見出し画像

リーダーのための書評 2020/2/29 「人を動かす〜つねに「限界より5%上の力」を目指して−」(アレックス・ファーガソン著 日本文芸社 2016年4月初版)

リーダーのための書評 2020/2/29 「人を動かす〜つねに「限界より5%上の力」を目指して−」(アレックス・ファーガソン著 日本文芸社 2016年4月初版)

電子書籍はこちら→ https://amzn.to/3cf95zf
紙の本はこちら→ https://amzn.to/2vtMuhZ

(出版社による本書の説明文)
英サッカー・プレミアリーグ、マンチェスター・ユナイテッドを率いて、サッカー史上最も大きな成功を収めた名将によるリーダーシップ成功のための手引き。シリコンバレーの雄セコイア・キャピタル会長マイケル・モーリッツ氏によるエピローグも収録。

(リーダーであるあなたに後藤康之が本書を勧める理由)

サッカーとビジネス、2人のフィールドは違うものの、天才でなくとも、いや、天才でないと自覚する人なら誰でも、偉大なリーダーになることができるし、長期間成功し続ける方法はある、ということをあらためて理解できる1冊だ。

それを一言でいえば「凡事徹底」であり、Preparation (準備)、Perseverance (根気)、Patience(忍耐)、そしてConsistency (一貫性)。偉大なリーダーは、たとえ経済的にも法律的にも組織のオーナーや筆頭株主の立場になくとも、まるでそうであるかのように考えて行動する。シリコンバレーもサッカーチームでも、長期的視点を持つことこそが、一流リーダーの特徴。短期間の栄光、ではなく長期間の成功を実現するには超人的スキルやノウハウではなく、「聞く」「見る」ということ、「規律」を一貫して守る、ハードワークに意欲的に取り組みチームから「尊敬」を得る、一貫性ある信念を抱き、時間はかかるが、組織を整備する、徹底した準備を怠らず、内部育成から若手の成長を見守る忍耐力が重要という極めて常識的ではあるが、継続的にはなかなかできないことをやり続ける、ということであるとファーガソン氏もモーリッツ氏も経験や選手を引き合いに出しながら、わかりやすく語っている。そうしたリーダーとしての「心得」が詰まっている一冊です。文章1つ1つが経験に基づく教訓や人生訓になるでしょう。

私にとって、とりわけ本書で学びになったことは、才能溢れる若者や専門家をマネジメントし、長期間傑出した成果を出し続けるリーダーシップです。

年棒何十億も稼ぐ、クリスティアーノ・ロナウド、ディヴィッド・ベッカムといった20〜30代の若手スーパースターを部下に置き、彼らの実力をフルに発揮させ、そして、勝利に挑ませる、ましてや一流プレイヤーに「限界プラス5%の力」を出させる一流のマネジメント力を持つ偉大なリーダーが著者のファーガソン氏です。

今の職場を見渡して、そんなスタッフもいないし、そういうマネジメント力は必要ないし意味ない、とあなたは思うかもしれません。
しかし「もはや終身雇用、年功序列は維持できない」(トヨタ自動車 談)し、組織は今年の新卒採用でも外資でも才能ある若者にいきなり年収1000万円、1500万円からスタートなのだ。なんといっても、あのビル・ゲイツも「優秀なソフトウェア・プログラマーは平均的なプログラマーの10,000倍の価値がある」と言うんだから間違いない(笑)。

優れた若手、才能溢れた人物をどうマネジメントすべきか、は早晩当たり前のテーマとなるだろうし、そこで著しい成果を長期間出すことがあなたのミッションとなることは必然です。
残念ながら、わが国では才能溢れた人財のマネジメントが下手であり、優秀な人財が流出し、富も知恵も流出しつつあるからこそ、閉塞感が続く一因ではないでしょうか。

