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コロナ禍でも売上前年比109%突破 「ドムドム」 新業態はまさかの完全キャッシュレス!

『ドムドムの逆襲』著者・藤﨑忍インタビュー(1)

日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」の快進撃がすさまじい。1990年代には全国で400近くあった店舗が27店舗にまで減少したため、一時は「絶滅危惧種」と呼ばれたこともあった。しかし、2018年にある女性が社長に就任してから、ドムドムは変わりつつある。イベントに参加すれば即日完売、コラボ商品を販売すれば大人気、2019年に発売した「丸ごと!!カニバーガー」がSNSで大ヒット。次々に新しいことへチャレンジする「攻めの経営」が功を奏してか、ついに2021年3月の決算では売上前年比109%を突破した。「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)でも特集され、注目されている。飲食業界に大きなダメージを与えたコロナ禍にもかかわらず、なぜこれほどの結果を残すことができたのだろうか。
今回は、そんな「ドムドム」躍進の火付け役・藤﨑忍社長が上梓した『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)発売を記念し、その快進撃の秘密について取材した。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

1プロフ

藤﨑忍(ふじさき・しのぶ)
1966年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒。政治家の妻になり、39歳まで専業主婦。しかし夫が病に倒れ、生活のために働き始める。最初はギャルブームの頃のSHIBUYA109の店長。若い店員とのコミュニケーションがうまく、また店頭ディスプレーのセンスも良く、店の売上は倍増。ところが経営方針の変更により、退職。アルバイトでしのぐが、たまたま空き店舗を見つけ、居酒屋を開業。すると料理の美味しさや接客の良さで一躍人気店に。その腕を常連客に見込まれ、ドムドムのメニュー開発顧問に。「手作り厚焼きたまごバーガー」をヒットさせ、ドムドム入社。その後わずか9ヵ月で社長に。「丸ごと!!カニバーガー」などが話題になり、ドムドムの業績は確実に回復している。テレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」出演で話題に。著書に『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)。
(撮影/ホンゴユウジ)

39歳まで専業主婦、109のショップ店長を経て
ドムドムハンバーガーの社長へ

 「いいねいいね、素敵! お肉切るの、すごく上手になったね」

 太陽が燦々と照りつける7月末の日曜日、JR新橋駅から徒歩3分の洗練された店舗に、キビキビと動く女性の姿があった。入社9ヵ月でドムドムハンバーガーの代表取締役社長に抜擢された、藤﨑忍さんだ。取材の合間にも、レジ内で研修をするスタッフにこまめに声をかけ、感謝の言葉を伝える。新店舗オープン直前で緊張感も漂うなか、彼女が現れると、その場の空気がパッと明るくなる。不思議な存在感を持った女性だ。

 一時期は400近く出店していた店舗が10分の1以下に減少し、「絶滅危惧種バーガーチェーン」と呼ばれることもあるドムドムハンバーガー。若年層では「行ったことがない」という人も多いが、近年は藤﨑さんの手腕で売上を伸ばし続け、直近の決算では売上前年比109%、ついに黒字化を達成……と、すさまじい勢いで成長を続けている。

 「ありがとうございます。本当に、店舗にきてくださるお客様や、現場で働いてくれるスタッフたちのおかげです」

 しかし、当の本人が語る言葉は、いたって謙虚だ。         「ごめんなさいね、私、キャッチーなこととかあんまり言えなくて。当たり前のことしかやってないんです」

 39歳まで就業経験なしの専業主婦から、夫の病気をきっかけに109のショップ店員に。そして居酒屋の経営を経て、ドムドムハンバーガーの社長へ……と、異色の経歴にスポットを当てられがちだが、彼女がここまでやってこれたのはもちろん「運」だけではない。お客様やスタッフへの思いやりと、数値をもとに即断即決で舵をとっていく実行力。この二つを兼ね備えているからこそ結果を残し、多くの人に求められ続けてきたのだ。

 その実力は、多くの飲食店が閉業を余儀なくされたコロナ禍で顕著となった。

 「路面店が少ないドムドムハンバーガーでは、デリバリーもほとんど行っていません。4月には2店舗が休業し、時短営業も多数ありました。そこも含めて、非常に良い結果だったと思っています」

