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3年かかって勝手につくった「豊永林業」ロゴマーク。

山の男たちはかっこいい。それは自分たちの職種から遠すぎるゆえの、はたまた「手に職」という言葉が似合うゆえの、憧れのようなものかもしれない。
知り合って3年たってロゴを勝手につくった。依頼があったわけではないのですが、気がつけば作っていました。打ち合わせはいつも飲みの席か、山の中。なぜ、甚だお節介にも勝手にロゴをつくったのか。今回はそんな話を少しさせてください。

勝山浩二 Coji Katsuyama | monodachi
合同会社オフィスキャンプ デザイナー/アートディレクター。1986年生まれ、大阪市出身。グラフィックを軸にした広告デザインやWEB、プロダクト、ブランディングなどを手がける。地域プロジェクトや企業ブランディングなどを手がけるデザイン事務所を経て、現在は奈良県奥大和地域にフィールドを移しローカルデザイナーとして活動。木材産地で地域にねむる林業や木工産業、農業、地域に関わる起業家たちと共にプロジェクトを進行中。




自分の代では完結できない生業、林業家


出逢いは3年前。彼らは日本の林業のはじまりの地である、奈良県吉野地域で林業を営む、豊永林業(ほうえいりんぎょう)。何回も膝を付き合わせて話し合い、吉野林業の未来や夢を語り合いました。近くを通るたび寄らせてもらって、ビールを飲みました。時には一緒に海外へ連れてってもらいました。ローカルにおいてのクリエイティブは、本質を導きだすまで時間が必要だし、寄り添って経過を見る必要があるため、本当にこうした時間は大切だと感じます。

林業は命をかける仕事です。機械化が進んだ昨今でも、山や木を相手にした仕事には危険がつきものです。仕事終わりに今日も生きてた!と、ほぼ毎日酒を飲むみたいです。昨今では珍しいそんな仕事でも、林業に携わりたいと若い人たちが夢を見る職業でもあります。なんと尊いものか。僕の知っている山の男たちは、みんな格好いい、男の中の漢(おとこ)です。

その根底には、漁業や農業と違って、自分の代ではお金に変えれない職業だということ。数十年前、百年以上前に植えてくれた木を、先祖の思いと一緒に伐っている。対して、今植えている杉やヒノキ、管理している山、丸太を山の麓まで下ろすためにつくっている道(林道)などは、自分達の世代ではなく、次の世代の人たちのために行なっていることです。それに対する誇りや、使命をもっているのでしょう。
僕らクリエイティブ業や飲食業などのサービス業はもちろん、製造業なども、この感覚を共にできる業種がどれほど少ないことか。


ロゴデザインの作り方、固執してないだろうか 


実は、この3年ほど前に一度、豊永林業のロゴマークを作らせてもらいました。
その時は奈良・吉野の良質な木材を海外へ売り出していくぞ!という行政のバックパックもあって、東南アジア圏をメインに見据えた、吉野材(吉野杉・吉野ヒノキ)の大規模な輸出PRが行われようとしている最中でした。
そのため、言語圏を超えた文化でも理解できるように、わかりやすいマークにして、アルファベット表記にして、いわゆるシュッとしたマークをつくりました。

しかしその時期に、豊永林業のやってきたことや目指しているものが伝わりきらずに、吉野林業をプロモーションの一部として軽く見られたり、若手社員が辞めたりすることがあったり…。さまざまなことが重なって起きて、自分のつくったロゴマークは本当に意味をなしているのだろうか。と、考えるようになったのです。

これまでのグラフィックデザインの業界において「ロゴデザイン」と言えば、イニシャル・頭文字を使ったマーク…。飲食店なら皿とフォーク、歯医者なら歯、といったように業種などのモチーフを引用したマーク…。なぜかそのやり方に固執していたように思います。その手法の方を表現することを考え、ロゴやシンボルといったマークの本来の意味や目的を見失っていたのかもしれません。
イニシャルもモチーフも、ロゴデザインにおいて手法でしかなく、それを表現することがロゴデザインの役割ではありません。本来、大事なのはそういった「手法」ではなく、何を表すのかをきちんと考えることではないのか。そう考えを改めました。

自分が3年前にデザインしたロゴは、海外へのプロモーションというその時の役割は果たしました。言語や文化を超え、日本の林業という生業については、少し伝えることができたのだと思います。
しかし、それが会社のシンボルになって、また何十年・何百年後の世代の人たちが見て、憧れや奮いなどが起こるものだったろうか…。

否!!


仲間を集め、未来を目指す指針となるシンボルを目指して


そして、頼まれていたわけでもないのですが、豊永林業の会社のロゴを再び考えることにしました。
ここまで読んでいただいた方は解ると思いますが、ここに来るまで相当な時間がかかりました。まず、コミュニケーションに時間がかかること、また林業という業界を理解する(まだまだ上っ面だけですが)までも時間がかかることだからです。

まずは、永く続く会社の成り立ちや歴史を重んじ、彼らの信念を表す、ひとつのシンボルをつくることにしました。

  • 菱藤→永田→豊永という屋号を経て、300年以上も続いていること

  • 林業は自分たちだけが潤っても成り立たない生業であること

  • 先祖から託された想いとともに未来へ繋げたいこと

それらの要素を紡いでいきシンボルを作り始めます。
「菱形にト(=菱トウ)」という昔の屋号を使わせていただきつつ、菱形がキラリと光に見えるようなフォルムに調整し、未来へ永遠に繋げていくという意志を表ます。
さらに重なる光が八方へ広がることで、「八方良し」という林業に携わる様々な人・モノ・ことが良くなるように、という想いも込めて。

ロゴタイポは、明治31年に土倉庄三郎によって出版された吉野林業のバイブル「吉野林業全書」に綴られている文字を探して、1つずつなぞって線を整えてつくります。

共鳴してくれた仲間たちが集まるための、いずれ出会う林業の担い手となる若者たちの指針になるための、そんなシンボルであり続けたいと思います。


デザイナーは考える必要があるし、経営者も考える必要がある


彼らはびっくりするくらい酒を飲む。何故かと問うた時に、「命をかけてる仕事や。木が倒れてきて明日死ぬかもしらん。だから、毎日、生きて降りてこれて感謝や。」と今日も言い飲み続ける。

新しいロゴデザインを勝手につくって、勝手に提案しました。ここまで来るのに3年以上時間がかかりました。遅くてすんません。
(いや、でも勝手につくっただけやし…。)

昨今、デジタルデータでデザインするようになって久しくなりました。インターネット上で、SNS上で、クラウド上で、仕事ができるようになり、早く・効率的になり便利になりました。出会って一度の打ち合わせで会社のロゴを作ってくれと頼まれることもあるでしょう。ましてや、「オンラインで」なんてこともあるかもしれません。

そんな時、デザイナーは考える必要があります。

本当に相手のことを知ることができたのか。つくったデザインはその会社の未来を示すことになっているのか。

そんな時、経営者は考える必要があります。

あなたの会社を表すシンボルは、一度も会っていない人たちに託せるものか。それは誇りをもって次代へと伝えていけるものか。


新しいロゴを見て…

「ええやん!すぐつくってくれ」
「会社全体を変えるとコストかかるやん、まずはおれの名刺だけ作ってくれや」ってイヤン。オトコマエ。




Client: Houei Forestry
Creative Agency: Office Camp llc.
Art director, Desiner: Coji Katsuyama

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