「デザインミュージアムをつくろう!キックオフ公開会議」議事録③
開催日:2019年11月16日(土)
「みんなでつくるデザインミュージアム」。三宅一生さん、青柳正規さんが2012年に提唱した精神を受け継ぐ「デザインミュージアムをつくろう準備室」の公開会議vol.03は、規模を拡大。グラフィックデザイナーの佐藤卓と建築家の田根剛による基調トーク「なぜデザインミュージアムが日本に必要か?」に始まり、香港でオープン準備中のデザインミュージアム「M+」のデザイン&建築 リード・キュレーターである横山いくこ、文化庁の林保太、田根剛と齋藤精一によるラウンドテーブルトーク1「デザインミュージアムは何をすべきか」、そしてラウンドテーブルトーク2では「こんなデザインミュージアムをつくりたい〜参加者の声を聞きながら〜」と題して、インターフェースデザイナーの中村勇吾、グラフィックデザイナーの色部義昭、日本デザイン振興会の矢島進二、ファシリテーター川村真司により、日本に必要なのはどんなかたちのデザインミュージアムなのかを探ります。
ラウンドテーブルトーク2
「こんなデザインミュージアムをつくりたい〜
参加者の声を聞きながら〜」
登壇者:
中村勇吾
(WEBデザイナー/インターフェースデザイナー/映像ディレクター)
色部義昭
(グラフィックデザイナー/株式会社日本デザインセンター 取締役)
矢島進二
(日本デザイン振興会 理事 事業部長)
ファシリテーター:
川村真司(Chief Creative Officer / Co-Founder Whatever)
edit & text : 上條桂子(編集者)
photo : らくだ
川村真司
せっかくの機会なので、トップダウンで狭い会議室に集まって、デザインの権威だけを集めて話をするのではなく、会議自体をオープンにしていきたいということで公開会議という機会を設けました。さらにラウンドテーブルでは、タイトルにもある通り参加者の方々の声からデザインミュージアムのヒントやかたち、仕組みを見つけられたらいいなと思います。
参加者の皆さんのデザインミュージアムへのアイデアをいただきたいです、という会です。
会場の皆さんからはアンケートで100件以上のご意見をいただきました。本当は全部を紹介したいところなんですが、時間もありますので、そこから見えた大きな3つくらいのテーマを話しつつ、後半はいけるところまで深堀りできればと思います。
「デザインミュージアムはどんな役割を果たすべき?」という質問があるなかで、何度も会議の際に議論になっている「デザインの定義」についてまずはお話ができればと思います。もちろん答えはひとつではないと思うんですが、なんとなくデザインってなんですか?という問いからしていこうと思います。この問いは永遠に僕らに付きまとう話だと思うんですが。
デザインってなんですか?
中村勇吾
「デザインとは何か」という話を聞かれることがちょいちょいあって、いつも期待に添えず困るんですけど。基本的には「設計」の英語なんだと思っています。設計というのは、いろんな知見を統合して、企画して、具体化するという行為ですが、それを英語で「デザイン」って言っているという。「水」を「ウォーター」って言うとなんかいいものに見えるというか(笑)、そういうものとしか思っていない。結局「設計」。設計行為全般がデザインだと思います。
川村
それは、デザインは「モノのフォーム」で規定されているわけではなくて、設計が入っていれば何でもデザインだと?
中村
日本人って何かを英語で言いなおす時、なんかいいものに見せたい、価値付けしたい、という気持ちが入っているじゃないですか。設計をデザインと呼びなおすのは、ものの裏側に居る設計者、デザイナーの存在価値とかその行為の意味を改めて認めていこうというか、価値をつけていこうといった、そういう気持ちが入っている言葉が「デザイン」かなと思っています。
色部義昭
最初から難しい質問であせっているんですが、個人的によく言うのは「〜のため」のというのがつきまというものかなと思っていて。創作活動でもあるんですけど、自分が満足するためというよりは、何かのため、誰かのために機能するとか、そういうものを前提としたものだと思っている。多様な解釈があると思うんですが、例えば、少し話は飛びますが、デザインミュージアムというスペースをつくったとして、イントロで「どこからがデザインか?」というのを問うようなセッティングをすると面白いのかなと思ったり。そこに答えはなくていいんですけど。
川村
答えがないミュージアムっていいですよね。考え続けるというか。よくミュージアムで対比されるのはアートで、アートとデザインの線引きというのはよく話題になるんですが、アートは社会の問題意識をつくるもので、それを解く行為がデザインだということも言われています。いま色部さんがおっしゃったのは、それに近い。田根さんがおっしゃったアイデアも近いですが、課題を集めるというのもひとつのデザインミュージアムのかたちかもしれませんよね。なんらかの社会的要請、ニーズがあったということから、ソリューションとしてのデザインが展示される。矢島さんいかがですか?
