【メモの取り方でわかる】「単に悩んでるだけの人」と「深く考えている人」の違いとは?
『考える人のメモの技術』著者・下地寛也インタビュー
アウトプットをする上での、メモの重要性はどこにあるのか
――自分らしいアウトプットを出すためには、書きながら考えることが重要だと本の中で説明されていますが、アウトプットメモのポイントを教えてください。
下地寛也(以下、下地):そもそも、何も書かずに考えるということは、非常に非効率なことをやっているわけです。
なかなか企画がまとまらない人は、よく「ああでもない、こうでもない」と同じところをグルグルと周りながら、思考の迷路にはまっている状態になっている。
人間は心で何かを感じますが、思考するときは言葉を使います。その何かモヤモヤと感じたことを、言葉にすることで思考が進むわけです。モヤモヤした曖昧な感情のままで考えようとしても、答えが見えてくるはずがありません。
明確な答えが見つからないとしても、感じたことをなんとか言葉にして書き出す。そしてその中から「これかもしれない」という発想の種が見えてくるはずです。
――ニュアンスはわかるのですが、何から書いていいのかイメージできない人も多いのではないでしょうか。
下地:アウトプットメモに何を書こうか……と手が止まってしまう人は、「何をどの順番で考えるか」が整理できていないわけです。
仕事におけるアウトプットは、ほぼ、問題解決をすることになります。
残業削減や営業の売上アップの施策を考えるだけでなく、楽しいイベントを考えたり、これまでにないイノベーティブな商品を考える場合でも、基本は問題解決です。
そうすると考える順番は、ほぼ同じになります。
シンプルにするとこの3つの順番で考えればいいことになります。
①現状(現状の問題点は何か?)
②課題(問題が発生してる原因、本質的な課題は何か?)
③打ち手(課題を解決するための打ち手はどのようなものか?)
考えるべきことを明確にするために、「自分は何を考える必要があるのか?」という問いをまず紙に書き出すんです。
これらの情報が出そろってはじめて、具体的なアイデアが出てくると思います。
そして、アウトプットメモを書くときは殴り書きで大丈夫です。キレイに書こうとして思考のスピードが遅くならないようにしましょう。
本にも記載していますが、例として「残業削減の打ち手」を考えるとしましょう。
まず残業についての現状を書き出す。「残業時間がどれくらいなのか」「どれくらいまで削減する必要があるのか」「残業に対して社員がどう思っているのか」などなど。
そうすると、課題は何で、打ち手はどうすべきかということを考えやすくなります。
――事実をおさえることが、考える土台をつくるということですね。
下地:そうなんです。多くの人が前提となる状況を理解する前に、いきなり打ち手を考えだすことがよくあります。
残業削減の場合で言うと、「19時に会社の電気を消せばいいのではないか」とか「定時退社を促すポスターをつくろう」とか。
思いつきのアイデアでうまくいくことはほとんどないでしょう。
なぜ、アウトプットメモは「A4サイズ横」がいいのか
――アウトプットメモが、事実の情報を書き出し、情報を整理・発想するために書きながら考えるメモだと理解できました。
その場合は、A4サイズの紙を横向きで使うことをおすすめしていますが、その理由は何ですか?
