「ソフトウェア・ファースト」を読んで①

随分前に読んだものですが、プロダクト開発・企業のDX戦略を考える際に非常に示唆に富んだ本だと思います。

この本から学んだことは以下です。

ユーザー志向のプロダクトをスピード感を持って作ることは、外注では難しいケースが多い。そのため、ソフトウェア開発をどのように進めるべきかについて現場感を持った事業会社内部の人材育成が必要。人・組織にまつわる話なので一朝一夕にはできないが、プロダクト開発をなるべく内製化することが、事業会社として重要な戦略であり競合優位性になる。

生き残っている会社や成長を続けている会社の共通点は、「変化し続けている」ということです。

及川 卓也. ソフトウェア・ファースト (p.3). 日経BP. Kindle 版.

「事業会社のモデルは5年ごとに変わる」という経営理論を聞いたことがあります。

それなりに大きい企業は数年ごとに「中長期計画」を作りなおしていると思います。
「目指すべき姿がどれくらい変化しているか、変化を起こすために何をしてきてどう変わったのか」が重要だなと思いました。
マイクロソフトといった米国のIT企業ほどの変化は、日本の大企業ではほぼ起きていないような気がしました。
私がすぐに思いつくのはユニクロや総合商社くらいです。

こうして、SaaSそのものやアズ・ア・サービス的な思想を取り入れるための技術が、さまざまなプロダクトをサービス化しているのです。

及川卓也. ソフトウェア・ファースト (p.27). 日経BP. Kindle版.

サービスアップデートのサイクルをいかに早くできるかが重要です。
生産性の向上にあたり、2%の改善(インプルーブメント)と20%の革新(イノベーション)のそれぞれのアプローチを取るという考え方があります。
生産性の概念は以下の本から学びました。

すべての産業がソフトウェア化している世界では、「2%の改善を続けていった結果、20%の革新が達成されている」ということかもしれません。あるいは、「2%の改善を続けていった結果、20%の革新を行うためのインサイトが得られる」ということもありえそうです。

しかし、アジャイル開発の目的は全体の工程をただ単に短縮するというよりも、変化への対応を素早くすることにあります。

及川卓也. ソフトウェア・ファースト (p.30). 日経BP. Kindle版.

アジャイル開発の手法から連想されるのは「2週間ごとにスプリントを行う」「開発バックログを適切に管理する」といったことです。
しかし、背景にある考えを十分に理解できていなかったように思いました。
「ユーザーからのフィードバックを元に、変化にすばやく対応する」ということが重要です。重要なのは早くリリースして、フィードバックを元に、改善活動を高速で行うことです。
大がかりなシステム開発プロジェクトで社内でやるやらない判断をして、要件を検討し…と数カ月かけて開発を行うよりも、最小の要件をクイックに世の中に出していき、改善を重ねていくスピード感が重要だなと改めて思いました。

クラウドサービスもリリースするまでは大変ですが、リリースしてからも大変なのです。開発チームと運用担当部署が密接に連携する、もしくは別部署ではなく同一部署でどちらも担当する。今はそんな時代になっており、この開発と運用が一体化したプロダクトの進化のさせ方をDevOpsと呼びます。

及川卓也. ソフトウェア・ファースト (p.33). 日経BP. Kindle版.

スピーディーに開発したうえで、リリース後の運用もしっかりと行うのは意外と難しい印象があります。
0→1が好きなメンバーが開発をして、10→100が好きなメンバーが運用をやるという感じで、アサインメントで開発・運用のプロセスが分断されてしまうことが多いのではないでしょうか。
リリース後に、開発を主導したメンバーが数年単位でプロダクトを見続けるか、1→10の人材をアサインできるかかがポイントかと思います。

そのような中、事業やプロダクト開発を成功させるには、ソフトウェアの流儀を知り、ソフトウェアの可能性も知りつつも、現状のソフトウェアが抱える限界も理解して開発に臨む姿勢が必要なのです。

及川卓也. ソフトウェア・ファースト (p.36). 日経BP. Kindle版.

ソフトウェア開発だけでは解決できないビジネスを以下に変革するかという課題意識があるようです。
日本の主要産業はアナログなものが多く、単純にソフトウェアに置き換えるのは難しいものが多いように思います。
日本のデジタル化は世界から遅れは取っています。

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しかし、アナログとデジタル・ソフトウェアを組み合わせることは難易度が高い分、実現できたときの改善幅は大きいはずです。ソフトウェアをうまく活用できた産業・企業は、リープフロッグ的に世界のトップランナーになる可能性を秘めているのではないでしょうか。

変わらないもの──それはビジョンやミッションであり、それに関連する社会課題や価値観です。目指す世界観に対して、ソフトウェアという変化し続ける手段を用いる人間に必要なのは、成し遂げようとする執念であり、成し遂げるために考えること、考え続けることです。

及川卓也. ソフトウェア・ファースト (p.38). 日経BP. Kindle版.

目的と手段を混同しないようにするということかなと思います。
ソフトウェアを活用するのは有効な手段ですが、使い方を間違えないように、ビジョン・ミッションに立ち戻って考え続ける必要があります。

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