矢島進二
色部さんと同じなんですが、ひと言で言うと「ものごとをよりよくするための美意識を持った知恵」と最近答えるようにしています。いまアートとデザインという話もありましたし、すごく大事だなと思っていて。ミュージアムをつくるときにアートとデザインの境界線って曖昧になっている。皆さんの意見は違っていいと思うんですが、これはアート、これはデザインだという接点を皆さんで考えるというのは重要なことだと思います。
川村
永遠に考え続けなくてはいけないことでもあるんですが、どこかでかたちのあるミュージアムをつくるとしたら、仮の決定をしなきゃいけないんだと思います。
色部
その括り方も含めて、この時代にわざわざみんなで集まって新しいものを作るというときに、どっかにあったデザインミュージアムをつくるのはまったく意味がないと思う。デザインの解釈や運営ひとつとっても、ミュージアムの仕組みそのものがデザインとして優れているようなものになるといい。ミュージアムというと箱を建てたくなるけれども、建てないということから考えるミュージアムとか。移動し続けるミュージアムもある。デザインの役割は、時代の要請によって変化してきた。その変遷によって、グッドデザイン賞のカテゴリも移ろってきたのだと思う。移ろうものに対してどう対応していくのか、そのためにどういう共同体をつくっていくかを考えるのも重要なポイントなのだと思います。
川村
例えば中村さんが作られているようなオンスクリーンのメディアはその一例かもしれませんね。形のないものを収集することによってミュージアムの形も変わってくるのだと思います。
中村
僕らの場合は、ミュージアム的な機能、つまりいいものを見て知見を得るということは、YouTubeとかそういうもので実は結構できてしまう。ミュージアムをつくることが目的というよりは、ミュージアムをつくることによって、もたらしたいこと実現したいことを実現できたらいいのかなと思っていて。何をもたらしたいかというと、僕の場合は、単純にいいデザインができる、いま、これから、自分がいいデザインができるということに役立って欲しいと思う。日本全体的に見ても、いい設計者が生まれて、いいものが増えて、それをいいじゃんと思う消費者や経営者が増えて、結果的にいいデザインが社会に溢れる。そういうゴールのもとに、デザインミュージアムをつくる。デザインミュージアムをつくること自体が目的化すると、おかしなことになるかなと思います。
デザインミュージアムに建物や
拠点となる場所は必要か?
川村
これは非常に大事なことですね。形にとらわれてはいけない、ということはこれまでの会議でも話ししてきましたが、フィジカルなミュージアムが本当に必要かという議論です。デジタルの中では、すべてのものがハッシュタグやリンクで繋がっている。そういった世界ではキュレーションだったり、どう体系立てるかということが大事。そこにデザインミュージアムの役割があるような気がします。
次に「有形、無形」何を集めるかという問題。例えば、質問者のなかに「建築を集めるのってどうするの?」というものがありました。ものが持ってこられない場合、写真や模型にするのか? データベースを繋げばいいのかという話もあります。デザインミュージアムではどういったものを集めるか、それをやるためにどういうミュージアムが必要かという問いを皆さんに投げたいと思います。
実は、中村さんにはすでに2020年1月5日から放送されるNHKの「デザインミュージアムをデザインする」「デザインミュージアムをデザインする」という番組収録でこういう話を伺ったことがありまして。この番組は、クリエイターの方々にインタビュー形式で「どんなデザインミュージアムを作り、そこでどんなものを展示するべきか」を伺ったものなんですが、中村さん、ちょっとその時のお話を聞かせていただいてもいいですか?
