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良い価格の良い効果 〜 BtoB SaaSのプライシング議論

はじめに

この記事はプロダクトマネージャー Advent Calendar 2020 6日目の記事です。

簡単に自己紹介

こんにちは、株式会社BEDOREという会社でプロダクトマネージャーをしている、森 @dicek_66 です。いろんなプロダクトに携わってきましたが、特にBtoB、中でもエンタープライズ向けの製品開発の経験が一番長く、クライアントひとりひとりのフィードバックの熱量が高く、濃密なエンプラ向けの製品開発が大好きな人間です。

前提とおわび

この記事は所属会社の意思を表すものではなく、当社の方針・戦略・事例などとは無関係であり、完全に個人の意見に基づくものですので、了承ください。

また、タイトルにもあるように、領域として「BtoB」、特にエンタープライズ向けのSaaSを意識した記事であり、読者としてはプロダクトマネージャーの方を意識していますので、それ以外の方からすると、少し違和感を感じられる可能性があります。

プライシングというのは、各社に深く長いコンテストがあって、現状の価格になっていることを理解する必要があり、絶対にこれが正解というのはなく、仮にうまく行ってなかったとしても、結果論、もしくは主観的な判断にすぎない可能性もあるため、何かを批難するためでも、強引な価格変更を推奨するためのコンテンツでもないという前提でお読みいただけるとうれしいです。

なぜこのテーマで記事を書こうと思ったか

いくつか理由があります。

・プロダクトマネジメント文脈でBtoB SaaSのプライシングについて語った記事があまりない
・プライシングを適正化することで、プロダクトや組織を強く活性化できる可能性がある
・顧客に価値を届けるプロダクトマネージャーにこそ、価格について深く考え、決定できる世の中になってほしい

ユーザー体験を考えよう、ユーザーにとっての価値を考えようとするプロダクトマネージャーが増えていることは、個人的に、本当に喜ばしいです。
この流れに加えて、「では、あなたのプロダクト、いくらで売れますか? いくらで買ってもらえますか? なぜその値段なのですか? 」という問いに、明確な答えを言えるプロダクトマネージャーが増えれば、より世の中にプロダクトマネージャーの価値を感じてもらえるのではないかという考え、この記事を書いています。

ですので、内容として、「プロダクトの価格はこう決めるべき!」という主旨ではなく、プロダクトマネージャーが自分たちのプロダクトのプライシングについて、考えるキッカケになればというものになっています。

価格の決まり方

経験上、いくつかのパターンがあると思います。ただ、そのうちのどれか単独の基準で決まっているというよりは、いくつかが複合された結果、その価格になっていることが、ほとんどではないかと思います。

(1)自社基準(コスト、事業計画、利益...etc)

コストがこれくらいかかるから、これくらいの価格でないと採算が取れない、事業計画上、社単価がこれくらいにならないと計算が合わないのでこの価格、というようなタイプがこれに当たります。自社の経営数値などをベースに考えた価格です。

(2)顧客基準(顧客に言われた、顧客のお財布具合、営業が決める...etc)

エンプラ向けのSaaSというのは、プロダクト立ち上げ初期に、重用顧客の一声や、その時の顧客の予算額によって、大まかに値段が決まるということが、少なくありません。
また、ざっくりとしたプライステーブルはあっても、営業責任者や担当者が、お客様の状況に合わせて、その都度個別に見積るというケースもあると思います。

(3)環境基準(競合価格との比較、マーケットの特性...etc)

競合製品の価格より少しだけ下げる、マーケットからはこれくらいの値段を求められがちであるというように、自社でも顧客でもない第三者や、市場環境などの要因で価格が決まっているケースです。

(4)顧客価値ベース

いわゆるWillingness to Payや、クライアントの事業への貢献度から考慮すると、これくらいの金額を支払う価値があるはずという、製品価値基準で価格を決めたパターンです。

(5)神の一声

社内の高いポジション、権威がある方の一声で価格が決まってたパターンです。例外として、その方の頭の中に何かしらのロジックがあり、それが明確に共有されている場合は、(1)のパターンに該当すると考えられます。

なぜプロダクトマネージャーが考えるべきなのか

価格というのは、完全に顧客価値だけで決められるものではありません。
マーケットの状況、ポジショニング、競合、顧客の懐具合、事業計画、利益、事業戦略...etc、様々な要因が絡み合い、完全な正論だけで成立する世界ではありません。
しかし、プロダクト価値を最大化し、それを顧客に届けることを責務とするプロダクトマネージャーがプライシングを意識することには、多くのメリットがあります。

・顧客がプロダクトのどこに価値を感じているのか深く考えられる
・その価値はどれくらいの金銭価値があるのかを意識できるようになる
・競合を意識してプロダクト戦略を考えられる
・マーケットに対してどのようなポジショニングを取るべきかを意識できる
・プロダクトの伸ばすべきポイントをより鮮明にできる
・プロダクトの捨てても良いところは何かを見極められる
 ︙(多すぎるので省略)
・良い価格は組織をエンゲージする

組織をエンゲージするプライシング

語りだすときりがないので、この記事では、このポイントのみ、少しだけ掘り下げてみようと思います。
良いプライシングは、組織を良い方向にエンゲージする効果があります。その効果を簡単に職種別にまとめてみようと思います。

良い価格の良い影響

セールスメンバー

顧客がなぜこの金額を支払うべきなのか、その投資によって得られる対価は何なのかを、よりシャープに提案することが可能になります。
顧客にとっても、何に対して対価を払うのか、その効果はどれくらいなのかがわかりやすくなり、顧客社内での説明も通りやすくなるため、結果として受注率の向上が期待できます。

価格とMission、Visonの接合という面白いテーマもあるのですが、さすがに長くなりすぎるので、それはまた別の機会に・・・。

カスタマーサクセスメンバー

顧客がどのような価値に対して対価を支払っているのかを明確にすることで、カスタマーサクセスのゴール、マイルストーンを設計しやすくなります。
仮にアップセル提案をするにしても、得られる価値を増大させるための追加投資という文脈で説明がしやすくなり、アップセル提案がカスタマーサクセスメンバーにとっても、顧客にとっても正義になります。

エンジニア・デザイナー

製品の価値を上げる、つまり顧客からの対価を得るために、どこを差別化ポイントとして強化すべきか、何は捨てても良いという判断ができるのかが明確にできるので、本当に作るべき機能に集中することができ、本来ならば作らなくてよかったのではないかという疑念を感じてしまう機会を減らせます。

最後に

繰り返しとなりますが、プライシングは、様々な歴史・コンテクストがあって今の形になっているはずで、一概に価格の改善を提案を推奨するものではありません。
価格を変えるということは、メリットもありますが、当然デメリットもあり、顧客・組織・事業などへの影響を考慮し、慎重な意思決定が必要です。

とはいえ、プロダクトマネージャーが自分たちのプロダクトの価格について考えることは、顧客、組織、プロダクトに対して、好影響を与えるきっかけにもなり得るのは間違いありません。

個人的にはいくらでも時間を使って語れるテーマではあるものの、あまりに深い言及を、公に開かれたインターネット上の記事にするのは、様々な方にご迷惑をおかけする可能性があり、概要の話がメインになりましたが、ご意見、ご質問など、もっと突っ込んで話したい、聞きたいという方は、ぜひTwitter(@dicek_66)で絡んでもらえるとうれしいです。

それでは、これで、プロダクトマネージャー Advent Calendar 6日目の記事を終わります。激動だった2020年も残り僅かですが、プロダクトマネージャーの皆さんのご活躍と、明日以降に開かれるアドベントカレンダーの記事を楽しみにしています!


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