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風景

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身の回りにある様々な風景を撮った写真は撮影者ではなく、見る人の心を映し出す鏡。
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#紅葉

見納めの秋

 北国からは雪の便りが届いた。北九州ではあと数日紅葉が見られるというところまできた。冬はもうすぐそこだ。 秋の見納めに、普段はあまり訪れない市内の公園を歩く。ここでは広大な大企業所有地の一部を一般に無料開放している。湖のような工業用貯水池の周囲に自然の森が広がり、その中を湖岸に沿って歩くことができる。 気温が低い湖畔近くのモミジやイチョウが、秋の柔らかい光を受け静かに色づいていた。道端の小さな草木も、季節の移り変わりに身を委ねるようにひっそり紅葉している。 野鳥たちは冬に備

近所の紅葉散歩

 全国的に気温が低くなり、北九州でも朝晩の冷え込みをひしひしと感じるようになった。夏からいきなり冬になったという声も聞こえてくる。近所の街路樹や公園にあるイチョウ、モミジバフウ、メタセコイアなどの樹々が今週になって急に色づいてきた。毎朝同じ樹を見ていると、一日経過するだけで、随分と色が変わっていることに気づく。季節の移り変わりがとても早いとあらためて思う。 気温の変化は当然、人にも影響する。親族の者が、突然の寒さの襲来と同時にぎっくり腰となった。数日間連続してヒーリングして

日野江植物公園のモミジ

 訪れる度に、麓から小高い山の上まで続くこの広大な公園が、元は個人経営の植物園だったということにいつも驚く。今は北九州市が運営し、造園業者が管理するが、通常の植物園とは随分と趣きが異なり、個人宅の庭の延長のような手作り感が今でも色濃く残っている。 傾斜地に造られた迷路のような小道は、階段や坂が多く、広葉樹林の中をいくつも枝分かれしながら先の見えない森の奥へと続く。晴れていれば、どこを歩いても木漏れ日がきらきらと美しい。子供の遊具施設がないこともあって、訪れるのはほとんど植物

英彦山大権現もみじ庵の紅葉

 福岡県では、山間部で紅葉が始まった。 九州に転居してから3度目の秋。まだまだ知らない紅葉の名所と呼ばれる場所がたくさんある。英彦山(福岡県田川郡添田町)の麓にある「英彦山大権現もみじ庵」は昨年夏に一度前を通りかかったことがあるが、紅葉の季節としては今回が初めてのこと。 北九州から車で田舎道をひた走ること1時間半。英彦山の手前、渓谷が深くなってきた辺りにある駐車場に車を停め、徒歩で谷間の河原へと下ってゆく。ものの数分で入り口に到着。ところが、まだ6~7分の色づきでしかない。し

野の道辺

(写真40枚)  野の道辺に降り注ぐ光が眩しい。 今は秋分と冬至のちょうど中間あたり。太陽の軌道は低くなり、明るい斜光がススキの穂を輝くシルエットで包みこむ。 野の草花たちは内に残る最後の色彩を解き放ち、今年の命の営みを終えようとしている。枯れ果てることに、戸惑いも躊躇いも怖れもなく、大地に帰るその時をただ静かに待っているようにすら見える。夏の日の、あれほど激しかった嵐を耐え抜いた強靭さも、散り際は呆気なく手放してしまう。 夏の日々を十二分に堪能し尽くした安堵。 種や

呑山観音寺の紅葉

紅葉の名所と呼ばれる所には今まであちらこちらに出かけたが、中でも記憶に残る場所と言えばやはり関東以北の地域に多い。群馬や栃木、長野、秋田、青森、そして北海道。東日本エリアでは冬の寒さを目前に控え、秋は朝晩の冷え込みが急に厳しくなる。昼夜の寒暖差が大きいということが、美しい紅葉になる必須の条件だ。 20代の頃に栃木県日光市の高原にあるリゾートペンションで、1年半ほど住み込みアルバイトをしていたことがある。当時はペンションブームで、オーナーになることも、宿泊することも、大

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大分から熊本へ①          原風景を想う

 大分から熊本へ車で向かう途中、くじゅう連山の山間部を貫く山道を抜け、細い林道に入り、やがて山の裾野に広がる牧草地の小道を走る。 所々目眩く広大な風景が次から次へと現れる。 ここは阿蘇くじゅう国立公園のエリアだ。  人影も車も民家もコンビニも高圧線も、人の気配というものが何もない。 聴こえてくるのは遠くに響く鳥の歌声。 風にそよぐ木の葉と足元の草。 時が止まるというよりも、ここでは時という概念そのものが消えてゆく。  太古の時代には原生林が果てしなくどこまでも続いていたの

大分から熊本へ② 森の水鏡

 熊本県阿蘇郡産山村の、牧草地の細く曲がりくねった道を抜け、谷間の原生林を進んでゆくと、やがて「山吹水源」と呼ばれる小さな池に辿り着く。 7万年前の九重火山群火砕流によって形成された台地に浸透した雨水が、何年もの時を経てやっと地表に湧き出た泉である。この清らかな水を神が産湯にしたという伝説がこの地に残っている。  辿り着くまでの道はカーナビで表示されなかったため、幾度となく迷うことになる。たまたますれ違った小型ダンプカーを運転していた中年男性に道を尋ねる。すると満面の笑みを