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上田信行さんは楽しむことが学びだと考える:学習のデザイン17

学習のデザイン10人目は、上田信行さんです。

このような人です

大学に籍を置き、学習環境デザインを専門に「プレイフル・ラーニング」を提唱し実践している方です。教育研究者からはじまり、深めていく過程で自身が創造的になり、活動スタイルが変わっていきました。

ご経歴を3ステップでご紹介します。

1970年代は「教育っておもしろくてもいいんだ!」ということに気づきます。アメリカ留学中に体験した、教育番組のセサミ・ストリートの制作現場や、ボストンの子どもミュージアムでは、触れてもらう展示物や順路を決めてない空間設計に衝撃を受けます。

セサミ・ストリートって、デザインの観点から見ても本当に素晴らしい教育コンテンツですよね。この動画が個人的に大好きです。

1980-90年代はメタ認知や他者との協働に注目します。コンピューターへの関心からプログラミング言語を試行錯誤する過程からの学びに注目します。当時、日本に留学中だったジョン・マエダと出会い、Human-Powered Computing Experimentというプロジェクトを行います。こちらが当時の貴重な動画。

90−2000年代はワークショップや展覧会の場を学びに活かします。当時はラーニングサイエンスの研究が注目されていた一方、上田さんはラーニングアートという逆の方向に関心を向けて、想像して創造するアプローチを重視し、異業種の専門家とコラボレーションします。

2010年代に企業でよく見られる共創型ワークショップのスタイルの原型は、この当時にすでに実践し体系化されていました。

プレイフル・ラーニングとは

こちら2冊の本に、上田さんの思考の過程が書かれています。ここから学べることとして、学習環境で欠かせない要因をいくつかピックアップしてみたいと思います。

プレイフル・ラーニング 上田信之x中原淳 三省堂(2013.01.10)
プレイフル・シンキング 上田信之 宣伝会議(2009.07.03)

環境で学びは変わる

1970年代はまだ「知識は教えられるもの・伝達されるもの」でしたが、心理学者のジャン・ピアジェ「知識は構成されるもの」という理論をもとに、研究者たちは「学習者が知識を構成できる環境をつくろう」と考えました。

1980年代にMITのシーモア・パパートは「子どもは具体的なものづくりを通して、知識を構成する(Learning by Making )」という構成主義を展開しました。当時はコンピューターによるプログラミングへの適応が主でしたが、物理的な環境にも目が向けられます。

例えば、となりに誰がいるかとか、気軽に聞けるかとか、すぐ作ったり実験ができるかとか、そういったことを含めた環境です。

以前紹介した、美馬さんのアトリエ・ミュージアム・スタジオといった考え方と、つながる点が多くあります。

つくると学びが変わる(制作とメタ認知)

プログラミングなどを通じて、つくることの学びの大きさにも注目します。これはモノづくりをしてきた自分には自然なことですが、科学者も実験を通して学ぶし、文章をたくさん書くことで言葉を理解するなど、制作の効果はもっと学習で重視されるべきだと思います。

また、つくることはメタ認知を育むことができます。

制作をする過程では、内省したり、客観的な視点が得られる場面があります。デッサンをしているときに自分の認知やクセを意識したり、法則や共通点を見つけたりなど。

ときどき立ち止まって考えることを認知心理学では省察といいます。

省察とは、「状況と対話する」ことである。(中略)要するに、刻々と変化する状況のなかで、この状況をどう把握すればいいのか、その状況に対していまの自分の行動にはどのような意味があったのかをメタ認知してみることである。

プレイフル・シンキング P74 より

メタ認知を通じた省察は、自らが気づいて次の学習につなげるための、大切な行動だと思います。

以前ご紹介した阿部雅世さんは、メタ認知と省察の達人だと思います。

楽しいかどうかで学びは変わる(没頭性)

これはいわずもがな。楽しくなければやる気はでませんし、逆に楽しければほっといても学んでいきます。レゴだったりゲームだったり、遊ぶことを通じて学べることは計り知れません。

「人は没頭できる活動と環境さえあれば、やる気が生まれてくる」僕はそこに注目したのです。

プレイフル・ラーニング P72 より

遊びや没頭性についても、これまで取り上げた他のデザイナーが言及していました。大事なのは先生側が「教えなければいけない」という重圧や責任から解放されて「学習の面白さに気づいてほしい」という姿勢で、学ぶ環境を提供できることではないかと考えます。

遊び試行錯誤して学ぶことについては秋岡芳夫さんを参照。

他者に頼れると学びは変わる

2010年以降に浸透した、共創型ワークショップは、上田さんのスタイルが元になっているのではないかと思います。(デザイン思考の普及とかもあるけど、それもおそらくはアメリカの教育研究から出てきたもの)

2001年、すでに雑誌AXISに活動が紹介されていました。

AXIS VOL.90 「学び」のデザイン考 より

ワークショップを成功させるための1つは「他者に頼ること」です。これも今では普通に言われている、知識は分散している、自分にない視点や知識を他者から借りる、そのためには共感が大事ということです。

他者と共感も、学習環境をデザインするうえでは欠かせません。

学んだこと

学習環境のデザインを2000年よりも前に、アカデミックの研究だけでなく実践されていたことを、今回まで正直知りませんでした。(AXISも当時読んでいたはずなのに記憶に残っていなかった)

AXIS VOL.90 より

でもそこから20年以上経ち、2023年のいまはどうでしょうか?

共創の考えは浸透はしています。没頭性についても、文科省のアクティブ・ラーニング推進により広まってきていると思います。テレビ番組でも何か1つのことを極めている小中学生や大人をよく目にしますが、それはこういった流れなのかも。よいことだと思います。

でも一方でプレイフルであることや、メタ認知の重要性については、教育という領域のなかではまだ浸透しきれていないように思えます。どうもまだ、勉強と遊びが対立しています。

「ただふざけてるわけじゃない」「省察って見えないからわかりにくい」、こういった教育現場での誤解を解くために、デザインでできることが何かあるのではないかと考えます。


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探究学習がすき

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。