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「来週、マグロを釣りにいきます」雑談から生まれたイノベーション

その仕事、全部やめてみよう』著者・小野和俊インタビュー(2)

コロナ禍によりリモートワークが進み、今、雑談の重要性が見直されています。雑談を通して、思わぬ形で新しいアイデアが生まれ、メンバー間のコミュニケーションが円滑になることも多々あります。
ITベンチャーの代表を10年以上務め、現在は老舗金融企業のCTOとして企業改革を実行。『その仕事、全部やめてみよう』の著者・小野和俊さんは「定例会議の半分は雑談をしている」と言います。
もちろん、ただ雑談しているのではなく、その奥には「今という時代のコミュニケーション」や「個人の強みを活用する人材登用」など確かな考えが見え隠れします。
会議で雑談をする意味や効果はどこにあるのか?
今、職場に必要なコミュニケーションとは何なのか?
「生産性向上、イノベーション創出に効く雑談のコツ」を教えてもらいました。
(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

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小野和俊(おの・かずとし)
クレディセゾン常務執行役員CTO
1976年生まれ。小学4年生からプログラミングを開始。1999年、大学卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。研修後、米国本社にてJavaやXMLでの開発を経験する。2000年にベンチャー企業である株式会社アプレッソの代表取締役に就任。エンジェル投資家から7億円の出資を得て、データ連携ソフト「DataSpider」を開発し、SOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞する。2004年、ITを駆使した独創的なアイデア・技術の育成を目的とした経済産業省のとり組み、「未踏ソフトウェア創造事業」にて「Galapagos」の共同開発者となる。2008年より3年間、九州大学大学院「高度ICTリーダーシップ特論」の非常勤講師を務める。2013年、「DataSpider」の代理店であり、データ連携ソフトを自社に持ちたいと考えていたセゾン情報システムズから資本業務提携の提案を受け、合意する。2015年にセゾン情報システムズの取締役 CTOに就任。当初はベンチャー企業と歴史ある日本企業の文化の違いに戸惑うも、両者のよさを共存させ、互いの長所がもう一方の欠点を補う「バイモーダル戦略」により企業改革を実現。2019年にクレディセゾン取締役CTOとなり、2020年3月より現職。「誰のための仕事かわからない、無駄な仕事」を「誰のどんな喜びに寄与するのかがわかる、意味のある仕事」に転換することをモットーにデジタル改革にとり組んでいる。著書に『その仕事、全部やめてみよう』がある。

「今週の予定確認」なんて、やらなくていい

――『その仕事、全部やめてみよう』には「遊び人」「遊び心」といった“遊び”を主軸にした話がたくさん出てきます。仕事のおける“遊び”の大切さをどのように感じていますか?

小野 遊びは本当に大事だと思っていて、よくチームのメンバーとも「定例会議では雑談をしよう」と話しています。

 週次で1時間の定例会議があるんですが、30分以上雑談がなかったら「今日は雑談が少なくてイマイチだったね」という感想が出ますね

――本当に、仕事とまったく関係ない雑談をしているんですか?

小野 そうです。「来週、マグロを釣りに行きます」って言う人がいて、「えっ、マグロってどうやって釣るの?」なんて話しています(笑)

 そもそも、会議でよくやる「今週の予定の確認」とか「先週のアップデート」とか「君、何をやってたの」みたいな話は、文字情報を読めばわかるじゃないですか。

 そんなことならわざわざ集まる必要はありません。

 むしろ雑談をして、思わぬところで新しいアイデアが生まれたり、いろんな人が自由に話をできたほうがいいと思っているんです。

 会議って、いわゆる「声の大きい人」が発言しやすくて、そうでない人は発言しにくい雰囲気がありますよね。立場が低い人は意見を言いにくいとか。そういう心理的なハードルってあるんです。

 でも「来週、マグロを釣りに行くんです」「昨日、ゲームをやり過ぎて眠いです」なんて話をしてると、誰でも話しやすくなりますよね。

 そうやって「仕事と関係ない話」をしていると、急に「ちょっと仕事の話なんですけど」と言い出す人が出てくる。そして「関係ない」「役に立たない」と思っていた話が、突然、仕事に繋がることがよくあるんです。

――雑談が活きた事例を教えてくれませんか?

小野 セゾンカードに「セゾンのお月玉」という現金がプレゼントされる企画があるんですが、そのアプリの背景はいつも同じだったんです。

 あるとき、雑談の延長で若い女子社員が「あの背景、いつも同じで飽きちゃいましたよ」と言い出したんです。「そうだね、そうだよね」なんて雑談の雰囲気から、「じゃあ、クリスマスはサンタにしてみる?」「バレンタインはチョコにして」と話がどんどん広がっていきました。

 最終的には当選した人に郵送する現金書留の封筒も「絵柄を合わせよう」となりました。たとえば、2月に当選した人は「板チョコデザインの封筒」で届くことになったんです。

 TwitterやインスタグラムなどのSNSで「#セゾンのお月玉」というハッシュタグで検索していただくとわかるのですが、季節ごとの絵柄の封筒に花やぬいぐるみを添えて「インスタ映え」する写真を投稿してくださっている当選者の方がたくさんいます。

