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佐藤雅彦さんは分かり方をデザインする:学習のデザイン16
学習のデザイン9人目は、佐藤雅彦さんです。
このような人です
ポリンキー、バザールでござーる、カローラⅡ、だんご3兄弟、ピタゴラスイッチ、I.Q、などなどCMからテレビ番組やゲームまで、知らない人はいない数々の作品を手がけてきたクリエイティブ・ディレクターです。
広告代理店を退社したのちに大学の研究室に場を移し、広告に限らず映像の表現を追求するなかで、多くの作家やクリエイターを輩出しています。
そんな佐藤さん、実はもともと営業職だったそうです。あるとき社内の人が興味を持ち勧めてみたことがキッカケだということでした。
自分ではそんな意識は全く無かった時に、藤幡さんは僕がつくったスケジュール表や見積り表を見て「きれいだ」と言ってくれたんです。(中略)それで30歳を過ぎてから、表現を始めたんです。
紫綬勲章を受章されたときのスピーチがありますが、自己主張の強い表現者とは違って、素直な気持ちを持って創作活動をしていることが伝わる、素敵な人柄が伝わってきます。
自分もこの人のようにありたいと思います。
クリエイティブに発見する
佐藤さんが、他のクリエイターとは一線を画しているエピソードはたくさんありますが、そのうちの1つをご紹介します。
佐藤さんはディレクターとして活動する前に、色々なCMを分析していました。そこで、映像よりも音のほうがより強い印象を与えられることに着目しました。それを音のデザインとして具体化していき、出演者本人がしゃべってCMメッセージを伝える『ドキュメント・リップシンクロ』という手法を確立させました。そこから生み出されたものが「カリッとサクッとおいしいスコーン」や「バザールでござーる」「うまいんだな、これが。」などの有名なCM達です。
映像ではなく音です。それも、カッコいい音楽や効果音ではなく、つい口ずさみたくなる言葉をデザインしました。
この着眼点や発想が衝撃的です。
佐藤さんはこの後、CMだけではなく他の領域でも次々と新しい表現を見つけては発表し続けるわけですが、このクリエイティブに発見する力が突出しており、それを教育の場で学生にも教えています。
分かり方に着目する
ありがたいことに、佐藤さんは本を多く出しています。その中から、ここでは学習と結びつきの強い2冊の本をご紹介します。
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1冊目は、主に小〜中学生を対象にした本ですが、大人でも楽しんで読めます。写真や絵を見て「これってこういうことではないか?」という発想をしながら、数学の問題を解いていきます。
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こんな内容で、全23の問題があるのですが、どれも日常の景色の一コマが題材になっているので、具体的にイメージしながら考えることができます。
この本でやりたいことは、
「ひと目で問題の意味がわかる、ひと目で問題を解きたくなること」
ということです。言い換えるとそれは、数学の問題は抽象的で、問題自体が何を言ってるのか分からない、問題を解くのが義務的な気持ちにさせるもので、ゆえに勉強がつまらなく感じてしまいます。
佐藤さんは、トイレのタイルを見て問題を考えることから着想を得て、問題を解いてみたくなるよう、現実の世界に数学の問題をあてはめて提示する手法を発見しました。
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導き出す回答や計算式は同じであったとしても、解きたくなるような問題をデザインすることの大切さと、ここにクリエイティブな発見が必要であることを、この本は教えてくれます。
新しい分かり方をする
もう1冊はより、分かり方そのものに着目した本です。
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例えば、手書きメモの上真ん中を見てみましょう。立体の対角線は断面をカットしないと測ることができません。でも、そこに空想の同じ立体を2つ積み上げてみると…なんと測れます!
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見えていないものを存在させることによって、今まで見えなかったことに気づくことができます。
これって、数学の図形の問題を解くときの補助線に似ています。補助線が見つけられたときってめちゃめちゃ嬉しいですよね。このような「分かり方」は、普段の考え方とはちょっと違う、新しい手法です。
本書のあとがきの言葉をご紹介します。
この書籍には、「こんなことが自分に分かるんだ」とか「人間はこんな分かり方をしてしまうのか」というようなことを分かるための機会をたくさん入れようと構想しました。
分かること自体が難解なものも、いくつかあります。しかし、それらも、その「分からなさ」をご自分で反芻すると、いままで知っている「分からなさ」とは一線を画すものだということを感じられるのではないでしょうか。私は「新しい分からない方」と呼んでいます。
「分かる」ことはとても楽しいし、「分かり方」は決して1つだけではありません。そして、分かると分からないの間に、想像力や好奇心といった、学習の楽しさがあります。
表現ではなく手法を考える
このように、佐藤さんは考える手法をデザインします。
私は、表現を作る時には、いきなり表現に入るのではなく、どう作ったらかっこいいもの・面白いもの・かわいいものができるかということを、まず考える。別の言葉にすると、手法をまず考えるのである。
CMで音に着目したリップシンクロの手法、現実の世界に算数を当てはめて問いかける手法、前後の違いで想像を掻き立てる手法、補助線によって見えないことに気づかせる手法。
手法は必ずしもすべてがオリジナルではなく、昔からある手法を別のものに当てはめてみるというアプローチも行なっています。
象嵌とは、工芸技法のひとつで、ある素材に異質の素材をはめ込む手法で、例えば、漆器に貝殻を入れ込む螺鈿などもその一種である。それを現代的にデザインに取り入れたのが、カルピスの原稿であった。
考え方を考えること、ここがカギです。
学んだこと
学校の先生は、指導要綱に沿って教えています。なので、教え方は基本みんな同じ方法を用いています。でも、学生が「分かった!」となるための方法は1つではありません。
ここにデザイナーとしてできる可能性が多くあります。新しい分かり方を見つけるために、学校教育で手法をデザインすることはまだまだできるはずです。
最後に、冒頭に紹介した紫綬勲章のスピーチの一文を引用します。
「study」だと勉強と訳すが、その語源はラテン語の「studious」で夢中になる、熱中する状態のことです。ですからスタジオ(studio)ではみんな熱中して物事を作ったり撮影したりしているわけです。studiousになることを覚えた子どもだったら、将来、表現をやろうと、研究をやろうと、物を作る人になろうと、集中の仕方をわかっているので、自分のやりたいことに到達できます。
ここが学ぶことの本質だと思います。ただ知識を増やすだけではなく、自分で切り開いていけるための方法がわかるための学習、僕はここをデザインしていきたいと思いました。
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。