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タイ伝統医学と仏教―ジワカ・ゴーマラバッチョの由来

先日母が電話で、タイ古式マッサージは無形世界遺産になったんだよ!と話していました。昔の智慧はすべて口伝(ディクシャ)によるもの。遺産は無形なのが自然な形かもしれません。

タイマッサージを含むタイ伝統医学を学ぶと、ジワカ・ゴーマラバッチョというすごく変な名前の始祖に当たる先生が出てきます。

タイのマッサージ学校では、ジワカ先生はブッダの主治医でした程度の説明しかないのですが、毎朝ジワカ先生に手厚くお供えものをして、お経をあげるのが習慣です。

ですが一体誰なのかは、一般的には説明もなく、謎の多いこの方。

実はこのジワカ先生、ティピタカ(三蔵)の中で結構登場回数の多い登場人物で、マッジマ・ニカヤの55番目の物語にあるジワカ・スッタという一説、『ベジタリアンが良いと思うけれども、ホームレスがモットー(与えられた最小限のもので生きる)の僧侶にとって、托鉢でもし肉が入っていたらどうするんですか?』とブッダにジワカ先生がきわどい質問をするというお話がきっと最も有名です。

実はティピタカの中にそんなジワカ先生の素性が語られている物語があるのですが、なぜかスッタ(物語)ピタカでなく、ヴィナヤ(戒律)ピタカのマハ・ヴァガの8番目の物語、ジワカヴァトゥに出てくるので見落としがちです。この一説もとても面白く、わたしは好きです。

物語はジワカさんのこの変な名前の説明から始まります。道端に落ちていた孤児で、王子様に拾われたことから、ジワカ(生きてる(赤ちゃん))がクマラ(王子様)にバッチョ(養われた)というのが由来という、何ともへんてこりんなものです。

そのジワカさんが医学(インドなのでアーユルヴェーダです)の勉強を終えたときに、どうやって実践したらいいか、師匠に尋ねた一説がとても心に残るものなので、今日はそれをシェアしますね。

「ジワカよ、タカシラ(ジワカが育った土地)をくまなく歩き回ってみてごらんなさい。そこに『薬にならないもの』があったら、それを持って帰ってきなさい。」と師匠は言いました。

ジワカは言われたとおりに、タカシラをくまなく歩き回りましたが、『薬にならないもの』は見つけられませんでした。

「先生、言われたとおりタカシラをくまなく歩き回ってみましたが、『薬にならないもの』などひとつも見つかりませんでした。」

「よろしい。ジワカよ、おまえの学びはもう終わった。このくらいでお前が生きるのには十分だろう。」と言って必要最小限の荷だけジワカに渡しました。

tenahi bhaṇe jīvaka khanittiṁ ādāya takkasilāya samantā yojanaṁ āhiṇḍitvā yaṅkiñci abhesajjaṁ passeyyāsi taṁ āharāti.

evaṁ ācariyāti kho jīvako komārabhacco tassa vejjassa paṭissuṇitvā khanittiṁ ādāya takkasilāya samantā yojanaṁ āhiṇḍanto na kiñci abhesajjaṁ addasa.

athakho jīvako komārabhacco yena so vejjo tenupasaṅkami upasaṅkamitvā taṁ vejjaṁ etadavoca āhiṇḍantomhi ācariya takkasilāya samanatā yojanaṁ na kiñci abhesajjaṁ addasanti.

Sikkhitosi bhaṇe jīvaka alante ettakaṁ jīvikāyāti jīvakassa komārabhaccassa parittaṁ pātheyyaṁ pādāsi.

jīvakavatthu (Mv.8.1.7)

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