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ビジネス書なのに「9歳から90歳まで」読んだ!『頭のいい人が話す前に考えていること』65万部突破の裏側に迫る

2023年ビジネス書単行本年間ベストセラー1位(ビジネス書単行本/日販・トーハン調べ)、2024年ビジネス書単行本上半期ベストセラー1位(同上)を獲得した『頭のいい人が話す前に考えていること』。65万部を突破し、あちこちで大絶賛されている本書を読めば、誰でも頭がよくなること間違いなし! そんな本書の誕生秘話や、隠された仕掛けなどを、出版社・ダイヤモンド社の新入社員の菱沼が担当編集者の淡路勇介(あわじ・ゆうすけ)さんに聞きました!

話し方ではなく「話す前」

――65万部を突破し超好調の『頭のいい人が話す前に考えていること』ですが、この本を作ろうと思ったきっかけを教えてください!

 話し方の本って常にベストセラーが出るんですよ。でも、売れるジャンルである「話し方本」の棚の前に立った時、「本当に話し方が一番大事なのかな」と思ったんです。

 それこそ当時で言うと、ある政治家さんが元々は演説などのおしゃべりが上手で尊敬されていたのに、ある日を境にネットで小馬鹿にされるようになりました。それって、話し方だけじゃなくて中身が大事ってことなんじゃないかなと。同時期に、芸人さんの謝罪会見もテレビでやっていて、それを見て「トーク力があっても信頼を得られるわけではないんだな」と感じたんです。

 話し方より大事なことがあるんじゃないかって考えていた時に、「頭のいい人が話す前に考えていること」というタイトルがパッと頭に浮かんだんです。それでこの本が生まれました。タイトルから始まった企画なんです。 

(ベストセラーの秘密をどんどん聞き出していきましょう!)

――話す「前」に着目したっていうのがとても特徴的な本だなと思っていました。その点について、もう少し詳しくお伺いしてもいいですか?

 話す前に着目した理由は、すごく言語化が難しくて、本質的な感じなんです。
 
 例えば、僕は「のび太の結婚前夜」がドラえもんの話の中で一番感動するなって思っています。これって、のび太としずかちゃんの結婚式の日に行くんじゃなくて、結婚式の前の日にタイムマシンで行くんですけど、「前の日」ってすごいなと思って。前の日に人の本質がわかるみたいな。

 〇〇以前みたいなのって、本質がわかる感じがあるなってなんとなくずっと思っていたので、そういう気持ちから「話す前」にたどり着いたのかなと思います。論理的に考えたっていうより、ぼんやり考えてたことが積み重なって、タイトルとして浮かんだ感じですね。

――「話し方」という技を身につけるというより、本質から変えていこうっていう感じなんでしょうか?

 そうそう。結局、話し下手でも信頼される人はいるし、流暢に話せる人が本当に頭がいいとは限らないよなって。

 話し方本を読んだときに、なんか物足りなさみたいなものがあるんですよ。でも、コンサルタントが書いた本質的な思考法の本を読むと、「あれ、なんか難しいぞ?」と感じることがあって。多分、話し方の本を買う人って話がめちゃくちゃうまくなりたいってわけではないんじゃないかなって思うんです。別に芸人さんみたいにお話でウケをとりたいとかそういうんじゃなくて、話がうまくならなくても人間関係がよくなったり信頼されたりするなら、そっちがベストなんじゃないかなと思いました。

 だから、話し方よりも本質的な「話す前」に着目しました。「頭のいい人って話す前に何を考えているんだろう」っていうのは自分でも知りたいと思っていましたし。

読み通せるプライスレスなビジネス書

――「本質」と聞くと少し難しそうな印象を受けるのですが、『頭のいい人』は読み返すことなくさらっと読めてしまいました! なにか工夫などはしていますか?

 「読み返さなくていい」って感想、あちこちからいただきます。多分一番言われることが多い感想なんじゃないかな(笑)。

 いまってみんな忙しくて、本を読む時間をとる余裕ってないと思うんですよ。それこそ、スマートフォンがずっとオンラインの状態とか。

――耳が痛いお話です(笑)。ついスマホを触っちゃうんですよね。

 そうそう。でも、映画館で映画を見る体験の貴重さって変わってなくて。映画を見ている間はスマホを触らず世界に没頭できますよね。物語に没入して涙したり笑ったりっていう体験はやっぱりプライスレスで、体験にお金を払っている感じがあるはずです。

