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#真相をお話しします「#拡散希望」とこの本全体の感想

<以下ネタバレの危険性あり>三行空けます。


第五話「#拡散希望」の感想

この本の中で一番構造が複雑な短編。
章分けされているがその一章の中にも時系列の前後がある。何故こうも複雑に組み立てたのか作者の意図が今ひとつわからない。
ストーリー自体は構造ほど複雑ではなく、スッキリした内容なのだが、そもそもこれらが全て一人称の「僕」目線なので、全てがウソという可能性もある。
この本は五篇とも全て一人称小説だ。だから叙述トリックは作りやすい。
湊かなえさんの小説などは複数の一人称で構成されているので、それぞれが別の真実を訴える。事実関係に相違があれば、どちらかがウソを言っているという事になり、福田繁雄氏のオブジェのように見る角度によって別のカタチが投影される。事件の全体像はそれら総てを俯瞰した時にはじめて解る仕組みだ。
ところが、単一の一人称小説だと、その人物の話を全面的に信用するか疑うかしかない。
まず、各章の冒頭のタイムコードが何を意味しているのかが不明だ。一本の動画が進んでいるという意味かも知れないが、そうだとしたらこの「僕」は何故わざわざ情報を小出しにしながら、ラストではじめて真相を語るのかがわからない。これは作者目線であり登場人物の目線ではない。
回想シーンでの会話で使う鉤括弧と、動画を撮っている「僕」の視聴者への語りかけが同じ鉤括弧で表現されているのもマズイ。
更にダッシュで始まる台詞もある。作者は、これらの分類が読者に正確に伝わると何故思えたのだろう?
このタイムカウントされている動画の中で、果たして回想シーンの絵面はどのように表現したのだろう?というのもツッコミどころだ。
この部分は動画から乖離して、普通の小説の表現に戻っている。読み出したところで読者はまずこれに戸惑うだろう。
これが短編小説でなく映像作品なら、表現の仕方はもっと明解なものになったと思う。たとえばM・ナイト・シャマラン監督の映画「ヴィジット」のようなホームビデオ形式であれば、ずっとスッキリする。
骨子になっているストーリーがあまりにもストレートなので、叙述方法を複雑にしたのだろうか?
物語そのものは面白い。キラキラネーム、YouTubeの広告収入、テラスハウス事件、若年層のポータブル・メディア獲得等々、現代社会を象徴するようなメタファが散りばめられている。どことなく映画「トゥルーマン・ショー」を彷彿とさせたりもする。
表現の仕方がもう少しスッキリしていたら、面白くなったのに勿体ない。
そうだな。例えば私ならどうしただろうと考えると、3つの端末の視点とそれを解析しようとする一人称というのはどうだろう?
<とある島で起こった殺人事件、現場に残っていたのは世代の違う2台のiPhoneと一台のGoPro。これらの中身を解析しある結論に達する刑事>
とか。まあそれもベタかも知れないけれど。
この短編は第74回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞しているので、プロでもない私がとやかく批評する筋合いではない。

短編集「#真相をお話しします」の感想

概ね、退屈せずに読めた一冊だった。
振り返って見ると最初の「惨者面談」が最も良かった。
後記されている小説新潮の掲載は次の順だ。

2019.2月号「惨者面談」
2020.2月号「#拡散希望」
2021.2月号「ヤリモク」
2021.9月号「パンドラ」
2022.2月号「三角奸計」

この発表順が作者の創作順であるなら、結城真一郎さんという人は「三者面談」というストレートな構造の作品を書いた後、すぐに「#拡散希望」という複雑な構造の作品を書いた事になる。
「ヤリモク」も比較的ストレートな叙述トリックの短編だ。「パンドラ」は少し捻ったところもあるが、まだ素直な方だと言える。「三角奸計」は「#拡散希望」ほどではないものの、また複雑な構造に戻ってきていると言って良いのではないだろうか?

この作家の作品を読む事が今後あるかどうかはわからないが、処女作である「名もなき星の哀歌」は機会があれば読んでみる事があるかも知れない。
この本に興味を持ったのはTV番組だった。何時やっていた何という番組だったのか、全く憶えていない。去年の11月ごろのバラエティ番組だと思う。
その時の印象を思い出すと、読んだ人達がとにかく驚愕のどんでん返しを体験したような調子だった。

宣伝や広告の巧妙さに釣られたという事実は、それ自体ミスリードでありどんでん返しと言えない事もない。


2023.3.11

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