スタッフのために作ったマスクがコロナ禍での明暗を分けた

 2020年には、飲食店の倒産が過去最多の数字を記録した。そんななか、「絶滅危惧種」とまで呼ばれた「ドムドム」が、なぜ売上を伸ばし続けられているのだろうか。

 「小さい会社ならではの臨機応変な機動力を活かして、その時々の状況を分析し、前に進めた結果じゃないかなと思っています。この状況は、まったく想像できなかったじゃないですか。どんなに優秀なビジネスマンでも、最新のAIでも、コロナ禍を予測することは不可能だった。『データを集めて精査し、マーケティングする』というビジネスのやり方だけでは、ドムドムを再生させることはできないと思いました」

 もちろん、データや数字をすべて捨てたわけではない。けれどもそれ以上に、その場その場でお客様やスタッフの様子を観察し、「人々に求められるもの」が何かを考え、提供し続けることに力を注いできたという。

 たとえば、今回の黒字化の大きな勝因となったのは、臨時で立ち上げたECサイトでのオリジナルマスクの売上だった。

 「とはいっても、もともとは『従業員を守りたい』という思いからつくったもので、ここまでの大ヒットになるとは予想していませんでした」

 緊急事態宣言のさなか、ドムドムハンバーガーはスーパーマーケット内のテナントも多く、大部分が営業を続けていた。「当時は日本中でマスクが不足している状況でした。会社としてスタッフを守るのは最重要事項ですから、各店舗にマスクを配布することにしたんです。それで、当時品薄だったマスクをお客様にもお分けしようと、若干数をレジ横で販売することにしました。お客様にマスクをしていただくことは、結果的に従業員を守ることでもありますから」

 売上を立てるための戦略ではなく、社会貢献の意味もこめての行動だったため、新商品扱いはせず、大々的な告知なども実施しなかった。

 ところが、店頭での販売直後「ドムドムのマスクがかわいい!」とSNSで瞬く間に拡散され、店舗に人が押し寄せたという。予想外の展開だったが、ここでも藤﨑さんの決断力が功を奏した。

 「即、店頭販売の中止を決定しました。感染予防のためのマスク販売なのに、店舗が密になっては本末転倒です。そこで、急いでECショップの企画を立ち上げることにしました」

 10日後にはサイトをオープンさせ、いよいよ一般販売を開始したマスクはたった1分で完売。現在でも品薄状態が続いているという。

「完全キャッシュレス」に乗り出したドムドムの新たな挑戦

 こうして成長を続けているドムドムハンバーガーは、新たな挑戦のため、さらに大きな一歩を踏み出した。それが、なんと高級和牛バーガーをメインとした「完全キャッシュレス」の新業態『ツリーアンドツリーズ(TREE & TREE’s)』だ。

 店頭には、スタッフの接客が不要の「タッチパネル」を活用したセルフレジを導入。「スタッフの負担も減りますし、お客様もじっくりとメニューを選べる。ずっと前からやってみたかったんです」

 現金でのやりとりをなくした「完全キャッシュレス」も、社内中の反対を押し切って実現させた。これもコロナ禍の影響ですか、と質問すると、予想外の答えがかえってきた。

 「これはね、コロナ禍はあまり関係がなくて。じつは2年前からやりたいと思っていたんです。私自身もそうですし、お客様の様子を観察していても、現金でのやりとりがなくても困らない方がほとんどじゃないかと思って」

 はじめは驚いたが、言われてみればビジネスパーソンが多い新橋エリアだ。現金よりも電子マネーを主軸にやりくりしている人も多いだろう。これもお客様の様子を日々、観察し続けているからこその判断なのかもしれない。

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『ただ成長すればいい』という時代は終わった

 めまぐるしく変わっていくニューノーマルの時代に必要な経営戦略について、彼女はこう語る。

 「もちろん、事業において目標や予測を立てることは必須ですよ。マーケティングをいっさいしないとか、データを見ないというわけではありません。ただ、私はこんなときこそ、溢れ出す不確定な情報に惑わされず、本来の経営理念に基づいた意思決定・課題解決をするべきなんじゃないか、と思うんです」

