神秘の火🔥不知火の里　宇城市歴史さんぽ③ 【蒙古襲来絵詞の主人公・竹崎季長関連史跡】　〈後編その1〉

こんにちは。今回は熊本県宇城市にある竹崎季長関連史跡レポートの後編その1です。鎌倉時代の肥後の御家人、竹崎季長（たけざきすえなが）は文永・弘安の役（蒙古襲来/元寇）で活躍した武士で、教科書などで誰もが一度は目にしたことのある「蒙古襲来絵詞」の主人公として知られます。（見出し画面は絵詞の有名な1シーン）前回の〈前編〉では蒙古襲来と竹崎季長についての簡単な説明と、竹崎季長の墓のある平原公園内に建つ元寇記念碑をご紹介しました。〈後編その1〉では、季長さんのお墓に参った後、蒙古襲来絵詞前巻の文永の役のくだりをご紹介しつつ、季長さんと絵詞の魅力に迫ってみたいと思います！
※本当は今回で竹崎季長の記事は終わるつもりだったのですが、絵詞の内容を載せることにしたため文字数が膨大になったので、さらに次回まで記事を分けます。もはや散策レポートじゃない様相を呈してきてますが、よかったらお付き合い下さい。（後編その1  → 4500字）

今回の散策地はここ

平原公園（竹崎季長の墓）

平原公園駐車場にある公園の案内図です。↓竹崎季長の墓は駐車場から左手に続く小道を進んだ先にあります。

小道を暫く進むと「竹崎季長の墓」の道標が見えてきます↓ 季長さんのお墓は中央の木の裏付近にありますので、木の根元にある階段を上がります

そしてこちらが季長さんのお墓です✨↓

写真では分かりにくいのですが、中央の五輪塔が季長さんのお墓です。写真左手の石碑は、大正天皇より竹崎季長に従三位の位が追贈された際の記念碑です。お墓には、お花やみかんやカップ酒がお供えしてあって、地域の皆さんに大切にされていることが分かりますね🍊

「季長さん、こんにちは。季長さんの、逆境に負けない意志の強さと粘り強さ、そして目上の人々の命令に反きまくり、禁を破ってさえも自分の意思を貫き、最終的には相手を感化して自分の望みを叶えてしまうチャーミングさとちゃっかりさには感服仕りました。しかしその成功の裏にはいつでも命懸けの、不退転の決意があったんですよね。私も人生において季長さんの生き方を参考にしたいと思います🙏」

と、いうことで、ここからは季長さんと、登場する鎌倉武士たちの魅力がたくさんつまった蒙古襲来絵詞の内容をご紹介したいと思います。記事を書くにあたり、参考文献で絵詞の全文を読んだのですが、まるで漫画を読んでいるように面白くて一気読みしてしまいました😆最初はいくつかのエピソードをかいつまんで載せようかと思ったんですが、省ける所が無いほど面白いので、文永の役からその恩賞を得るまでを描いた絵詞〈前巻〉全ての内容を私なりに解説、要約、意訳してまとめてみたいと思います！（←無謀にも。素人なので細かい解釈は間違っている部分あると思いますがご了承下さい🙇‍♀️もちろん参考文献の現代語訳を多分に参照させて頂いています。）

因みに今更ですが、「蒙古襲来絵詞」は老境に入った竹崎季長が、蒙古襲来時の自身の記録を絵師に描かせ、詞を付けたものです。（竹崎季長が自分の戦功を幕府に訴えるために描かせたものではありません。）元寇での自身の活躍と、自身が見聞きし会話した内容を記録したドキュメンタリーです。そのため、遠い昔の出来事にも関わらず、まるでその場にいるような臨場感が伝わってきます✨それでは、鎌倉時代にタイムスリップ、行ってみましょう🏃‍♀️

蒙古襲来絵詞〈前巻〉　文永の役

Desert Rose前置き解説：
文永の役（1回目の蒙古襲来）以前の竹崎季長は、一族との相続争いに敗れ、所領の無い「無足の身」でした。この戦で戦功をあげて一族を見返したいと、博多に出兵した一族とは別行動を取ります。しかし無足の身ゆえ、季長の軍勢は主従2騎に加え、姉婿である三井資長の主従3騎の助勢によるわずか5騎でした。さて、季長さんはここからどうやって不遇の人生を挽回するのでしょうか？

