長谷川天地の紹介

 数多くある「天地無用!」のメディア展開でも、比較的初期から現在に至るまで行われている小説、その中でも初期の、通称「長谷川天地」について簡潔に語らせていただきます。

長谷川天地とは?

 長谷川天地を端的に説明するならば、OVA1期の脚本を担当された(一話から六話。七話は黒田洋介氏)長谷川菜穂子氏による小説作品です。現在比較的容易に手に入る物として富士見ファンタジア文庫の文庫本(とその電子書籍。合本がある)となります。
 同じ小説媒体でも、梶島正樹監修の黒田洋介氏による「真天地無用!」三冊や、現在刊行中の「真天地無用! 魎皇鬼外伝 GXP」シリーズ、ねぎし氏による「inLOVE」「inLOVE2」のノベライズ、関島眞頼氏による角川CDミニ文庫(とそれをまとめた富士見ファンタジア文庫版)「新・天地無用!」、「魔法少女プリティサミー」小説版シリーズとは違うので念の為。

 作品の一部は雑誌「ドラゴンマガジン」に連載されておりました。この連載と刊行は多くのメディアミックスを展開したドラゴンマガジン・角川にとっても大きな意味を持っていたようで、当時の編集長をして「アニメからの流れで天地無用! 魎皇鬼を初めた事が、たぶん現在のライトノベルに繋がってるんですよ」とまで言わしめています(詳しくはこちらの記事)。

長谷川天地の時期

 なにせ「天地無用!」は92年のOVAリリースより現在に至るまで、長く愛され続けているシリーズですので、「それ」がリリースされた時期というのはとても重要な要素です(同じく長寿を誇った「奥田天地」とかね!)。

 長谷川天地、最初の単行本「千客万来編」の初出は93年5月で、これはOVAにすると六話と七話の間の時期になります。制作や監修を鑑みても結構な設定の齟齬が見られる時期でもあり、後述しますが若干の混乱を見ることもできます。
 (一応の)最終巻である「夢のかたち」が刊行されたのが98年10月で、これはOVAで言うと二期終了後、メディア展開で言うとTV「新・天地無用!」が終わった後になります。OVA三期までの長い空白(2003年まで)を告げる最初の鏑矢であったとも言えるわけで、つまり長谷川天地の展開は第二期とほぼ同じ時期がメインであったと言えるでしょう。
 このあたりの時系列に関しては、私が寄稿させていただいた天地の合同誌「天地横丁~好事家たちの後夜祭」にも載っていますので、よろしければぜひとも。

 惜しむらくは、当時私がドラゴンマガジン読者でなかったこと、及び資料本(ライトノベル史入門『ドラゴンマガジン』創刊物語)が今丁度運悪く手元に無く、具体的な連載時期と当時のリアルタイムの長谷川天地の空気を掴みそこねていることです。もしよければ教えてください!

長谷川天地の特徴

 長谷川天地も、(梶島天地は言うまでもなく)奥田天地や関島天地、ねぎし天地など他の展開と肩を並べられるほどの、強烈で魅力的な個性を誇っております。

 天地ファンとしてピンとくる特徴としては「基本的な設定はOVA一期に準拠する」「というかOVA一期まで(←重要)である、もちろん二期の内容に絡むことも無いわけではない」「美星のパートナーの真備清音が登場する」「つまり天地の母親の名前が阿知花」という所でしょうか。
 さらに「豊富なオリジナルキャラクター」はもはやアナザー天地名物と言っても過言ではないのですけども、他のものと比べるとメインキャラクター達により緊密な所にまで関係する印象があり(※個人の感想です)、これは若干賛否が分かれる所ではないでしょうか。また、それらオリジナルキャラクターは基本的にメインを貼るのが登場回ぐらいとなっており、途中で出てきても「あ、オリキャラいるんだ」で済ませられるのは、正直ありがたい扱いだと思います。
 他にも魅力点として「日常のほのぼの回と、真剣なバトル回が混在する」ところが個人的に挙げられます。ちょうどスレイヤーズで言うと、前者がすぺしゃるで後者がすぺしゃるじゃない本編シリーズみたいなものですね。

 また、天地君は作品やその箇所によって、主役をしていたり空気になっていたりヒロインになっていたりと、多様な活躍をしている(あるいはしていない)シリーズでもありますね。

