教師はティーチャーからジェネレーターへ(探究演習)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回はジェネレーターという書籍を紹介します。著者は伊庭崇さんと市川力さんで、伊庭さんはパターン・ランゲージを日本で広めた人でもあります。
発動機としてのジェネレーター
ジェネレーターとは「一緒に参加して盛り上がりをつくる人」という役割の人です。ファシリテーターは一歩外から支援や伴走をしますが、ジェネレーターは中に入って共に活動することを意味します。
この考え方が生まれた背景には、社会の変化にともない、求められる学習観もアップデートされてきたことが関係しています。
消費社会 → 教わることによる学び → Teacher
情報社会 → 対話することによる学び → Facilitator
創造社会 → つくることによる学び → Generator
消費社会では知識を身につけることが重視されたので、教える教師と生徒の関係で成り立っていました。情報社会になると、一方的な知識のインプットだけでなく双方向のインタラクションが重要になるので、ワークショップやグループワークを推進する交通整理役が教師に求められました。
創造社会は2000年以降から兆候が見られます。ダニエル・ピンクの2006年の著書「ハイ・コンセプト」による右脳的思考、2007年のiPhone、その後のメーカーズ・ムーブメントや地方創生といった社会活動、VUCAの時代を切り開くイノベーションの重要性、日本では2018年にSociety5.0で「これからは創造社会になる」と宣言しています。
創造ではファシリテーション役にとどまらず、自らも参加してジェネレーターとして活動を推進する発動機の役割が、今の教師に求められていることです。
では次に、ジェネレートするためのアプローチ3つを紹介します。
Grasp
1つめ。Graspとは日本語では「つかむ」ですが、ここでは創造のために学習者といっしょに見えないなりゆきをつかむ、という意味が込められたキーワードです。それぞれを頭文字として5つの構成で成り立っています。
G(Guide)ゴールが決まっていない中で道標をガイドする
R(Release)コントロールしないで自由にさせてみる
A(Accept)思いつきや変なことも許容する
S(Show)失敗を自らさらけ出して、一方で本物を見せる
P(Participate)みんなと一緒に参加して没入する
Graspが実践できるジェネレーターは、やってみないとわからない状況で一歩踏み出し、つらく楽しいプロセスを面白くして、みんなで試し続けて発見を積み重ねる、ということを実践できている人です。
5つの禺
2つめ。予定や計画にない「禺」を意識することも有効です。
遇:常に探索して新しいことに「遭遇」する
偶:何かに出会うことで「偶然」思いついたりひらめいたりする
隅:あまり注目されていないような「隅っこ」にヒントがあったりする
愚:あきらめずに「愚直」に向き合うと開けることがある
寓:このような過程を経ると面白い「寓話」ができる
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチで「Connecting the dots」という話があります。
カリグラフィに夢中になり取り組んだことがMacの美しいコンピューターという概念を生み出したエピソードは、この5つの禺を経ているといえます。
中動態
3つめ。中動態とは能動と受動の間の態度を意味します。例えば「生まれる」とか「眠る」「聞こえる」は、100%自分の行動ではないけど、何かしら自分の意思は関わっています。
ジェネレーターが巻き起こす生成とは、自分たちや周囲の中で何かが生まれてくる中動態です。一方的な教え方で100%受動的になるのではなく、かといって生徒の自発性だけでつくる100%能動的でもない、その間という位置付けです。
学んだこと
伊庭さんは「クリエイティブ・ラーニング」という書籍も出しています。創造社会のいまの社会に対して、つくることで学ぶという学習スタイルが求められるということを主張しています。
「つくることで学ぶ」という効果は、自分が美術やデザイン教育を受けて強く実感していることです。ただし、つくることで学んで活躍している人は、学校以外の場所の方が多くを学んだような人たちです。
学校の役割がアップデートされないと、この流れはそう簡単には変わらないと思います。一方でデザイナーなどのクリエイティブな職種の人は、教えることが専門なわけではありません。
自分はこの「つくる」と「教える・学ぶ」の両者をつなぐ方法をデザインしたいと思っています。自分にとってはよい社会のながれになっているとは思うので、この機会を活かしたいです。
今日はここまでです。
この記事が参加している募集
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。