［詞一］
文永11年（1274）10月20日、博多の息の浜に数多くの蒙古の軍勢が上陸します。たくさんいた季長の一門の中で、江田秀家が季長に申し出てきたので、「兜を交換して、これをお互いの目印にして戦おう！」と話していたところ、蒙古軍が赤坂に陣取ったとのことで、一門の人々も赤坂に向かおうとしているところに、当日の指揮官である日の大将軍・太宰の少弐景資の使者・野田資重が訪れます。

野田資重：　
「赤坂は馬の足場が悪いです。ここ箱崎で待っていれば、必ず向こうから攻めてくるはずなので、その時を待って皆で一同に騎馬で駆けて矢を射掛けるようにとのおおせです。」
（命令通りその場に控える一門の人々）

季長さん：
「大将を待っていては戦機を逃してしまいます。一門の中からまずは季長が肥後国の先駆けをいたしましょう！」
（箱崎の陣を打ち出でる季長さん）

［詞二］
季長さんは、日の大将・少弐景資の陣に向かいます。少弐景資（当時29歳）は浜で鎧櫃に腰掛けて陣を固めていましたが、家臣の太田左衛門が季長さんを呼び止めます。

太田左衛門：
「大将の前を騎乗のまま通るのは無礼であろう、降りられ給え」

季長さん：
「先駆けのために敵陣に向かっておりますが、我が軍勢は僅かに5騎です。これをもって御前の合戦で敵を追い落とす力はございません。しからば一番乗りに敵陣に突っ込む先駆けをして君の見参に入ることを期待するしかない身です。どうか先駆けを君の見参に入れて下さい！」
※「君」の解釈は、征夷大将軍・惟康親王や、執権・北条時宗など諸説あり。

少弐景資：
「私も存命するかどうかは分かりませんが、存命したならば見参の件、受け給わりましょう。」

季長さん：
「恐れ多くも、騎乗のまま申し上げ失礼仕りました。」

少弐景資：
「そのままお通りください。」

（大将にちゃっかり先駆けの許可を取り、君への見参の念押しをして敵陣のある博多に馳せ向かう季長さん）

絵詞に描かれた鎧櫃に腰掛ける日の大将少弐景資。なかなかイケメンに描かれている。（画像はwikipediaより）

［詞三］
陣地を発って、住吉神社の鳥居を過ぎて小松原を通って赤坂に向かう途中、芦毛の馬に乗り、紫逆沢瀉（むらさきさかおもだか）の鎧に紅の母衣（ほろ）をかけた武者と出会った季長さん。その軍勢は100騎ばかりと見えたが、赤坂の蒙古軍と戦って引き上げて来た様子で、首を二つ太刀と長刀の先に掲げ左右に持たせている姿がとても立派に見えたので、その武者に声をかける季長さん。

季長さん：
「どなた様でしょうか。爽やかに見えますぞ」

紫おどしの鎧の武者：
「肥後の国　菊池の二郎武房と申す者です。かくおおせられるはどなたですか？」

季長さん：
「同じ肥後の国の竹崎の五郎兵衛季長と申します。これから先駆けをするところです。どうぞご覧あれ」
（といって蒙古軍の陣に馳せ向かう季長さん）

Desert Roseのつぶやき：
きゃー、当時の菊池家１０代目当主・菊池武房さんと菊池一族の登場です❤️❤️💫この時、武房さん30歳、季長さん29歳✨年も同じ頃の若い2人の出会いが、まるで大河ドラマの1シーンの様に印象的に描かれていますね。（現代人としては首にはゾッとしてしまいますが💦）弱小武士の季長さんにとっては、100騎を引き連れた肥後の有力士族の棟梁・菊池武房さんはとても眩しく見えたことでしょう✨（因みに残念ながらこの時の武房さんの人物絵は絵詞には描かれていません）菊池市の武房さんのキャラクターのイメージカラーはこの時着ていた鎧にちなんで紫色です。因みに、私も花束を頂く機会がある際はなぜか決まって紫ベースの花束です。武房さんとイメージカラーが一緒だ〜😆💕（←どうでもいい情報）
しかし、ふと疑問が湧いたのですが、菊池一族が既に追い散らした蒙古軍に突撃して、「先駆け」が成り立つのだろうか。。

