さようなら、そして、また、ね

1人男が立っている。
暗闇の中で。
朦朧とする意識の中で、
彼は光を見た。

あれは、、、？
僕の子どもの記憶？
僕の青春の記憶？
愛する人と過ごした記憶？
親になったときの記憶？
愛する人たちとの、大切な思い出。

記憶が、思い出が、
僕の心を動かしていく。
そして、鮮明に思い出す。
それは懐かしく、温かい、綺麗で、儚く、
寂しく、愛おしい気持ち。

記憶の幻影が光の粒となって、
郷愁と哀愁の漂う悲しくも嬉しい感情とが、
入り混じって、溶け合って、
そうして、僕を、世界の旅に連れていく。

二重螺旋の光の中で、
地球誕生、生命誕生、カンブリア、恐竜、哺乳類、弱肉強食、猿、火、
そして人類、
古代、中世、近代、産業革命、ナショナリズム、戦争、資本主義、崩れ落ちて、僕と君
僕とみんな、そして、、、（まだ見ぬ未来とあなたの背中）。笑顔。宇宙。愛。
僕は世界の全てを知った。

世界の全てを知った僕は、
この世界、僕の記憶との別れを告げる。
別離の時が来たようだ。

ありがとう、みんな。
みんなと過ごした時間のすべでが僕の宝物。
みんなのおかげで僕は幸せだった。

ありがとう、君。
君のことを愛してる。
僕のことを愛してくれてありがとう。
君は僕の全てだった。

ありがとう、お父さん。
僕を産んで育ててくれて。
たくさんもらって、ようやく僕は大人になれた。

愛してるよ、お母さん。
あなたの子どもで、本当によかった。
こんなに照れ臭いことはないけど、
産んでくれて、育ててくれてほんとに、
ありがとう。

さようなら、世界。
さようなら、みんな。
さようなら、君。
さようなら、お父さん、お母さん。
さようなら。

そうして僕は1人になって、
別れを告げた全てのものとの別離を終える。
あとはもう、消えるだけ。

、、、ぁあ、、
消えたくないよぉ、
1人は、、、やだよぉ、、
みんなといたいよ！
おいてかないで！
僕はまだ生きていたいのに！！

その時消えたはずの記憶が最後に輝いた。

子どものころの僕が、
今を生きる子どもたちと混じり合って、
楽しそうに遊んでた。
あなたは僕の手を取って、愛を送ってくれたんだ。
僕の子どももお父さんもお母さんもみんなも
君もそこにいる。
楽しそうに、屈託のない笑顔で、そこにいたんだ。

そのとき、僕は全てがわかった。
最後に僕が出来ること、
別離したみんなに返せることが、
未来を生きるあなたたちに残せることが、
ひとつだけ、ひとつだけあることを。

僕は最後に、命の火を燃やそう。
僕は心の火を燃やし、愛でみんなを包みたい。
この火が未来を照らせるように、
未来を生きるあなたたちの背中を押せる光になろう。

もっと、もっと、もっと、
強く、優しく、明るく、燃やせ。

もっと、もっと、もっと、
温かく、大きく、決して消えない、炎となれ。

大好きだ！！大好きだ！！大好きだ！！
君も、みんなも、父さんも、母さんも、
あなたも、世界も！！僕はほんとに幸せだったんだ！！！

ありがとう、
僕はもう、寂しくない。
僕の命を、僕は使い切れたよ。
僕はもう、悲しくない。
1人じゃないってわかったからさ。
僕は消えるけど、未来はきっと明るいし、
これからも繋がって紡がれていくから。
生まれて、生きて、君に出会って、みんなと過ごせて本当によかった。
あなたたちに繋がって紡がれて、僕は幸せだよ。

さようなら、そして、また、ね

男はそうして、光になって、闇に溶けて、
二重螺旋の一部となって、世界の中で、
これから先も輝き続ける。