例えば、先日、ダイヤモンド・プリンセス号の感染現場をYouTubeで紹介し、世界中に衝撃を与えた神戸大学の岩田教授(2/19~20)です。SARSやMERSといった感染の現場に立ち合い予防に尽くした彼のような人財を厚労省はじめチームは「コミュニケーション能力に欠ける」とマネジメントできず、放り出してしまいました。実際には、コミュニケーション能力の問題ではなく、ファクトよりも「立場」や「肩書き」を重視した組織が現場のガンバリズムに丸投げし、戦略のミスを戦術で取り返そうと「ガダルカナル化」した結果のように感じます。

一方で、米トランプ大統領は、「最優先すべきはアメリカ国民の健康と安全である」と使命を宣言したうえで、ペンス副大統領を責任者としCDCなど感染の専門家を交えた「タスクフォース」チームを組成、感染防止とワクチン開発などに2700億円の予算を用意し、一体感を持って実行すると記者会見で述べました(2/26ホワイトハウスでの記者会見)。少なくとも日本の厚労省よりも、能力ある専門家、人財をマネジメントするしくみや能力を米政府は備えていると感じます。(台湾も同様のようです https://blogos.com/article/439102/ )

「釣りバカ日誌」というドラマがあります。 

https://amzn.to/2T9Qxcr
一見営業の能力は低いように見えても企業の意思決定層との釣りを通じて深い人脈を築き、表のルートでは解決できないことを解決できる人財の浜崎伝助さん、通称ハマちゃんを「浜崎〜!」と大声上げて呼びつけても無問題だった佐々木課長でもOKだった時代と現在では大きく異なります。あの時代が懐かしい〜と嘆いていても仕方がありません。

若手でエースを配置したのに結果が出ない、となれば、これまでは首になるのは、その若手でした。しかし、これからはプロチームのように、首になるのは若手ではなくマネージャーです。そうした環境下にあっても、13度のリーグ優勝、2度のCL優勝など前人未到の結果を出し続け、名将と呼ばれたファーガソン氏の教えは、これからのマネジメント層、リーダーにも必要なスキルとなるでしょう。

さて、本書がサッカーに関心が薄い私のようなものにも親しみを覚えたのは、エピローグにセコイア・キャピタル会長マイケル・モーリッツ氏の分厚いコメントが挿入されている点です。生き馬の目を抜く(表現が古いですね笑)シリコンバレーで勝ち組企業であるシスコやグーグルなどに投資し、成功しているモーリッツ氏がそのビジネス知見と経験からファーガソン氏の知恵との共通点を語っているため説得力バツグンです。

 才能ある若者、医師や研究者、エンジニア、職人らを、自身のリーダーシップのもと、マネジメントし、優れた成果を出し続けることは、これからの経営者に必要なスキルであり、人間力であると思います。その意味でも、大いに学びになった1冊でした。

類書 「覇者の条件―組織を成功に導く12のグラウンド・ルール」(ジョー・トーリ)
https://amzn.to/2I6sm8c

追伸

日本語タイトル「人を動かす」からは、デール・カーネギーの名著を思い出させるが、原書タイトルは「LEADING」(先導、導くこと、統率、一流)。一流の指導者、リーダーになるために努力してきた先人の知恵は、日めくりカレンダーに掲げられている標語と同じく「言うは易し、行うは難し」の教訓ばかりであり、また、それが真実であることを教えてくれる。

さあ、55にもなる自分はこれから何ができるのか。新型コロナだろうが、インフルエンザだろうが、感染症の話題で浮つく気持ちになりがちだからこそ、地に足の着いた、「規律」と「忍耐」「一貫性」で長期的目標へ向かう大切さに思いを巡らせれば、今日すべきこともみえてくるだろう。
「人生100年時代」なのだから、まだまだなんでもできるわけで、自らに「「プラス5%」の力を引き出すスキル」を採用して、また今日も生きていこうと思います。

組織改善できた事例を無料で御紹介しています。気になる方はご覧ください。
http://www.dialogjapan.com

この記事が参加している募集

私のイチオシ

サポートもお願いします。取材費やテストマーケなどに活用させていただき、より良い内容にしていきます。ご協力感謝!