［詞四］
菊池武房に赤坂の陣を落とされた蒙古軍は二手になって、大勢は麁原に向かって退き、小勢は別府の塚原に退きます。小勢が大勢と一緒になろうと麁原へ向かっているところを追いかける季長さんでしたが、馬が干潟に脚を取られてしまい、蒙古軍を逃してしまいます。蒙古軍は麁原に陣を取って、旗を並べてドラや太鼓をひっきりなしに打ち鳴らしています。そこへ馳せ向かおうとする季長さんでしたが、郎党の藤源太資光が声をかけます。

藤源太資光：
「御味方は続いて参りましょう。味方を待って証人を立ててから御合戦なされませ。」

季長さん：
「弓箭の道は先駆けを以て賞とするものである。ただ駆けよ！」

と叫んで、蒙古軍に向かって突進する季長さん。応戦する蒙古軍。まず最初に、季長さんの旗指しである資安が馬を射られて跳ね落とされ、季長さん以下三騎も深手を負います。そして季長さんの馬も射られて絶対絶滅のところに、肥前の国の御家人・白石通泰が後陣より大勢（100余騎）で駆けて来たので、蒙古軍は麁原の陣に撤退します。馬のまま敵中に深く入り込んでしまい、白石通泰が続かなかったら間違いなく死ぬところだった、と回想する季長さん。思いの外に存命したので互いに戦功の証人に立ったのでした。

季長さんの後方より駆けつけて、蒙古軍に矢を射る白石六郎通泰の軍勢。素晴らしい画技。（wikipediaより）

Desert Roseのつぶやき：
季長さん、もう少し後続を待ってから先駆けすればよかったのでは？正に猪突猛進。熊本弁ではこういう人を「かんなし」（勘がきかない、考えなし）と言います😅
因みに、この白石通泰さんと季長さんの絆はこれだけで終わらず、季長さんは、通泰さんを自領の海東阿蘇神社の神職として迎えたそうです。そして白石家は現在に至るまで代々海東阿蘇神社の社家を勤めていらっしゃるそうですよ💡この海東阿蘇神社も散策してきましたので、次回の記事でご紹介したいと思っております。

あとがき

蒙古襲来絵詞の世界（の一部分）はいかがでしたでしょうか。この絵詞は、季長さんがすみずみまで気を配り、絵師に指図して描かせたと言われています。絵の注釈には「似絵」という文字があり、人物ばかりではなく、馬や武具まで忠実に再現しようとしたと考えられています。季長さんのこだわりが感じられますよね。（絵師からしたらちょっと注文細かすぎてうざがられたかも笑）しかしその甲斐あって、まるでその場にいるかのような臨場感で、とても貴重な史料で国宝指定されるのも納得の絵詞ですよね。絵の描かせ方も、筆力も才能あります！私は今回全文を読んで、全編命懸けのストーリーではあるのですが、時々プッと笑ってしまうようなユーモアを感じました。本人意図的にやってるのか、天然なのかは分かりませんが。季長さん、若干盛ってる？と思わなくはないですが、老境に差しかかって当時を思い出しながら描かせたので多少記憶は美化されることはあると思いますし、自身の経験に基づいた実話であることは変わりありません。これだけ人の心を動かす作品を作る方ですから、そりゃあ時の幕府の実力者、安達泰盛も心を動かされて、季長さんに地頭職と名馬まであげちゃうのも納得な気がします。と、いうことで、次回は蒙古襲来絵詞〈前巻〉鎌倉出訴についてのくだりをご紹介するとともに、海東郷の氏神で季長さんも厚く敬った海東阿蘇神社と、季長さんの菩提寺・塔福寺の散策レポートをUP予定です。（次回一回でうまくまとめきれるか若干心配ですが😅）
次回も宜しくお願い致します❣️

宇城市にある「不知火美術館・図書館」はスタバが入っていて、中もツ○ヤか外国の図書館の様な雰囲気でお洒落！

最後までお読み頂き、ありがとうございました😊

【参考文献・HP】
・大倉隆二『「蒙古襲来絵詞」を読む』海鳥社2007年
・阿蘇品保夫『菊池一族』新人物往来社1990年
・宇城市教育委員会編『宇城市の指定文化財』
・菊池市『菊池一族　歴史さんぽ』
・Wikipedia