平成アニメの顔としての「天地無用!」
※このテキストは「天地無用! Advent Calendar 2020」の4日めの記事であり、サークル「天地横丁」さんの合同誌「天地横丁 令和版」へ寄稿した文書を許可のもと独立させて再掲したものです
令和初の天地横丁ということで……
平成はアニメコンテンツが大きく躍進した時代でありました。その平成を代表する作品として、私は強く「天地無用! 魎皇鬼」を推しています。
「単純に好きである」ということ以上に天地を語ってみることで、その魅力に迫りましょう!
先達の諸先輩には耳にタコ(クレーではない)な内容ですが……
壱:ハーレムアニメの源流
ハーレムもの、と呼ばれる作品群があります。これは一人、あるいは極少数の主人公的男性を女性キャラクター達がとりかこむ、そういう様式の作品で、有名な作品だと「ラブひな」や「ISインフィニットストラトス」「ToLOVEる」「化物語」等を挙げることができ、平成アニメ史を語る上では避けて通れません。
それらの元祖として挙げられるのが、「天地無用! 魎皇鬼」です。
以前にもその様な作品はあり、「うる星やつら」や古くは「源氏物語」が似た様式ですが、「天地無用!」は主人公が受け身(ともすれば朴念仁)であり、メインキャラクターのほとんどが主人公に好意を向けるという点で画期的でした。[1]
[1]――wikipedia「ハーレムもの」20180822版より
項目内で作品が列挙されているが、「天地無用!」はそのトップに位置している。
しかし同項目内で「物語の伏線を単純化するため、男性主人公には同性の友人が少ない(皆無もしくは登場しない)という状況を設定することが多く、同様の理由により男性主人公は没個性的で受動的に描かれる傾向にあり、これは『空虚な中心』と表現されることがある。」([1a])とまで言われているハーレムものの男性主人公。天地君は大丈夫か! 大丈夫か!!
[1a]――長谷川壌 「セカイ系ライトノベルにおける恋愛構造論」『社会は存在しない――セカイ系文化論』 171頁
弐:ライトノベルの源流
「スレイヤーズ!」を筆頭に、多大な影響を今もなお与え続けている「ドラゴンマガジン」。その創刊は1988年1月と、平成が始まるほぼ1年前でした。その創刊にあたって、コアはファンタジー小説でしたが、コアメンバーにアニメ雑誌「アニメック」の副編集長やグループSNEが関わり、その創作手法が取り入れられ、いわば雑誌そのものがメディアミックスと言っても過言ではないものでした。[2] そして「パトレイバー」や「ガルフォース」が文庫出版される中、我らが「天地無用!」もその作品群に加わります(1993年)。
創刊責任者であった編集の小川洋氏(元富士見書房社長)は、文庫を「ライトノベルというものではなく、SFやファンタジーというジャンルでもなく、文庫のカラーを出したかった」とした上で「アニメからの流れで天地無用! 魎皇鬼を初めた事が、たぶん現在のライトノベルに繋がってるんですよ」と、面白ければジャンルという約束事を気にしない特徴を評価しています。[3]
[2]――山中智省「『ドラゴンマガジン』創刊物語 狼煙を上げた先駆者たち」(勉誠出版、20180131)。
表紙が浅香唯のファンタジー風衣装実写、誌面は小説マンガアニメゲーム映画模型ジオラマアイドルイラストレーションと多岐にわたっていたそうで、メディアミックスというよりごった煮感すらある。しかしそうしたカオスから、今に至るまでの切磋琢磨があると思うと感慨が深い。
キャッチコピーは「FANTASY SENSATION」。
[3]――上記[2]と同じ出典元。
当時は当然ライトノベルという単語も無かった。小説で言えばジャンルというものが巨大な隔壁として存在し、SFにはSFの、そしてファンタジーといえばファンタジーの、お約束事が強い時代だったと今から見ればそう思う。上にあるように「FANTASY SENSATION」を掲げつつも、「天地無用!」やそれに先立って「機動警察パトレイバー」という作品を文庫に載せる事がなければ、歴史は少し違ったのではないかと思う。
小川氏はメディアミックスについてこう語っている。「ベースがしっかりしたものでないと、メディアミックスありきでは成功しないということです」と。
参:聖地巡礼(舞台探訪)の源流
聖地巡礼と呼ばれる行動がアニメファン活動として認知され、探訪元もその様子を受け入れていく様になっていったのが平成の時代でした。[4]
その起源は古く、かの松尾芭蕉の旅も和歌集「歌枕」に詠まれた地を巡り、映画においては「ローマの休日」「北の国から」「東京物語」がそのムーブメントの鏑矢として知られています。[5]
そしてアニメにおける聖地巡礼の潮流の結節点として語られる作品の一つが「天地無用! 魎皇鬼」であるわけです。
作品として特定の地と結びつける試みは、アニメにおいても「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」等海外文学で行われていましたが、国内のファンが実際に巡礼し行動を起こすという点で、OVA「究極超人あ~る」や「美少女戦士セーラームーン」、「おねがい☆ティーチャー」と並んで語られています。[6]
