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なぜ真面目に働いているのに出世できないのか?

『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』著者・奥野一成インタビュー(1)

「お金持ちになるための方法」について、ここまでわかりやすく語られていた本が、いまだかつてあったでしょうか。『15歳から学ぶお金の教養 先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』が発売早々、話題を呼んでいます。「15歳から学ぶ」と謳われているとおり、とてもわかりやすく書かれていますが、見くびってはいけません。ベテランのビジネスパーソンが読んでも唸る内容なのです。「もっと若いときに読んでいれば……」と呆然とする人が続出中です。著者である奥野一成氏は、プロの投資家から約4000億円の資産を預かり運用実績を上げ続けるファンドマネージャー。数々の企業・ビジネスの盛衰を見てきた奥野さんは、これからの時代で「出世できる人」「出世できない人」には決定的な違いがあると語ります。(取材・構成/川代紗生、撮影・疋田千里)

プロフ

奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実戦する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は約4000億円。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』 『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』など。

意外と分かっていない「お金の仕組み」

── 今回の本、めちゃくちゃ面白かったです! 私は「お金の仕組み」についてまったく詳しくないですし、むしろ苦手意識があったのですが、『15歳から学ぶ』とタイトルにある通り、とてもわかりやすい解説でした。冒頭で「親御さんの言うことを鵜呑みにしないでください」「お金持ちになりたいなら、お金を求めてはならない」という言葉が出てきたのも衝撃的でした。

奥野一成(以下、奥野):近々、高校の授業にも「投資」が組み込まれるそうです。これからの時代、「お金の仕組み」を学ぶのは必須になるかもしれませんね。ただ、一般的に「お金の仕組み」の本質ってあまり知られていないんです。今回の本では、いわば「お金のプロ」であるファンドマネージャーの視点から、15歳でもわかるように噛みくだいて説明しました。

── 奥野さんは2003年に農林中央金庫に入庫、2014年からは農林中金バリューインベストメンツCIO(最高投資責任者)として活躍されています。どんな業界・会社が伸びるのか、どんな経営者が優秀なのか……。これまでに数多くの会社や人材を見てきたのではありませんか。

奥野:ファンドマネージャーとは、世界中から優良な会社だけを選りすぐって、多くの方々に投資してもらう仕事ですからね。株価が上がる・上がらない、会社が成長する・しないの見極めは日々、シビアにしています。

均質な労働力が求められていた「モノの時代」は終わった

── そんな奥野さんの目から見て、「出世する人」「出世しない人」の違いはどこにあると思いますか? 一生懸命努力しているのに結果が出せない、認めてもらえない、出世できない……。その原因は、いったい何なのでしょうか。

奥野:出世できない人に共通しているのは、「自分で考えられない」ことです。「上司の言うとおりにやる」だけでは、30代半ばくらいで成長が止まるでしょうね。年功序列である程度のところまで行けたとしても、本当の意味での「マネージャー」になることはできない。

── 本当の意味での「マネージャー」?

奥野:少し、歴史をふりかえって考えてみましょうか。日本の景気がよかった1990年以前は「モノの時代」だったんです。バブル経済のころの話です。世の中でモノが不足し、家電、マンション、自動車など、大勢の人が高級品を買い求めていました。日本企業は、欧米企業の真似をして工場を建て、モノを大量生産していた。

 つまり、昔はすでに成功している企業の「モデル」があり、「正解」通りに安く・大量にモノをつくれば企業は成り立っていたわけです。そういう時代に求められていたのは「均質な労働力」。つまり、上からの指示に従って一定水準のクオリティをアウトプットする労働力です。

 しかし、この30年で「モノ不足の時代」から「モノ余りの時代」になった。アメリカにある製品を真似して安く・大量につくるというビジネスモデルはもはや崩壊しているわけです。

── これをつくったら儲かる! というものは存在しないわけですね。

奥野:現在の、いわば「完全に答えのない世界」で勝つのはモノを作り出す人ではありません。アイデアを生み出す人です。社会の問題・課題を解決するアイデアを生み出した人が、世の中を動かすようになる。

 さて、そういった「アイデアの時代」には、どういう人が求められると思いますか?

── あっ、そうか……。「上の指示や正解を待つ人」ではなく、「自分で考えられる人」、でしょうか。

奥野:そのとおり。自分で考えて、新しいものを発想できる人。

本当のニーズは、お客様に聞いてもわからない

── でも、「新しいアイデアを生み出す」って、簡単ではないですよね……。

奥野:もちろん簡単ではありません。ただ、日本人って「イノベーション」とは何なのか、勘違いしている人が多いんですよ。たとえば、テレビのリモコン。「とにかく機能的にしなくちゃいけない」「新しい機能を」と凝りすぎてボタンをつけすぎちゃって、その結果、一番大事な再生ボタンがめちゃくちゃ小さくなってる、みたいなことよくあるでしょう?

── たしかに。えっ、再生ボタンどこ? みたいな(笑)。

奥野:新しい素材を生み出すことだけが「イノベーション」じゃないんです。iPhoneだって「イノベーション」だと言われているけれど、ボタンを増やしたわけじゃない。スタートボタンひとつだけの、余計なものを排除したスマートなデザインですよね。

 つまり、一番重要なのは「お客様の問題を発見する」こと。さらに噛み砕いて言うと、「お客様も気がついていない根本的な問題を発見し、価値を提供する」ことです。

── なるほど。「お客様も気がついていない」というのは、どういうことでしょう?