中村
僕は、ラウンドトーク1でお話に出た「M+」みたいに巨大な収蔵庫にいろいろアーカイブされているのは、すごくいいなあと思うんですが、聞きながら日本ではなんとなく無理そうだなと。これから日本が経済的に衰退していくなかで、あんまり大げさなことをやろうとしてもダメそうだなと思っていて。でも、貧乏なら貧乏なりにやり方はあって。デザインというものは、だいたいが世の中に出回っているものなので所有者がいる。その所有者情報がネットワーク化されていれば、デザインを展示するという意味において、7〜8割は実現できるんじゃないかなと。
川村
僕らがミュージアムを建てずに、デザインミュージアムマークみたいなものでネットワークをつくるとしたら、Gマークと似ている構造だと思ったりもします。
矢島
グッドデザインでいうとこれまで60数年の中で4万8千件を選んでいるわけで、それらはすべてウェブで公開しているので、それを現存しているものや、どこに行けば手に入るのかという情報をタグ付けしていけば、アーカイブにはなると思う。
川村
まずはグッドデザインのすべてをタグ化してしまえばいいのかというのもある。
矢島
それはできるかもしれませんね。あとはそれをどう編集していけばいいか。
中村
僕もデザインミュージアムという話を進めていくなかで、パッと連想したのは、グッドデザイン賞の展覧会。あれはかなり膨大な範囲でさまざまな事物が並んでいるじゃないですか。グッドデザイン賞の審査会もすごくて、巨大な体育館みたいなところでわっーとあらゆる分野のものが並ぶ。あの総合感。あれはひとつのイメージだなと思っていますね。
矢島
その年のコレクションをどう読み解いていくかということもできる。多くの方が参加してくださっていて、実物があるので、それを見える機会にするというのはあると思います。
川村
最近のグッドデザインはモノを超えたセレクションをしている部分があって、システムとか仕組みとかのデザインも受賞している。それは素晴らしいと思います。
矢島
先日、色部さんに展示のディレクションをしていただき、グッドデザインの受賞展というのをやったんですが、ミュージアムというコンセプトだったので、過去の年代ごとに歴代の商品を並べたんですよ。70年代、80年代と並べていくと、日本の工業製品はすごいなというのが一目で分かるんですけど、ここ10年というと、形があってないようなものが多いので、鑑賞物として見た時の展示会場にはなりづらい。ミュージアムというかたちで、お金を取ってものを見てもらうという対象物としてはどうなのかと考えました。
色部
あのスタイルが面白いのは、年ごとにやるじゃないですか。期間限定の面白さがあって、今年はグリッドでパターンをつくって全部展覧会場を繋げたんですが。そういう風に簡単にパッケージングしちゃうとあらゆる有象無象のものが観賞の対象になってしまうという。デザインならではのコミュニケーションがある。さっき勇吾さんのお話を聞いて思ったんですが、確かにお金がなくてということは切実な話で、そのときにすでにコレクションが集まっているところがあるんだったら、そこから取り寄せるんじゃなくてみんながそこに行くという、そこを期間限定でミュージアムにするという。ミュージアムキャラバンみたいな仕組みでも、スモールスタートのあり方としてはいいんじゃないかなと。
川村
とても面白いですね。ミュージアムの概念に縛られない方法だと思います。かたちのないものをどう展示するかってそれなりのアイデアが必要な気もしていて。データはデータになってしまうので、それをいかにわかりやすく伝えるか。「日本にデザインミュージアムをつくろう準備室vol.2」で、色部さんがおっしゃっていた、プロセスのお話もありますよね。デザインというのは生み出されたモノだけではなく、その過程や文化的背景、社会的背景があったのかというのも含めてひとつのデザイン行為。そうした部分も含めて、どう収集するのか、できるのか、どう見せるのかというのは課題としてある。グッドデザインはどう取り組まれているのでしょうか?
矢島
それは見えてきますね。デザインの定義に戻りますが、エントリーしてくださった方々が「これがデザインだ」と思って参加してくれている。その相対として、ここまでデザインの概念は広がっているんだとか、時代の変化や社会の傾向が見えてきますね。
川村
デザインを規定せずにものから湧き上がってくるというのは面白い。もちろんキュレーションは必要だと思いますが、雑多であってよい思います。できるだけ広い範囲の方が時代の輪郭が見えてくる。
デザインミュージアムの
アクションを起こすためには?
川村
今回いただいた質問の中にも「いつオープンするんだ?」「アクションプランはあるのか?」というのもありました。それが見えてこないと永遠に会話だけで終わってしまうんじゃないかと。毎回議論がループしているという厳しいコメントもいただいています。ただ、ループになっていなくて、少しずつどこかのベクトルに向かって螺旋を描きながら進むしかないんだと思います。議論を重ねるのも無駄ではないと思いつつ、でも、早く形を見たいとも思う。
その次のステップとして、先ほど話した番組を企画したというのはあります。皆さん、アクションステップとしてできそうなアイデアはありますか? グッドデザインと繋げてみるとか。分散型でスタートするとか。どういったネクストステップがあると思いますか?
