クリスチャン-04

デザイナーと社会学者では異なる探索のアプローチ :How to design the purposeful business with humanity?

縁あって『センスメイキング』の著者のChristian Madsbjergさんのトークイベントに参加しました。ファシリテーターはこれまた『直感と論理をつなぐ思考法』の著者であり、前にこのブログでPURPOSEについて取り上げた佐宗さん。

本は事前に読んで勉強していたものの、いまひとつ自分の中で理解できていないところがあったので、考えをしっかりと知るいい機会でした。会場は日本橋にある大学院大学至善館で参加者の半数は大学院生。

センスメイキングについて

まず本と著者の概要を簡単に要約すると「センスメイキング」はSTEM教育(Science, Technology, Engineering and Math)の対比にある人文科学がこれからの社会やビジネスでより重要になる、そのために人間を深く知ることが大切だ、ということを述べた2019年の本です。

著者のChristian Madsbjergさんはデンマーク出身の社会学者であり、コンサルティングファーム・Red Associatesの創業者としてニューヨークを中心に活躍している人です。

本のことも近いうちにまとめようと思いますが、一見デザイナーの考え方に近いのかと思いきや、デザインファームやデザイン思考に対する批評もある(かつ厳しめに)のが印象的でした。

PURPOSEとセンスメイキング

イベントでは、企業との実践例を紹介してくれました(いくつかは本の中でも触れられています)。その共通点は、HowではなくWhyから会社の事業の意義を捉え、社会との関係性(Culture)や人の感覚(Sense)につながる目的を設定することで、新しい市場をつくりだしていることです。

例えば、LEGOでは遊びの意味を「なぜ子どもたちは遊ぶか?」から考え、リサーチを通じて「何時間でも夢中になって受け身ではなく自分で見つけだす行為」に意義があることを再定義し、そこから商品の展開を行いました。

adidasは、ランニングやヨガなど"相手に勝つという概念がないスポーツ"に対して、フィットネスに対する意義や価値を見出すことで、そこに新しいスポーツのジャンルを開拓しました。(例えば、単に女性にピンクの服を提供すればいいのではなく、体型に合う服に見えることが重要)

価値を内から考える視点は、これまでも取り上げてきた、PURPOSEの考え方や、ファンベース意味のイノベーションとも共通点があります。VUCAといわれるような外部環境の不確定さが高まるほど、内部に目を向けることの重要性が理解できます。

だけど一方で、それは簡単にできることではない、というのが後半の対話の中から読み取れました。

デザイナーのリサーチ、社会学者のリサーチ

ここはデザイン出身の僕が特に興味を持った内容です。質問のなかでデザイン思考との違いについて、Christian は「デザイン思考で行われていることの多くはユーザーであるけど、私たち社会学者は人間(Human)を見ている」ということを言っていました。

言葉の整理をしてみると、

・コンシューマーやカスタマー:商品やサービスを買った人
・ユーザー:商品やサービスを使う人
・ヒューマン:社会の中で暮らしている人で商品やサービスに接している

デザイン業界ではヒューマン・センタードという考えを重視することから、お金の関係としてのコンシューマーではなく、体験の関係としてのユーザーという言葉を使っています。

それでもヒューマンに比べると、ユーザーは使うシーンだけに切り取っているという見方ができます。先に紹介したWhyから考えて社会や人の関わりから存在意義を考えるためには、ユーザーでは不十分だといえます。

ただしヒューマンまで広げると焦点が定まりにくいので「デザインファームからみると、私たち社会学者(Social Scientist)は時間がかかりすぎる、アカデミックすぎる、ずっと議論してばっかりと言われる」ということです。(その情景がすごく目に浮かびます)

リサーチを実践する立場としては、ヒューマンという視点はとても理解できます。なぜなら使うシーンだけを断片で切り取ると、そこで出てくる問題や解決策は『便利なこと』か『効率的なこと』だけになりがちで、これはつまり理系の視点=STEMの思考であって、人や社会に焦点を当てた意義や価値といった視点ではないからです。

切り取ってしまうとHowになりがちなので、Whyから考えるためにはセンスメイキングが大事ということがよく分かります。そして、これを実践のビジネスにつなげられるかが、今の社会における定性リサーチのスキルとして求められている、ということが理解できました。

社会学、行動心理学、哲学や宗教などをより深く学ぼうと思います。

参考:Social Exchangeという考え方

最後に少し関連した話を紹介します。

以前、アメリカで活躍しているロボットデザイナー(かつエンジニア)である人にインタビューをしたとき、印象的だった発言が、今回のイベントの内容とシンクロしました。記憶を頼りに思い返すと、

人が暮らしや社会の中で何かやりとりをする(Social Exchange)関係性から考えると、身の回りのあらゆるものがコミュニケーションの対象になりうるし、ロボットという概念の捉え方も変わってくる。

といった内容で、この『Social Exchange』という言葉が、センスメイキングを起点にリサーチをするうえで、1つのヒントになると思いました。イベントの中でも、人と対象物の関係性にInteractionやCultureが存在し、そこに目を向けることの大切さをお話ししていました。

人・社会・文化を探るリサーチで、デザインの価値をより高められるよう、まだまだ勉強をしていきたいと思った次第です。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。