下地:基本的に文字は、左から右へ右へと書いていくので、紙を横向きで使った方が思考を広げていきやすいと思います。
また、現状 → 課題 → 打ち手の順番で考えるとよいので、ページを3分割します。一番左に「現状」を書き、それを見ながら真ん中に「課題」を書く。次に「課題」に書いたものを見ながら、右に「打ち手」を書く。
言ってみれば、会議でホワイトボードに要点を書きながら議論を進めるのと同じで、横に広げていく方が、一覧で情報を見やすいというのが理由になります。
そうした場合、普通の縦型のノートだと、見開きで使ったとしても、真ん中の折り込みが邪魔になります。ちょっとしたことですが、私は横向きで使えるものの方がストレスなく思考に集中できると考えています。
――お聞きした、コクヨのノートパッドを使うのがいい、ということですね。
下地:別に、この商品を使わなくてもいいと思いますが、いちおうおススメではありますね(笑)。
これを使うと、1枚では思考が足りずにもう少し思考を広げて考えたくなったときには、切り離して机の上に何枚も並べて考えることができます。
例えば、現状、課題、打ち手をまとめるときに、それぞれの詳細な情報は別の紙に書きだしておくなどです。
本当に些細なことと思うかもしれませんが、ノートをめくり直していると思考に集中できません。紙を切り離して机に広げながら考えることで、全ての情報を広げて俯瞰できます。
――アウトプットメモは思考するたびにノートから切り離していく運用ですよね。アウトプットメモが、提出資料や企画書など、別の形に変わっていったら、アウトプットメモはどうされるんですか。
下地:基本的には捨てることが多いですね。アウトプットメモは思考を整理するために書き出しているメモなので、見返すことはあまりないです。
最終的にはパワーポイントなどで企画書になるので、そちらがあればOKというわけです。よっぽど上手く情報がまとまったら、記念に取っておこうということも無くはないですが(笑)。
革新的なアイデアを出すためにやってほしい
2つのメモのテクニック
――本ではいくつか具体的なテクニックについても紹介されていました。特におすすめの方法があれば教えてください。
下地:私がアウトプットを考える上で、特に大切だと思っていることは「常識」と「ジレンマ」を書き出すということです。
アイデアが出ないときは、まず常識を書き出してみることをおすすめします。
例えば、「ノートの常識って何だろう?」と考えてみてください。
――ノートの常識ですか?
下地:あまり難しく考える必要はありません。
例えば「切り離せないこと」はノートの常識ですよね。では、「切り離せない」が常識だったら、「ミシン目をつけて、切り離せるノートはどうだろう」と発想してみる。
ここから生まれたのが、ページを切り離せるコクヨの「カットオフノート」です。
他にも、ノートは「だいたい右端のスペースが余る」という常識もあるでしょう。その常識から「横幅をカットして、縦長のノートを作れば無駄がないのでは」という発想になり、「スリムノート」と横幅が短いスリムなノートが生まれました。
また、「ジレンマ」を出してみるのも有効です。
良いアイデアが出てこない背景は、「品質とコスト」や「スピードと正確性」など、たいてい何かと何かがバッティングしているんです。
例えば、椅子の企画をする場合、「かっこいいデザインにしたい」けど、「座り心地も大事にしたい」などです。
コンビニのコーヒーは、それまでの常識とジレンマから発想されていますよね。缶コーヒーは安いですが味は、まあそこそこになりがち。一方、喫茶店のコーヒーは本格的でおいしいけど大抵300円以上する値段で高い。
「値段を安く」と「本格的な味」が、コンビニコーヒーが発売される前のジレンマですね。
ジレンマを可視化できれば、2つの要素が両立する落としどころを探ればいいんだと気づけます。
「本格的なコーヒーを、缶コーヒーと同じくらいの値段で出すにはどうすればいいだろうか?」という発想の起点ができるわけです。
――なるほど、ジレンマはどうしようもないことだと思うのではなく、両立する方法はないかと考えるんですね。コクヨの商品でもそのようなものはありますか?