奥野:「本当にほしがっているものは、お客様に聞いてもわからない」ということです。たとえば、お客様に「どんな洗剤がほしいですか?」と聞いて、「安い洗剤がほしい」と答えたとします。それをそのまま受け取って、安い洗剤を売ってちゃダメなんですよ。

 その人が本当に欲しているのは、洗剤そのものじゃなくて「服が清潔である状態」だと気がつかなくちゃならない。そこから発想を広げてみれば、「洗剤がなくても使える洗濯機」があったらいいじゃないか、「汚れがつかない繊維」を開発してみようか、とアイデアが生まれるかもしれない。

 つまり、出世するために必要なのはスキルではないんです。お客様に価値を提供するんだ、と「お客様ファースト」で考えるマインドなんです。

 どんなに素晴らしいスキルが揃っていても、マインドがなければ意味がない。

「なぜ」を4回繰り返してお客様の向こう側へ行け

── 心の奥底では求めているけど、お客様自身も言語化できていないニーズを発見する──。そのために、奥野さんが心掛けていることはありますか?

奥野:本質的な問題を発見するには、「なぜ」を4回繰り返すといいと言われています。「お客様はなぜ、ああ言ったんだろう?」「上司はなぜ、あんな指示を出したんだろう?」と深く考える。言われたことをそのままやるんじゃなくて、「お客様の向こう」に行かなきゃダメなんです。

── 「お客様の向こう」に行く、ですか。

奥野:もっと直接的な言い方をすると、上司の話を聞いてちゃダメってことですね(笑)。上司はこう言っていたけど、上司じゃなくてさらにその上の部長だったらどう言うだろう? 社長だったらどう言うだろう? と考えられる人こそ出世するんです。「ネジの値段を下げたい」という上司のニーズは上司個人のニーズであって、もっと上の社長の視点を意識してみると、「会社全体のコストを下げたい」という課題が見つかる。目の前のことにばかりとらわれちゃダメなんですよ。

── なるほど! では、たとえば営業をする際も、その交渉相手が言っていることだけを真に受けるのでなく、その先を考えてメリットを提示する人が優秀である、ということですね。

奥野:そのとおり。あなたが飲食店に100万円の厨房機器を売るセールスマンで、お客様から「100万円じゃ高いから他のメーカーの80万円のものにします」と言われたとしますよね。それを真に受けて引き下がっちゃだめなんですよ。本当に優秀なセールスマンなら、「このオーブンは機能性が高いので、アルバイト一人分の人件費を削ることができます。トータルコストで考えると、うちの製品を買ったほうが安いですよ」とお客様の向こう側に行った答えを提案できるはずです。

── 出世できない人というのは、「なぜ」という問いかけを、4回どころか1回もしていないかもしれない……?

奥野:1回もしてないでしょうね。たぶん、「自分が売れないのは製品が高いからだ」「会社がたいしたものをつくっていないからだ」と、自分の権利しか考えていない。出世できる人は、ちゃんとお客様の向こうが見えている。「AIに人間の仕事が奪われる」とよく言われますが、自分で考えて本質を見抜ける人ならば、これから先の未来でも求められ続けるでしょうね。

【著者からのメッセージ】

メッセージ1

メッセージ2

メッセージ3

先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?

みんなと同じように学校へ行き、みんなと同じように就職し、みんなと同じことをやっていれば、「中流」程度になれた時代は終わりました。
変わりゆく世界をどう生きていくべきか? 豊かになるにはどうすればいいのか?
「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という率直な高校生の疑問を発端に、生徒と先生の対話形式で投資を楽しく学べます。
「お金の教養」を学ぶことは、誰もが憧れる「お金持ち」に近づくためのはじめの一歩です。
本書ではお金持ちなら誰でも知っている世の中の仕組み、お金にまつわる知っておきたい事実、投資や複利、時代の変化や、経済の仕組み…等「お金のプロ」が「お金の仕組み」を、図やイラストでわかりやすく解説します。

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奥野一成:著
価格:1650円(税込)
発行年月:2021年3月
判型/造本:46並製、224ページ
ISBN:978-4-478-11253-3


著者である奥野一成氏は「ビジネスエリートになるための 教養としての投資」も執筆する人気作家で、本業はファンドマネージャーであり、農林中金バリューインベストメンツの最高投資責任者。
プロの投資家から約4000億円の資産を預かり運用実績を上げ続けるファンドマネージャーです。
高校生向けに「投資」の授業を行ったり、投資実践番組で講師役を務めるなど日本人を豊かにするために「投資」を世の中に広めたいとの想いから筆をとりました。
2022年から高校の授業に「投資」が組み込まれます。
日本人にとって「投資」が当たり前になる世界に向かって高校生だけではなく、改めて学びなおしたい方の入門書にもおすすめの教科書的な一冊です。
知らなかったですまされない「お金の教養」を身につけましょう。

<目次>

序章 お金持ちになるにはどうしたらいいの?
第1章 お金ってなんだろう
第2章 経済のしくみを知ろう
第3章 投資ってなんだろう
第4章 「複利」という強力なエンジン
第5章 会社のしくみを知ろう
第6章 価値を創造しよう

第7章 構造的に強靭な人間になろう

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【取り上げられた本】
『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』
 奥野一成 著

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<内容紹介>

2022年から高校の家庭科の授業に「投資」が組み込まれる。 しかし、多くの親や教師は、どうやって「投資」を教えていいのかよくわからない。 そこで「お金とは何か」「資本主義とは何か」に対する指針となる考え方を示したい。 「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」をテーマに、図版などを多用し、 わかりやすく「お金」の仕組みを解説、「投資」とは何かを説いていく。 大人が読んでも勉強になる「お金の教科書」!ジュニア版『教養としての投資』!  ————————————————————————————