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【短編小説】楽園か地獄か

約半年前、私は生きることに飽き飽きしていた。
そして、度重なる猛暑で頭がおかしくなっていたのかもしれない。国のある公募に飛びついてしまった。

3光年先にある新たな楽園を求めるこのプロジェクトは、片道切符であるため命を賭けることになる。テクノロジーの発展により、3光年という距離を30年で移動できるようになったものの、軽量化されたロケットには往復の燃料を搭載できない。行き着く先がどんなところであろうと戻れないのだ。

飛んだギャンブルだが、これから向かう星は水が豊富で年間の平均気温も20度と予想されており、まさに楽園である。これが本当であるなら、命を賭けてもお釣りが来る。

出発当日、他のメンバーが家族と最後かもしれないお別れをしているのを横目に、私は誰にも見送られることなくロケットに乗り込んだ。

カウントダウン後、あっという間に宇宙に到達した。
確かにこのスピードなら30年で到着するのも納得だ。

そこからは長い旅路であったが、ロケットの中は非常に快適だった。他のメンバーも労働や猛暑から解放されたからか、至極楽しそうにしていた。

向かう先が本当に楽園なのかどうかはわからないはずが、ロケットがあまりにも快適なので、きっと楽園に違いないと全員が思ったまま30年の時が経った。

ようやく見えたその星は、故郷に戻ったのかと錯覚するほど見覚えのある青色だった。

私も流石に期待を膨らませてしまったが、一番の不安である着陸が迫っていた。リーダーによると、大気の厚さが星によって異なるため近づけたとしても無事に着陸できる保証はない、とのことだった。

しかし、不安とは裏腹にあっという間に着陸に成功した。そして、次々とメンバー達はロケットの外に出た。

なんの問題もなく息ができる。何よりも、涼しく、気温は23度だった。この星は本当に楽園だったのだ。

少し歩くと海を見つけたので、おそるおそる海水を舐めてみた。全く塩っぱくない。30年ぶりに舐めた水は格別だった。

3光年先にこんな楽園があったのか。本当に来てよかった。

しばらく休んでいると、大きな地震が起きた。
体感したことのない揺れを感じていると、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

いや、暗くなったのではない。陰に隠れたのだ。

上を見上げると、1.5メートルを超えるであろう二足歩行の生物がそびえ立っていた。

ここは、楽園ではない。地獄だ。

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