中村
とはいえ、中心的な施設があるといいなと思うんですよ。それはデザインファンとして、あったらいいなあと思うだけなんですが。
川村
ホームがないと霧散してしまうような気もしますよね。でもそれをやろうと思うと永遠に始められないような気もしていて。だったら、まずポップアップでやってみようぜ、とか。試してダメだったら次の手立てを考えてうまくいくまでやるのか。いきなり数十億円をかけて建物を建てるのではなく。何かをやるとしたら、2025年の大阪万博が、デザインミュージアムをプロトタイプ化していくタイミングなのかもしれませんね。時流に乗ってタイミングよくやるのがいい。
中村
そもそも展覧会ってあまりそれ自体が利益を生むものではないので、基本的には支出ばっかりだと思うんですよ。現実的に作ったら。それを敢えてつくるときに、こういうのあるべきって言ってでかいものを、でかい場所につくって、どんどん存続しにくいものを勘でつくっていくよりは、小さいもので試していくことなのかなと思いました。でも、この話、現実的すぎてつまらない意見ですよね(笑)。
川村
両方から攻めていくのもありかもしれないですね。田根さんから建造物のスケッチが出てきたら、お金を出そう!という人が現れるかもしれない。VRとかでつくったらどうかという話もある。矢島さんは、そういったアプローチってどう思われますか?
矢島
VRでもネット上でもいいんですが、そこで完結するのではなくて、実物が見えるかたちがいい。
川村
それはもちろん。デザインでは身体性がすごく大事だし、ものの縮尺と手触りと五感で体験できるものじゃないといけないし、それはデータでエミュレートはできない。デジタル上のモノのミュージアムというだけでVR完結してしまうと、あくまで視覚情報だけになってしまうので、それだと意味がない。フィジカルのサポートとしてのVRなのかなと思います。
色部
デザインの場合、特いプロダクトとかはデータ化しやすい。編集軸によっては全部模型で展示をするとか。何分の1サイズでコレクションをしていくとか。いきなり大きいことを始められないのは明らかなので、始まりはVRでも模型展でもいい。小さく始めて気分をどんどん盛り上げていくのがいいと思う。
中村
これだけデザインの媒体が多様化していくときに、デザインミュージアムの展示空間で実物でカバーできるものがどれだけあるかは、けっこう微妙。例えば映像作品は展覧会で見せられるとけっこう辛い。そうやって考えると展示空間で展示するという形式に合ったデザインってそんなに多くないのではないか。そこを柔軟に考えた方がいいのかなと思う。先ほどの椅子も、実物の展示が一定の良さがあることはもちろんですが、お店で「この椅子は十何万円か〜でもいいな~欲しいな~」って思いながら見る方がリアリティがあったり。そういう風に消費の場で見た方がいいものもある。でも、ミュージアムは欲しいな、というアンビバレントな気持ちです。
川村
デザインって社会にあるものだから、そういう話になってしまうんですよね。ミュージアム然とした場所で見てもだめで、オフィスの一角に置いてある方が輝いて見えるものもある。中村さんが言うように、適したメディアで攻めていくというのもありだと思います。
中村
ナガオカケンメイさんがやられている「D&DEPARTMENT」は、消費の場で、価値を展示するという、ある意味デザインの提示のされ方として正しい姿だと思う。体験させて、それ自体が展示の一種になるような。例えば。ある種のサブスクリプションサービスみたいなもので、椅子のサブスクとかあったらやりたいじゃないですか。毎月俺の好きな椅子が来るという。それくらいの柔軟さで取り組むという。
川村
それ面白いですね。もちろんキュレーションされているんだと思いますが、デザインの歴史を辿りながら椅子に座るみたいな。一部そういう新しい体感の仕方も内包するのは面白いですね。ただ、セレクトショップじゃんってなる可能性もあって、そこの線引きはどうするのかは考えなければならないですが。
中村
いまの話は一部の消費されるデザインには当てはまる話だけれど、建築とかには当てはまらない。でも昔の名建築に宿泊できるというのは、展示の一種とも言える。NHKの番組で話したことに戻ると、所有情報だけじゃなくて、自社の製品のアーカイブを保有している企業とか、無印良品の製品を勝手にコレクションしている個人とか。そういう人一人ひとりがデザインミュージアムだとも言える。コレクションをしている人というのは、消費する人と明らかに保有するという意識が違う。そういうコミュニティこそがミュージアムであるというのは、ひとつの答えなのかもしれない。でもやっぱり場所は欲しいなあとは思うんですよね。ある種の権威の最後を支えるものとして、収蔵庫があって、そこを目指すのがデザイナーの志になるというような。
川村
権威が嫌い、壊したいとは言いながら、やはり必要な部分があるのかなあと。分散型だといますぐできちゃうじゃないですか。でもやれって言われたらやるかなあというところがあって。分散型ってアイデアはすごくいいと思うんですが、実現するときにどうやって走らせるかとかはまだまだ考えていかなくてはなりませんね。そろそろ質疑応答に入りたいと思います。
<<<質疑応答>>>
Q
小さく始めるためにクラウドファンディングもあると思うが?