下地:コクヨでもネオクリッツという筆箱がヒットしましたが、これは「カバンに入れて持ち運びやすい形」と「机の上で必要な物を取り出しやすい形」というジレンマを解消したものです。
筆箱のジッパーを開けてカバーをめくるとペン立てのように筆箱が立ち、中に入れたペンが取り出しやすい形状をしています。
――常識とジレンマは、さまざまな場面で活用できそうですね。
下地:企画だけに限らず、問題解決にも常識とジレンマを書き出すことは役立ちます。
例えば、残業が減らないという課題があったとします。その場合、「うちの会社での、残業の常識は何だろう?」と書き出してみるんです。
「プレゼン前日は徹夜でもしょうがない」「営業はお客さまに言われたら、明日までに回答しないといけない」という常識があるなど、いろいろと出てくると思います。
残業のジレンマを考えるとすると「提案の品質をあげる」と「定時で変える」、もしくは「顧客満足度をあげる」と「効率的なサービスをする」という二律背反がみえてくるでしょう。
こうした、いきなりアイデアを考えるのではなく、今までの常識を違う角度からとらえたり、二律背反していたジレンマを明確にすることが、新たな発想を生むヒントにつながっていくわけです。
――メモ術と聞くと、気になった情報をとりあえずメモしていくイメージをもつ人が多いと思います。でも、メモをすることは目的ではなく手段で、どう考えるかが大切なんですね。
下地:今回の本は、『考える人のメモの技術』というタイトルですが、書いていることはある意味、「思考術」なんです。
どう思考すればアイデアが出やすくなるか、自分が経験したことをどうしたら未来に役立てられるか、という視点で書きました。
メモやノートを好きな方って多いですよね。情報はどうしても散漫になるので、何かいいまとめ方があるんじゃないかと、皆さん探していると思うんです。
しかし、すべての情報をきれいに分かるようにしておくのは難しい。そこにこだわりすぎず、自分が思考するためにメモを活用してほしいと思っています。
皆さんも、自分らしいメモの方法を見つけてみてください。ありがとうございました。
答えのない時代、メモが最強の武器になる。
本書は、日本一ノートを売る会社コクヨのトップ社員が書いた、あらゆる問題を解決するためのメモ術だ。
著者自ら、社内外の一流ビジネスマン、トップクリエイターに取材を行い、膨大なメモを収集。その中から厳選したメモ術を紹介している。
実際のヒット商品にまつわるメモも公開しており、説得力のある1冊だ。
なぜ、メモなのか?
デジタル化が進む中、手書きの機会が失われつつある。
しかし、トップビジネスマンのほとんどが、小さなことをメモする習慣があったと著者は言う。
突然、斬新なアイデアが舞い降りたり、急にブレイクスルーできるなんていうことは、ほぼない。
手で書きながら、考えた人だけが、答えを出すことができるのだ。
ノートのプロがメモのコツをわかりやすくまとめた本書、必読である。
本書の主な内容
■PROLOGUE
自分らしく考えるためにメモを使う
なぜ、今メモが重要なのか?
メモを使いこなせない人の3つの困りごと
コクヨの人の大量のノートを見て、わかったこと
「気づきのメモ」と「考えるメモ」を組み合わせる
手書きのメモがいい4つの理由
メモは成長を加速させる
■PART 1
インプットメモ:普段の気づきをメモする技術
いきなりゴールを目指さない。
一度、知識の血肉化のつもりでメモをとる
CHAPTER 1 メモの基準を持つ
活用したい情報を確認する
面白いと感じる情報を確認する
など
CHAPTER 2 箇条書きで抜き書きする
メモの基本は箇条書き
「見返す」を意識してメモする
できるだけ手を抜く方法を考える
CHAPTER 3 気づきを加える
「気づき」を加えると、自分ごとになる
本から気づきを得る
気づきがアウトプットに使える武器になる
など
■PART 2
アウトプットメモ:メモで自分らしい思考をする技術
書きながら考えることで思考に集中できる
CHAPTER 4 現状を全て見える化する
A4用紙1枚にとにかく書き出す
A4用紙1枚を3分割で利用する
など
CHAPTER 5 自分の視点で課題を整理する
思考を広げて、深めるメモ
常識を疑うメモ。メモに問いかけてみる
など
CHAPTER 6 打ち手を構造化する
イメージを「見える化」するメモ
一瞬で脳に届くメッセージにする
など
【取り上げられた本】
『考える人のメモの技術』
下地寛也 著
<内容紹介>
最前線で活躍するビジネスマンたちのメモ術を、コクヨの名物社員が徹底リサーチ! 膨大なメモから見えてきたメソッドを体系化した本書は、あらゆる問題を解決します。斬新なアイデア、トラブルの解決策は、突然舞い降りるものではありません。感じたこと、考えたことを「メモし続ける」ことで、初めて答えを出せるのです。