 いまってTikTokとか短尺の動画が流行っている時代で、普通に映画を2時間見るのも家だとスマホを触っちゃう人が多くなっていると思います。だから、本を1冊読み通すことのハードルって昔よりどんどん上がっているんです。

 この集中できない時代に、逆に本を1冊読み通せたら、「読めた! よかった!」って感動できると思います。ハードルが昔より上がっている分、「気づいたら1冊読めちゃった!」という感動は大きい。

 だから、最後まで読んでもらえる工夫はめちゃくちゃしました。表紙タイトル、カバー、開いたページが文字だけにならないようにする、本全体にストーリー性を持たせる、などたくさん工夫しました。気分は接客業ですね(笑)。いかに読者を飽きさせないか、おもてなしの心を大事にして作業しました。

――編集者視点でのおすすめポイントもそういったところにありますか?

 蛇腹折りのシートとイントロの流れです。 

(この蛇腹シート、裏側まで最強なのでぜひ使ってください! 
わたしは書き込んでしまっていたため、隣の席の森さんに借りて写真を撮りました)

 蛇腹はこの穴埋めで受験の時の懐かしさを感じてほしいっていうか。赤シートで隠して勉強したあの感じ。
 
 イントロは、映画のアバンをイメージして作っています(筆者注:アバンは映画の本編以前に流れる映像のこと。物語に入り込みやすいように手助けする役割がある)。イントロって本屋さんで手に取って読めちゃう部分。そこで、強い印象を残せるようにしました。この独特な世界観に入ってもらえたらいいなと思います。

 ここ2つは編集者として自信があるので、ぜひ読んでほしいです。

――イントロでグッと心が掴まれましたし、蛇腹は内容の整理がしやすくて、とっても助かりました! あとやっぱり表紙がシンプルで手に取りやすさを感じました。この表紙にした理由などはありますか?

 最初の企画の出発点としては、「話し方だけが王道ではないでしょ」という思いでした。なので、「話す前」を王道にしたかったんです。「話す前」っていうコンセプトが新しいからこそ、そこを前面に打ち出した表紙のデザインが上がってきました。それを見て、もっと話す前を大事にすることが当たり前なんだっていう感じがほしいなと思ったんです。「新しいでしょ」というとがった感じではなく、「ここに立ち返ってほしい」っていう感じですね。

 その後はどんどん「頭がいい感じ」のデザインになっていったんです。ただ、それだと自分ごととして手に取りにくいんじゃないかなと思って。それで、もう一度デザイナーさんに、この本のコンセプトやこの本を企画したきっかけなどをお話ししたんです。そうしたら、いまの表紙デザインが出てきて、「これしかないです」って秒でお返事しました。もうビビッときましたね。

(表紙デザインの変遷の一部をお見せいただきました。これで一部だなんで驚きですよね)

9歳から90歳までに読まれている⁉︎

――そういった様々な工夫や妥協のなさが65万部突破というすごい数字に結びついているんだなと感じました。今まで読者からの反応で印象に残っているものはありますか?

 まず、読者の年齢層が広いことですね。9歳から90歳までの読者から感想をいただいています。小学生からおじいちゃんおばあちゃんまで。最初は就職活動中の学生が読むイメージだったので、想像以上に幅広い年齢層の読者に読んでもらえているなと感じます。

 あとは、「反省しました」という感想が多いことが印象に残っています。本の中で、「いい例」と「悪い例」が結構出てくるんですけど、「悪い例をやっちゃってました、これからなおしたいと思います」みたいな感想がたくさん来てます。

 実はこの本って新しいことをたくさん言っているわけではなくて、当たり前のことも多いんです。ただ、いまの世の中、当たり前のことを教えてくれる存在って意外といない。それで、この本で学んでくれている人が多いんだなと感じます。 

――9歳から90歳とは驚きです! 最後に、まだ本書を読んでいない人たちへのメッセージと、どんな人にこの本をおすすめしたいか教えてください!

 声が小さい人に読んでもらいたいなと思います。本当は伝えたいことがあるけど、声が大きい人に負けちゃう、そんな人に読んでほしいです。

 それから、この本を読んだからといって、一発で全ての悩みが解決するわけではないです。生きていれば、コミュニケーションをとることに絶望することがあるかもしれない。でも、この本を読むと、丁寧なコミュニケーションをとっていれば、人と関わることって楽しいなって思う瞬間があるんだって感じることができる。

 いますぐ読まなくてもいいから、もし人間関係に悩んだら手に取ってほしいなと思います。

(最後に素敵な笑顔でお写真を! 貴重なお話をありがとうございました!)

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