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社会人をしながら博士学生をしています。刹那的に人を熱狂させる文章的ではなく、じんわりと…

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社会人をしながら博士学生をしています。刹那的に人を熱狂させる文章的ではなく、じんわりと心に残るような文章を書くことを目指しています。

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記事一覧

ルックバックが描いたものを考える - 『ルックバック』

僕は藤野のキャラが好きだ。 最初は、いいカッコしいなところを苦々しく見ていた。まるで若い時の自分を見ているようだ… だから、藤野は自分のことが大好きで、ちょっと…

dice.sugar
2日前
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中年の危機の乗り越え方を考える - 『パーティが終わって、中年が始まる』

無責任な変化は楽しい。制約のない自由な思考をして、日々の刺激に身を任せる。 私の場合、大学院がそういう時期だった。社会的に成し遂げなければいけないこともなければ…

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3日前
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イスラム教の神秘主義をミステリ小説のように描く - 『火蛾』

「言葉とは、騎士を失った虚しい馬にすぎぬ」「意味はすぐに剥落する」 わたしは読書が好きだ。だから、この言葉と本書で出会ったときにはある種の感動を覚えた。 本書は…

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8日前
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この本を読んでいなければあなたはサルです 『必読書150』を読んで

「このブックリストを読まなければサルである」そんな過激な主張が本書では繰り返し語られる。ここでいうサルとは、人類の積み上げてきた思想的な蓄積を知らない無知さの例…

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5か月前
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「意味」と「価値」

吉本隆明の「ひきこもれ」を読んだ。一番興味深かったのは、「意味」と「価値」の話だ。 彼によると、人とコミュニケーション力が高い人は他人と感覚を調和させることが上…

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1年前
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ルックバックが描いたものを考える - 『ルックバック』

僕は藤野のキャラが好きだ。 最初は、いいカッコしいなところを苦々しく見ていた。まるで若い時の自分を見ているようだ… だから、藤野は自分のことが大好きで、ちょっと人よりも多才で、負けず嫌いな自分中心な人という印象だった。 そういうわけで、中盤までは、そんな藤野が人生で初めて(かは分からないけど)敗北を経験して(この時の表情がいい)、成功するための努力を描く青春物語かなあと思っていた。よく見る自己実現系の話。 だけど、見終わって気づいた。 これは、彼女の成功の物語ではない。

中年の危機の乗り越え方を考える - 『パーティが終わって、中年が始まる』

無責任な変化は楽しい。制約のない自由な思考をして、日々の刺激に身を任せる。 私の場合、大学院がそういう時期だった。社会的に成し遂げなければいけないこともなければ、守るものもない。全ての責任は自分自身にあり、ヘマをしても自分が悲しい思いをすれば済む。 社会に出てそうした生活の尊さを実感する。あの時の心は自由だったと。 これは本当に恐ろしい文章だ。中年とはそんなにも感性が鈍ってしまうものなのか? 本書で唯一希望がみられるのは以下の部分だ。 老いは深い叡智をもたらすが、若

イスラム教の神秘主義をミステリ小説のように描く - 『火蛾』

「言葉とは、騎士を失った虚しい馬にすぎぬ」「意味はすぐに剥落する」 わたしは読書が好きだ。だから、この言葉と本書で出会ったときにはある種の感動を覚えた。 本書は、スーフィズムに傾倒する男性を中心に展開される。スーフィズムとは修道者の内面的な浄化によって神との直接的な結びつきを目指すイスラム教の神秘主義的な分派である。 一般的には宗教の教えは言語で広まる。聖書や、コーランなどがその代表だ。教えが広まるにつれて、言葉自体が神聖視される。そのような道筋を辿るのは想像に難くない。

この本を読んでいなければあなたはサルです 『必読書150』を読んで

「このブックリストを読まなければサルである」そんな過激な主張が本書では繰り返し語られる。ここでいうサルとは、人類の積み上げてきた思想的な蓄積を知らない無知さの例えである。 確かにそうだな、ここに挙げられている本をほとんど読んだことがないわたしはサルも同然だな、と思う。だが、だからと言ってこのブックリストを全て読み切ってやろうと息巻く気持ちにはなれない。そんな一時の感情は長続きしないことを知っているからかもしれないし、単純に天邪鬼なだけかもしれない。 しかし、リストの中には

「意味」と「価値」

吉本隆明の「ひきこもれ」を読んだ。一番興味深かったのは、「意味」と「価値」の話だ。 彼によると、人とコミュニケーション力が高い人は他人と感覚を調和させることが上手い。コミュニケーションは集団に「意味」を生み、「意味」は物語となり人々の共通認識を生み出す。 逆に、一人でいることは「価値」を生む。調和ではなく、世界に対する洞察を深め、新しいモノを創り出す。 本書全体の論調としては一人でいることを薦める内容にはなっているが、コミュニケーションの意義も大きいなと思う。「意味」が