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『薔薇(ばら)』(1)  レジェンド探偵の調査ファイル,内定調査,聞き込み(連載)

『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第六話】薔薇(ばら)

 平成九年五月某日、午前十時。杉並区Z町一丁目界隈は異様な空気に包まれていた。杉並区Z町は田園調布や成城学園ほどではないにしろ、都内でも有数の高級住宅街で、普段は静かで落ち着いた町である。ところが、この朝は街路に大型トラック八台が停車し、紺色の作業服を着た百人近い男たちが集まっていた。付近の住人たちは一体何事かと、ある人は庭に出て、ある人は家の小窓を開けて、その様子を不安そうに見守っている。
 私はこれより少し前、調査員二人を伴って現場に到着していた。まさに、嵐の前の静けさとはこんな状態なのだろう。人通りもまばらな五月晴れの街路は、チュンチュンという雀の声が聞こえるほど静かだった。
 十時三十分、見るからに屈強そうな三人の男を乗せた車が、もう誰もがそれと分かるターゲットの瀟洒な邸宅の前に横付けされた。
 私は、横に立つ浅田弁護士に「いよいよ〝執行〟ですね。あの車はこれですか?」と左手で拳をつくって額に当てた。
 浅田弁護士は、
「うん、僕が所轄署に警備を要請した」
 とやや緊張気味に答える。
 この日の出来事は、探偵になって三十年以上になる私も、初めて見る光景だった。

(2)につづく

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