 天地ファンの視点から一歩離れて、小説としての特徴にも言及するべきでしょう。
 まず文体の基本は三人称視点で、その時々の状況に応じて視点が一人称に近づいたり、地の文でツッコミが入ったりするなどのいわゆる「神の視点」というものが一番近いでしょうか。ライトノベルという言葉が使われていなかった頃の作品ですが、正にその言葉に当てはめたくなるような読みやすい文体で、同時に「アニメを(そしてそれを見るのを)書き下したかのような作風」と言えるでしょう。
 そういった書き方に関しては(この原稿と関係ないところで)賛否がある話だと思いますが、こと天地においては多くの場合OVAなどのアニメ媒体が先に来てからの、キャライメージの構築が済んだあとの読書となることが多いでしょうから、キャラクターの追想・脳内再生としての読書経験を好む私にとってはとても楽しい読書体験でした。これは後のMAGIUSにも続く、既存のキャラクターのロールプレイ(や、二次創作)をどう行うのか、ということに大きく関係してきそうですけども、この余白はそれを書くには狭すぎます。
 また全体的な作風としては、長谷川菜穂子先生が自ら言うには「ファンタジーマニア(混沌の覇者あとがきより)」であり、そういった要素が散りばめられているように思います。またバトル描写は、なにせ主人公側が(一期終了時点であっても)相当のチート連中であるために、搦め手を多用したかなり陰湿な雰囲気を漂わせるものがありますね。

各作品の紹介

 まず各作品のリストは以下を見てもらうとして(丸投げ)

 以下に各作品を簡単に紹介させていただきます。基本的に刊行順。

<タイトルの「天地無用! 魎皇鬼」は略します>

・千客万来編 愛のヘクサグラム
 記念すべき初刊行本。初出が無いので描き下ろしだろうか。OVA一期の後日談として始まる本作は、和やかなムードから一転して緊迫する雰囲気を醸し出す、OVAで言う4話と5話みたいな作品。しかし同時に、梶島さんも設定が固まってなかったのか、凄まじい所で現状の設定と、というか長谷川天地に出てくる内容にさえ、齟齬が生じており、それをメタ的にニヤニヤして楽しむこともできる(そうしているのはの性格の悪さ故だろう……)。
 なお本文のイラストは梶島先生である。

・諸行無常編 上下
 
OVA一期(一話から六話)を上下巻でノベライズ。脚本をされた長谷川先生ならではの、描写を改めて見直す楽しみがある。
 こちらもおそらく書き下ろし。

・天地様、ご乱心!? 上下
 ドラゴンマガジンに連載されていた作品で、いわばこの作品からオリジナルの流れになっていくと言える(千客万来編が少々扱いが難しいので)。
 オリジナルキャラクターもマシマシだが、何より凄まじいのが[編集済み]で、ともかく展開が展開。一つ言える事は、タイトルに違わず天地君が大活躍するということ。主人公としても、ヒロインとしても。
 読み返すのにいろいろな意味で多大なエネルギーを消耗するが、傑作。

・混沌の覇者
 いわゆる「ゲームの中に入って行くタイプの異世界もの」。天地君もがんばっているが、それ以上にある意味主人公らしかった苦労人の真備清音が主役を張る一冊。あとがきにある「清音って女天地なのかしら……」という指摘が笑い(と涙)を誘う。それとあとがきが妙にタイムリー(ウ○娘的な意味で)
 長谷川先生のファンタジー好きが爆発した熱い番外編。

・サルでもわかる世界征服
 
表紙の軍服鷲羽ちゃんが眩しい一冊。
 この作品を読んでいる時に浮かぶ風景が、なんというか奥田天地感がすごくあるように思う、ドタバタコメディ感ある作品。というかこれひょっとして某S○S団の元ネタだったりは……

・よいこのせいかつ編
 短編集。雰囲気的には、天地ファンにはおなじみラジオCDみたいな感覚もありつつ、ファンサービスのような一編もある。愛と友情じゃ。

・ハワイの休日編
 眩しい表紙が目を引くが、内容が若干のダークを帯びている作品。
 正直に言うとパメラの描写で若干性癖が歪んだ自覚がある。

・家内安全編
 短編集。天地のメインキャラクター達がそれぞれ中心になって作られていく愛おしい作品達。物語の作り的には、奥田天地の雰囲気を覚える。

・無病息災編
 
家内安全編と対をなすかのように、似た物語の作りではあるものの、同時に長谷川先生の好みでの長谷川世界が彩られていくような作品達。

・夢のかたち
 
長谷川天地(とりあえずの)最終巻。多くは語らない、読んで見るべし。

・真夏のイヴ
 
そう、あの映画「真夏のイヴ」も長谷川菜穂子脚本作品なのである。と同時に、この本は実はイヴ劇場公開よりも前に刊行され、あとがきでも「ノヴェライズであると同時に原作である」と言い切っている。
 ちなみに出た時期としてはハワイの休日と家内安全編の間。

おわりに

 以上、駆け足でしたが長谷川天地の世界について簡単に述べさせて頂きました。これを機会に興味を持って頂き、さらに読んでいただけたら、天地ファンの一人であり長谷川天地で育ったファンとして歓喜の極みであります。

 「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という言葉があるように、読みやすい文体と柔らかい世界観の中に、強烈にして真剣なバトル描写が入り込む長谷川天地の世界観は中毒性が高く、読みやすさも相まって何度でも読み返す良さがあります。
 このあたりは、どことなくスレイヤーズ(すぺしゃるではないほう)を彷彿とさせてくれますね。

 とりあえず、映画「真夏のイヴ」好きの方には、多くは語らないのでぜひ読んでください、いいですね。

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