公式が携わる聖地巡礼としても天地は非常に古く、一期リリース時の93年~94年頃には公式ファンサークルが巡礼ツアーを行っていたという証言があります。[7] そして、今も。[8]
[4]――「らき☆すた」の埼玉県久喜市、「ガールズアンドパンツァー」の茨城県大洗等など。
[5]――wikipedia「フィルムツーリズム」20180411版
[6]――「アニメ《舞台探訪》成立史 ――いわゆる《聖地巡礼》の起源について」(大石玄、2011)より
http://www.kushiro-ct.ac.jp/library/kiyo/kiyo45/oishi45.pdf
大石氏は「舞台探訪が観光活動として成立するには3つのメルクマールがあり、第一がアニメが現実とリンクする『天地無用』『セーラームーン』、第二がアニメが虚構から実写映画と並ぶリアリティを手に入れた『耳をすませば』、第三が個別活動が情報ツールの発達により一種の二次創作にまで昇華された『おねティ』である」と結んでいる。個人的には「R.O.D」の神保町も欲しかった所(単なる趣味)。
[7]――「舞台探訪者インタビュー 第1回 準急鷲羽さん 『天地無用からCLANNADまで』 (第1部:1/2)」(USO9000の日記、20110123)より
http://legwork.g.hatena.ne.jp/USO9000/20110123
2/2の「(準急鷲羽氏)天地で言うと効果音とかも斬新でね、和音とか、あと長岡成貢とか、音楽やってる人が凄いイイ」には首が取れるほど同意!!
[8]――天地無用! 聖地保存会♪(@tenchimuyo20th)
いつもお世話になっております。
四:スピンオフ魔法少女の源流
「ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて」「ハイパー無軌道OVAぷにぷに☆ぽえみぃ」「魔法少女リリカルなのは」「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」[9] といった作品群をご存知でしょうか。これらはそれぞれ、「The Soul Taker 〜魂狩〜」「へっぽこ実験アニメーション・エクセルサーガ」「とらいあんぐるハート」「Fate/stay night」のスピンオフ作品であり、いわゆる「戦う魔法少女」モノ or ギャグ作品と分類されています。そして、その流れを作った作品が「魔法少女プリティサミー」であり、その母体が我らが「天地無用! 魎皇鬼」であります。[10]
シナリオライターである黒田洋介氏[11]は「魔法少女ものの模倣であるのなら徹底的にやってやろう」と語っています。[12] この意気込みが、スピンオフ元とキャラクターを同じくしながらも、オタギャグあり涙あり殴り合いありのバーリトゥードを成したと言っても過言ではないでしょう。
さあ! 皆さんご一緒に!!
サミーにおまかせ![13]
[9]――私はここに「成恵の世界」及び「魔砲少女四号ちゃん」を入れたいのだが、アニメ化してない……
[10]――「天地無用! CDスペシャル 天地開闢時空道行」(1993年)が初出。ほほいのホイでもう一作!
[11]――黒田氏は天地無用! 魎皇鬼の一期第七話にてシナリオライターデビュー。その後魎皇鬼2期3期のシリーズ構成を手がける。また、TVシリーズや魔法少女プリティサミーの脚本も手がけ、フォトン、ぱられルンルン物語も。梶島世界に無くてはならない御方である(私は長谷川天地も奥田天地も大好き)。魔法少女プリティサミーの小説(富士見ファンタジア文庫)で書きおろし長編デビューも果たし「真天地無用!」も氏による作品である。
梶島世界以外でも、前述作品ではおねがい☆ティーチャーやエクセル・サーガ、ぽえみぃに携わっている。
相方である倉田英之氏も私は非常に非常に好き。
[12]――「魔法少女プリティサミー」(富士見ファンタジア文庫)あとがきより。必読。
[13]――先日もクラウドファンディングを行い、新作を作る意欲を見せておりました。まだまだ元気です!
(※編注)――目標金額には残念ながら届かなかった模様だが、活動報告を継続的に行っていた。詳しくは以下
https://camp-fire.jp/projects/view/26931
こうして要素要素を見ていくと、「天地無用! 魎皇鬼」が平成のアニメ史に与えた影響を、感じることが出来るのではないでしょうか。
しかも魎皇鬼は、まだまだ続きます!(7/12に5期制作発表!!) 小説も! 舞台化もやります!!
令和の「天地無用! 魎皇鬼」に期待しましょう♪
――そして、今、2020年12月
そう! 今まさに、リリース中です!
つい先日もグッズ展開をより強化していました。梶島ワールドがどうなるのか、今までもそしてこれからも楽しみですね。
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