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すずしいメロディ

恋しい誰かの歯ならびを思い浮かべてしまうような、お花の開き方ですね。芍薬。
満開まではもう少し時間があるかも。

最近、顔にやけどをした。180度に温まったコテで前髪を巻いている時に焼いてしまって、ひたいの真ん中にできたものだ。多分先週くらいにできてからまだ赤く残っている。
それができてから、うれしくて何度も鏡を眺めてしまった。消えなければいいのに、とひそかに思っている。
当たり前のように少しでも綺麗になりたいってお粉をはたいてマスカラ塗っていっしょうけんめい作った顔を、この痕は少しだけ壊してくれる。それってなんかバランスが取れてる。温めた部屋にすきま風が通るのをあきらめるみたいな、仕事の帰り道にハイヒールをぶら下げて歩くみたいな、毎日それなりにやって5月29日に心療内科に行くみたいな、そういうことをゆるせたら、肩の荷が降りて自由になれる。本や音楽とも違う"健康"のための、体いっこ、やさしいおまもり。

今まで眉のあたりできっちり揃えていた前髪が伸びてきたので、中途半端な長さだけどがんばって真ん中に分けている。当分は切らない。「前髪を伸ばす決心ってどうしてこんな脆いんだろうね、切った方が絶対評判いいしさーホント……」ってよく友人との間で話題&共感になるのだけれど、今度こそがんばる切らない。
そうするとこの痕、当然外からは見えるのだけれどべつにいい。昨日もまったく隠さないでオールバックで出かけたら、風をきって最高に爽快だった。何もこわいものなんてない気持ちになった。

相反するもの、どちらもいつも持っていて、揺れている。昔はこうと決めたら"絶対"で、人にも自分にも絶対って言葉ばかり使っていた、その反動が来たみたいな今も、なげやりなんじゃない、どっちも混ぜ合わせたあたらしいバランスってうつくしいと思っているの。つよさもやさしさもそれぞれ。

あかるい、くらい、きれいになりたい、きたなくなりたい。こういうのって変なのだろうか。いやそういうものだよ。天国はたぶん布団の中で、地獄は、?とりあえず出かけるよ。はてしない行ったり来たりの苦悩でもう半分逝きかけている頭、くちびるからはただ君とふつうに会いたいためのすずしいメロディ。
夏まだかなぁとか、やーもうむりでした笑とか、ずっとこうしてたいなとか全然大丈夫とかまた落ち着いたら飲もうとか、そんな歌詞がきっとのるだろう。
ありふれたけっこう切実な。
だから私たち、たぶん出会えた。
きらわれそうな日は会わないよ。お家で熱いお湯を沸かして、渋いお茶を淹れて、ファミマで買ったラムネクリームのアイスを食べる。中には刻んだホワイトチョコと硬いラムネ。君はわるくないのと同じで、私もわるくない。
色々あってもこのメロディにまじった微妙な昏さや明るさは私だけのもので、生きてる価値なんてそれだけでじゅうぶんだ。
何言ってるんだろう。何も言ってない。このおいしーアイスみたいなメロディだけが差し出せるすべて。でも本当は。

時々火傷の痕を撫でている。いとしい。けど回復力が強いよ、もう、かさつき始めている。


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