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バズ・ライトイヤー、新しい土地に住む新しい者の権利

ピクサー映画『トイ・ストーリー』のシリーズはもう見ていないが、そのスピンオフ作品で、ホッカイロレンが褒めていたので見てみた。驚いたことに、スペースレンジャーのバズ・ライトイヤーを主人公とする本作は、シリーズの本筋とは無関係な傑作だった。

アメリカ人は自らの出自であるヨーロッパの豊かな風土や文化に尽きざる郷愁を抱き続けている。べつだんアメリカ人ではなくとも、故郷への帰愁は色々なかたちで誰もが感じるところだろう。それを見事に描いている。

巨大な宇宙探査船が地球に帰還中、居住可能な惑星トゥカ二プライムを発見する。何千人もの乗組員を冷凍睡眠状態で船に残したまま、先遣隊としてスペースレンジャーのバズおよび親友の女性アリーシャ・ホーソーン(それと新米の隊員)3人がこの惑星の探索に向かう。そこで謎の生物に襲撃される。

慌てて母船に戻り、バズが操縦桿を握り、この星から逃れようとするが、あえなく墜落。星間飛行用の燃料ハイパークリスタルを失い、地球に帰還するのは不可能になる。やむなく乗員は船を捨て、この危険な惑星にコロニーを建設し、営々と帰還の準備をすることになる。

この星を出るためにハイパークリスタルの製造がくり返される。自らの責任を痛感するバズは、命懸けの飛行実験のパイロットを買って出るも失敗。高速に近づくハイパー航法はウラシマ効果を引き起こし、かれが宇宙にいた4分間が地上では4年にもなっている。

その後も失敗に次ぐ失敗。ついに地上では60年も経ってしまい、親友のホーソーンも亡くなってしまう。永い年月が経ち、コロニーの住民は故郷への憧れを捨て、この索漠とした星に永住する決心を固めていた。飛行実験は禁止される。バズは諦め切れない。

なんと、かつてホーソーンが自分にプレゼントしてくれたロボット猫のソックスがハイパークリスタルの組成に成功していた。ついに彼はハイパー飛行に成功する。たんに愛玩用のペットだったソックスが、なぜ人類の誰もなし得なかった燃料の組成に成功したのか?ここらのツメは脚本の甘いところだ。突っ込みどころが随所に見られる。

バズが意気揚々とトゥカニプライムに戻ってくると、様子がおかしい。巨大宇宙船ザークシップからロボット軍団が降り立ち、コロニーを包囲している。たまたま出会った頼りない仲間とともに、バズはこれと闘うことになる。

ところが敵のリーダーである白髪のザーグは、今とは違う未来から来たバズ自身の老いた姿だった。ハイパー航法をくり返すうち、タイムパラドックスが生じたのだ。トゥカニプライムで過ごした年月を消去して、自分とともに地球に還ろうと、この《父》は息子のバズに呼びかける。

かれは心を動かされるが、この父の言に従うと、自分や船の乗員がコロニーで過ごしてきた歳月が無化され、自分以外の全員が消滅させられることになる。バズは父を打ち破ってトゥカニプライムに平和と安寧をもたらす。そして、地球に向かってハイパー航法で旅立つ。

すぐれたアメリカ映画は建国神話を反復する。バズとその仲間たちがたどる運命はアメリカの歴史そのものだ。バズ以外がそうだったように、たいていの人はその運命を受け入れ、コロニーでの生活に慣れ、そこで死んでゆく。ところがバズは親友ホーソーンに宇宙へ還してやると約束した。こうなったのは自分の失敗だったという自責の念が強く、どうしても諦められない。その妄執と執念が本作の見どころとなっている。

ただそれだけなら、わりと単純な話だ。もっと悪いことに《父》であるヨーロッパが新大陸の住人に、これまでの歴史をきれいさっぱり清算して還って来いと呼びかける。お前たちが築いてきた歴史に意味などない、と。

これは宮崎駿『風の谷のナウシカ』のライトモチーフだ。過去の地球の住人が自らの命に従えとナウシカたちに強要する。監督のアンガス・マクレーンは日本アニメの大ファンだそうで、このモチーフの普遍性に気づいたのだろう。古い者どもが新しい者たちの権利を蹂躙しようとする。しかるに新しい者にはそれなりの存在理由がある。荒廃した土地にも生活はある。それを奪う権利は誰にもない。

新しい土地に住む新しいものの権利。この世代間闘争というべきものを物語の本筋に加えることで、本作は少なからず瑕瑾はあるものの見応えのあるドラマとなった。




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