 ずっと同じ封筒だったとしたら、こうした投稿はもっと少なかったはずです。こういう話って、真面目に会議してても絶対ダメで、雑談をする中で生まれてくるのだと思います。

「役に立たないけど、夢中になれるもの」が大事

小野 そもそも、イノベーションが起こるパターンの一つは「繋がらない」と思っていたものが「繋がるとき」です。

その仕事、全部やめてみよう』にも書きましたが、スティーブ・ジョブズは大学時代に「カリグラフ(文字の形状の美しさ)」の研究をしていました。

 それが後に「美しいフォントを持つコンピューター、マッキントッシュ」のイノベーションに繋がるとは誰も思わない。本人だって、最初は思っていなかったはずです。まさに「繋がらない」と思っていたものが「繋がった」瞬間です。

 だから、役に立つことだけをやっていてはダメで、「役に立たないけど、夢中になれるもの」が大事なんです。雑談をしていると、仕事、プライベート関係なく、その人が「夢中になっていること」が見えてきます。そういうものって限界がないので、満点を超えていけるんです。

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――「役に立たないけど、夢中になれるもの」って、すごくいい表現ですね。まともな会議ではなかなか話題になりにくいので、まさに「雑談ならでは」ですよね。

小野 本当にそうです。もともと僕は「その人を理解しよう」「その人の特性を知りたい」とすごく思っているんです。

 仕事をアサインするとき、その人がどんな特性を持っているかを知っておくのは大事ですよね。それも仕事の範囲だけでなく、その人が夢中になっているものを知っておくと、やっぱりアサインしやすいじゃないですか。

 休みの日には一歩も外に出ず、ずっと読書している人もいるんです。会議の中で「週末、何やってた?」って聞くと、絶対「本、読んでました」って言うんです。

 それで、「言葉の選び方」がポイントになる仕事があったら、その人に振ってみようと思いますよ。それが嫌いな人より、夢中になれる人のほうが成果を出す可能性は絶対高まりますからね。

 事例で言うと「AIと機械学習の専任担当者を置こう」という話があったときに、手を挙げたエンジニアに「何が一番好きなの?」と聞いたんです。すると「FXのトレード」だって言うんですよ。かなり夢中でやってるみたいなんです。

 AIや機械学習の適用分野として、これまでの値動きから将来の値動きを予測するという分野があります。そこで、僕は「この先2ヵ月間は、仕事中、ずっとFXやってていいよ。その代わり、AIと機械学習を使って、身銭でやってね」と言ったんです。

小野 本人は「えっ、いいんですか」と言ってましたけど、仕事と「自分のやりたいこと」が完全にリンクして、夢中でやっていました。結局、運用結果はプラスにはならなかったみたいでしたけど、そこで学んだことを生かして、その後の仕事では成果を上げてました。(笑)

――「その人の特性知り、特性を生かす」のは、今の時代に強く求められている気がします。

小野 そうですね。これからの時代は特に「平均的にいろいろできる人」より「尖った人」が必要だと感じます。

 僕自身、レーダーチャートで特性を表したら、平均的にレベルが高いってことは全然なくて、1つは5点満点中15点を叩き出すけど、0点を取る項目もあります。

 一般的に世の中って「足りないところ」がまず注目されちゃうんですけど、じつはそれって時代に即してないんです。

「谷」を埋めるな!「山」を作れ!

 かつては製品開発にしても、ソフトウェア開発にしても、日本の中で勝っていればよかった。国レベルの参入障壁もありましたし。でも、今は始めた瞬間からすぐ世界勝負です。

 そんな状況なので「癖のある、尖った部分」で勝負しなければ簡単に負けてしまいます。

 旧来の日本企業は、いろんな部署をローテーションで経験させて、実際に現場を体験して、いろいろ学んで、どちらかと言うとレーダーチャートの「欠けている部分がないこと」を重視してきました

 製品開発も同じ発想で、「他社と比べて、当社だけこの部分が劣っているのはマズイんじゃないの、君」とか言って、すぐに欠点を埋めるほうに話がいってしまう。

 結局、それって勝てないやり方になってしまっているんです。『その仕事、全部やめてみよう』の中でも、マイクロソフトの製品と競合した事例をもとに、「商品・サービスの短所(谷)を埋めるのではなく、長所(山)を徹底的に伸ばすべし」という話をしています。

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 12年間の義務教育の経験もあるし、新入社員として会社に入ったときは「お前、これを覚えておかないとダメだぞ!」と先輩から言われて、とにかく「谷を埋める」ように、ずっと教育されてきちゃうんです。そのせいで、もともとはすごく突き抜ける可能性があった人が丸くなっていってしまう。

 例えば、同級生で「この人はすごいな」と思えるプログラミング能力を持っていた人が、大学を卒業して就職して、自社製品の知識や各部門の業務を覚えていって、しばらく経って会ったときには、かつてあったプログラミング能力の目立った部分が大きく色あせてしまっていたことがありました。

 これってあきらかに才能の機会損失で、すごくもったいないと僕は思っているんです。

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【取り上げられた本】
その仕事、全部やめてみよう
 小野和俊(著)

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<内容紹介>
各氏が大絶賛! 入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授) 「すべて同意! ビジネス価値創出への 『5つの心構え』をまとめた決定版だ」 鈴木健(スマートニュース創業者・CEO) 「これは仕事術ではない。ゲームのルールは 変えられることを証明した珠玉の実践知だ」 プログラマー×起業家×CTOが語る 「超」効率的な仕事の進め方・考え方
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