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ゆきみ

三〜四年前、コロナ禍真っ盛りの頃。誠にお恥ずかしながら、私はその当時小説を書いていた。今思えば全くもって人様にお見せできるような代物ではなかったし、とんでもない黒歴史を創造していた事にぞっとする。もしかしたら「えっ!いつかこのnoteで連載とかしないんですか!?」とお思いになられた読者諸賢もいらっしゃるかも知れないので言っておくが、んなこたぁ絶対にしねぇよ!(笑)

なお、その小説の主人公は「雪美」という人物であった。年齢は40歳、身長はやや高めでちょっぴりむちむちした体系。趣味はカラオケで歌うこと、ヲタクとして女性アイドルを愛でること。そして真っ白なお肌が自慢の中年女性である。物語は雪美が仕事において優秀な右腕となる元アイドルの女子大生と出会うところから始まり、その後あれこれ紆余曲折したのち長年の友人である同業者の男性と結婚するまでを描いていた。

構想としては第四章まで書き上げるつもりだったのだが、私には生憎そこまでの超大作を書き切れるほどの気力と文章力は無く、至極中途半端な所で投げ出してしまった。今も一部だけデータは残っているが、何が悲しくて再び負の遺産を覗かねばならんのだ、という心持ちから見返すことはしていない。

閑話休題。私は飲食店、さらに詳しく言うとバーで働いている。幸いなことにお店での日々は凄く充実しているし、バーテンダーという職業に誇りを持っている。だがしかし、そんな天職に就きながらも、とても理不尽な目に遭ったり、嫌気が差したり、悲しい思いをして落ち込んだりする瞬間が時折ある。どういう瞬間に仕事が嫌になるのかという具体例をここに記すことはしない(できない)のだが、ごく稀に「こんな仕事やってられるかバーカ!」「もう駄目だ……辞めようかな……」というどん底の境地まで落ちてしまう。

ただ、そんな時は決まって頭の中で誰かが

「へこたれるな!理不尽な世の中に中指を立てろ!」
「お願いだからもう一度立ち上がって!」
「大丈夫、貴女は強い」

と私に語り掛けてくる……と言うとまるで妄想癖のある頭がイカれ倒した奴みたいに思われるかも知れないが、一旦そこにはつっこまないでほしい。大丈夫、病んだりはしていないからね。モーマンタイ。兎にも角にも、私はその声の主に何度も何度も奮い立たされてきた。

なお、その人物は大体40歳くらい。背が高く、お尻や太ももがむちむちしており、色白なところが私にとてもそっくりの女性バーテンダーである……そう、彼女は小説に登場する「雪美」であり、雪美は「将来こうなりたい」と思って描いた理想の未来の自分であった。

(執筆は頓挫したけれど)物語の構想として雪美がアルバイトの女子大生に自らの過去を語るシーンがあった。彼女はバーで働き始めた当初は至極不器用かつ要領も悪く、周囲の同業の先輩方から「バーテンダーには向いていない」と何度も言われてきた。その他にも彼女の人生には大きな苦難や悲しみが沢山待ち受けていたのだが、負けん気だけは誰よりも強い性格故、それら全てを乗り越え、跳ね除けて自身の店をオープンさせるに至った。

そんな彼女は現実の私が仕事でへこたれそうになる度に「その程度で投げ出すな!貴女がここで辞めちゃったら、私の存在が消えちゃうでしょ!私は貴女の理想なんでしょ!?」と脳内で檄を飛ばしてくる。そしてその声に私は何度も何度も立ち上がってきた。いつか雪美という人物を単なる狂った妄想ではなく、現実のものにしなければならないと思うのだ。

こうして私は雪美というアラフォー女性バーテンダーの姿を頭の片隅の片隅にちょこんと置きつつ、日々の仕事に取り組んでいる。なお、恐らくここまでの文章を読んで「筆者は酷い妄想癖の持ち主なんだ……病院に連れて行かなきゃ……」とお思いになった読者の方もいらっしゃるかも知れない。まあ、確かに少し狂っているかも知れないけれど、未来の理想の自分を創り上げるのは現在の自分の士気を高める一つの方法として有効である。

ちなみに今回の記事のヘッダー画像は天才神絵師である友人が描いてくれた小説の登場人物達である(素敵なイラストをありがとう。勝手に使ってごめんね)。中央が雪美、右側が雪美の店で働く大学生アルバイトで元アイドルの彩乃ちゃん、そして左側が後に雪美の夫となる同業者の誓斗(チカト)くんである。

誓斗くんもまた「博学才穎、温厚篤実、高身長色白塩顔眼鏡」という自身の理想を詰めに詰め込んだイケメンで、雪美は26歳の時に彼と出会っている設定なのだが……おかしいぞ。現実の私は26歳をとうに過ぎているのに、未だに誓斗くん(のような男性)に出会っていない。マジか。

なのでもしかすると、仕事面では将来雪美のような強くて理想的なバーテンダーになれるかも知れないが、プライベートの面では40歳を過ぎても独りで侘びしく生きている可能性が高い。なんてこった!(笑)

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