する為に彼女がこの世に在り続け、それを夫の先祖の霊団が完璧なまでに粉砕したのだと。

母の死後、空の色から壁の感触までが変わり始め、それにともない幾つもの新しい人間関係が生まれ、それらは立ち消えることなく今も和やかに続いている。
音楽がそれまでと違って穏やかに心に渡り始め、それは音と言う固形の概念を超えて南の島から届く風や大気のように、新たな私を温かく包み始めている。

https://unsplash.com/photos/KRB2m_nLQQA


毎週末の音の新譜チェックはかれこれ私が学生の時から数十年間、今でも続いている。
何千何万~何百万何千万もの音楽が波間の泡のようにこの世に生まれ、そしてその殆どがあっと言う間に消えて行く。私はその何千万曲もの音楽を脳内に記録し、構成を分析し、今の私の脳内はまるで音のアカシックレコードのように膨大な音源の蓄積で埋まって行くが、まだまだ余白がある。

苦しい時になると、どういうわけかフラメンコが聴きたくなる。
彼らロマと私のこれまでの人生は、どこか重なって視える。住む場所を追われ、行く先々で音楽を奏でながらそこで出会う人達との一期一会に一喜一憂する日々の彼方に救いを求めながら、やはり全ては幻だったと言うようにある日全てに突き放される‥。

だから無我夢中でその場凌ぎの音の輪に夢中になり、闇雲に没頭することしか出来ないのだ。
そこに楽しいも悲しいもなく、感情や感覚を麻痺させるようにして生きて行くだけだ。今この瞬間を生きていられることが幸せなのだと言い聞かせながら、翌朝の光を虚脱感に満ちた寝室の窓辺で見上げる度に何度泣いたことだろう。


生きている間にいつか、一度でいいからスペインの地を踏みたいと願っていた。「願っていた」と言うからにはもう過去形の心情になっており、1998年にメキシコの三人の占星術師等に「貴女は以後飛行機には乗らない方が良い。」と言われてからは、彼女たちの遺言に忠実に従い遠出を控え今日に至る。
恐らく私は今後海外遠征に行くこともなければ、長旅に出ることもしないだろう。私の持って生まれたを怪訝に捉える存在が宙に存在する以上、それは仕方のないことだと思って私は自身の宿命を受け容れて生きている。

だからもっぱらフラメンコを聴くのはインターネットの中ではあるが、それでもじゅうぶんに楽しめている。
感覚をMax状態に全開にすれば、その場所に行かずとも世界中の感性に触れることが出来る。しいて言うならば耳(鼓膜)より、フラメンコを聴く時は骨伝導から音楽を吸収する方が、深く深くスペインを感じ取ることが出来ると最近は思っている。

Amador Rojas


大好きなフラメンコダンサーの一人だが、Amador Rojas‥ この人のダンスは素晴らしい。
私は未だリアルでは面識がないが、間に歌手のCathy Claretと言う友人が挟まっており、彼女の2015年リリースのSolita por el mundoのPVで彼の美しいパフォーマンスを観ることが出来る。


扱う音楽もジャンルも異なる為、今世で私はこの人 Amador Rojasに会うことは叶わないだろう。
だがAmadorだけにしか到達し得ない彼の舞いの彼方に私は、これまでの過去世のどこかで彼と寝食を共にして来たかもしれない‥ と言う微かな記憶の片鱗を見ることがある。

全てはアラベスクのように、いつかどこかで繋がって行く。だから私は未だ見ぬ誰かの為に、これからも全身全霊の限りしゃかりきに生きて行く。そうすることで消化し切れていない過去世のパッションがどこかで誰かに手渡されることを願いながら、今この瞬間、私の魂はAmador Rojasと共に在る。


母が人生を賭けて放ち続けて来た私への、要塞が幾つも建てられそうな程の「妨害圧」からもようやく解放された今、私の未来は悉く自由で限りなく広い。

ようやく私は旅立てる。そしてどこまでもどこまでも、ありったけの感覚を研ぎ澄ませ世界を堪能し尽くしたいと思う。

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