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『ヘッドハンティング』(2) レジェンド探偵の調査ファイル(連載)

『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第四話】ヘッドハンティング

 平成六年十月十四日。前日オーストラリアのゴールドコーストから帰国したばかりの私は、久しぶりに自宅で遅い朝食をとり、事務所に出かける支度をしていた。
 海外出張はまれにあって、今回は、ある不動産会社の二代目社長が、会社の金二十億円を持ち出し、愛人と行方不明になった事件で、居所の探査が目的の「所在調査」だった。地理と言葉が不案内の海外調査だったが、幸い一週間ほどで居所を見つけることができた。
 当時は、バブル崩壊後で、債権債務に関する様々な事件が起こり、我が貧乏探偵社にも、ポツポツと仕事が入り始め、一時期の、急激な低迷からどうにか抜け出せそうな気配を感じたころだった。今回の調査も、顧問先からのもので、私が一足先に現地に赴き、結果次第で、その会社の会長と、幹部社員が駆けつけることになっていた。

 ケアンズで給油した飛行機が、午後一時頃、ブリスベーンに到着。空港からバスで、約一時間かけて調査地のホテルに着いた。早速、地元の観光会社に電話する。明朝からのガイドを予約し、市内を散策してみた。かつて、我が国の不動産業者や、リゾート開発を目論む企業が、先を競って買い漁った土地は、遊休地化し、一部屋百坪超という高級マンションは、空室が目立ち、なかには、廃墟のような建物も見られた。ただ、気候はすこぶる良好で、日本の春を思わせる爽やかな風が吹いていた。
 マルヒの居所はあっけなく判明した。四十を少し超えた年齢の若社長はプール付きの洒落た豪邸で、美しい愛人と蜜月をむさぼり、生まれたばかりの赤ちゃんと三人で、警戒心や危機感を全く感じることなく、のんびりと暮らしていた。十月十三日、関係者に引き継ぎ、私は、午後八時二十分、成田に着いた。

(3)につづく

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