 2018年8月に社長に就任して以来、ドムドムハンバーガー再生のために力を費やしてきた藤﨑さん自身は、どんな経営方針を導き出したのか。

 「コロナ禍になり多くの人が生き方を見直した結果、『モノではなく心』にこそ価値がある、という風潮になってきたように感じていて。もちろん、ビジネスをやる以上、利益を出すことは必須です。けれど、『ただ成長すればいい』という時代は終わっているように思うんですよね。だから『お客様が愛し続け、50年守ってくださったドムドムハンバーガーのブランドを育む。そのブランドは、スタッフ・消費者の人生に寄り添い、並走し、共感・共存することで構築する』。これが私の経営指針です」

 お客様やスタッフなど、周りの人々への思いやりと、日々の売上を細かくチェックしながら状況判断する即断即決の実行力。藤﨑さん自身は「普通のこと」と強調するが、その「普通のこと」を継続できる人材が少ないからこそ、彼女はあらゆる場所で求められているのではないだろうか。

 余談にはなるが、インタビューを終えて席を立とうとすると、ぽつりぽつりと雨が降ってきているのに気がついた。うっかり傘を忘れてしまったことを思い出し、どうしようかと内心で困っていたとき、藤﨑さんが「ちょっと待って」と声をかけてくれた。

 「私、傘たくさんあるから持っていって。おばさんくさくてちょっと申し訳ないけど」

 こちらが気を遣わないようにと思ったのかは定かではないが、藤﨑さんはそう言って、上品な折り畳み傘を手渡してくれた。

 「藤﨑さんって、ああいうことを本当に当たり前にできる人なんですよ。いやあ、やっぱり素敵な……すごい人ですよね。彼女の生き方をもっと多くの人に知ってもらいたいなと思って、今回の本をつくったんです」

 帰り際、藤﨑さんの本を担当した編集者の方がそう言った。

 彼女の人生が、そしてドムドムハンバーガーの復活劇がこれからどうなるのか、まだまだ目が離せない。

【もっと知りたい人へ】

大学で学ぶことが全てではありません。
主婦でも、小さなお店の店長でも、
学べることはたくさんあります。

かつては全国に400店舗近くあったが、現在は20数店舗まで減少して「絶滅危惧種」と言われているハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」。
しかし2018年に藤﨑氏が社長に就任して以来、「丸ごと!!カニバーガー」など話題商品を連発し、勢いを取り戻している。
彼女は39歳まで専業主婦でありながら、その後、109のアパレルショップの店長となり、売上を倍増。さらに新橋の居酒屋の女将となり、予約困難な人気店に育て上げるなど、異例の経歴の持ち主。彼女の破天荒すぎる人生がテレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」で紹介され話題になっている。
なぜ彼女の手がける店は必ず人気店になるのか?
波乱万丈の人生と、そのなかで培ってきた仕事術を1冊にまとめた。日本中の女性、そしてコロナで苦しむ飲食業界に勇気を与える一冊。

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藤﨑 忍:著
定価:1650円(本体1500円+税)
発行年月:2021年7月
判型/造本:46並製、216ページ
ISBN:978-4-478-11352-3

<目次>
第1章 政治家の妻として人付き合いを学ぶ <ドムドム社長の現点>
第2章 109の店長になり商売の面白さにハマる <主婦から店長へ>
第3章 新橋の女将になり人気店をイチから作る <アルバイトから起業へ>
第4章 50歳を過ぎての新たな挑戦 <ついにドムドム社員に>
第5章 火中の栗を拾う <ドムドム社長に大抜擢>
第6章 愛されるブランドの作り方 <ドムドムの逆襲>
第7章 50年後も愛されたい <ドムドムの未来>

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【取り上げられた本】
『ドムドムの逆襲』
 藤﨑 忍 著

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<内容紹介>

“絶滅危惧種”ドムドムハンバーガー奇跡の復活! その秘密を初公開。   テレビ、雑誌で話題沸騰! 109のアパレルショップ、新橋の居酒屋に続きドムドムも流行らせるカリスマ社長の奮戦記————————————————————————————