川村
もちろんありだと思います。具体的なプロジェクトが見えてきたら立ち上げたいと思います。成功しなくてもラーニングになるので、クラウドファンディングをして仲間を集めるというかたちで利用したいと思います。
Q
東京都現代美術館とかで間借りしてやってみるとかっていうことはあるか?
林保太(文化庁 文化経済・国際課 課長補佐 / トーク1登壇者)
少し先になってしまうかもしれませんね。スケジュールがかなり埋まっていますので。
川村
いまある美術館や博物館の棲み分けによるところもありますが、シナジーを発揮できる場だったらぜひやりたいと思います。
中村
グッドデザイン賞って毎年やられているなかで、この20年のグッドデザイン展とかってやっているんですか?
矢島
2年前60周年を迎えた時に、過去の作品の中から125点を選んで、展示ではありませんが、書籍の企画をやりました。やろうと思えばいろんな切り口でいろんなキュレーションができると思います。
中村
仮にデザインミュージアムができるとしたらこうなるっていうのを現代美術館でやるっていうのはできると思いますよね。
色部
グッドデザインって自薦ですよね。それに対してはいろんな意見があると思うんですが、いい方向で捉えて、誰かが自薦するというのは、参加しやすいサイクルが生まれやすいと思います。
矢島
ラウンドトーク1で100人の方に100個のプロダクトを選らんでもらうというお話がありましたが、私のミュージアムという。それを一つの企画として既存の美術館や博物館で展示をするというのは、面白いかもしれませんね。
Q
色部さんのお話で自薦するコレクションというお話でピンときたのですが、クロアチアで「Museum of broken relationship」という美術館があって、離婚した二人の持ち物を整理できなくて、ものに物語をつけて定期的に変わる展覧会をやっている。ただのものなのに物語があって始めてそのものがどうやって使われていたのかが想像できるところが面白い。デザイナーですけど車椅子ユーザーでもあって、だけど、私がいま使っている車椅子のデザインがいいとは思っていなくて。そのようにデザイナーが思う「いい」とユーザーが思う「いい」は違う。そういうところから想像していくと、人から集めるといってもどんな人から集めるかという照準が定まる。学校の先生が思う素敵なデザインって何だろうとか。それをやることで、今の日本にはどういう傾向があって、でももしかしたらこういう意識が足りないというのが見えるから、自薦の場というのを研究の場にしていって企画展をやったらいいんじゃないかと思いました。
川村
面白い視点ですね。専門家の目線とユーザの目線では違う。
色部
専門家の話だけではなくて、生のユーザーの声がきける。キャプションを読んでみたいです。
中村
エキシビションを毎年積み重ねて、徐々に醸成されていって、いつか建物が立つといい。それならできそうって思いました。
川村
悩んでいるよりやった方がいいだろうって思いますね。
Q
僕は世界遺産が好きなんですが、デザインミュージアムって誰に見せたいのかがよくわかりませんでした。江戸を取り上げたりとかされているけど、何百年後の僕たちが過去を振り返って回顧するようなものなんでしょうか。
川村
こういう方がいいねって思ってくれるデザインミュージアムをつくっていかなきゃいけないんだと思います。個々人の問題意識があると思うので皆さんに聞いてみたい。僕個人の意見としては、デザイン教育というか、デザインのどこが大事なのかがわからないという人がとても多いように感じるんです。でも僕からするとすべての行為がデザインだと思っている。そういうことを知るためには、過去のものから検証をしていく必要がある。行為自体に込められている思いやプロセスを伝える必要がある。それがより広く伝わることで、日々の仕事に活用してもらいたいと思います。ビジネスを始める、スタートアップもデザインだし、経理の人が帳簿をきれいにつくることもデザイン。そのようにデザインを広めるという意味で、デザインミュージアムが必要なんだと思う。皆さんどうですか?
色部
川村さんとほぼ同じです。デザインというものが思ったよりも理解されていないということを、デザインの仕事をしていると痛感することがあって。デザイナーを認めて欲しいというわけではなくて、デザインという行為みたいなことをよりよくするための工夫みたいな部分があるので、その知見を共有するということは有用なことかなと思います。その機会を提供する場としてのミュージアム。僕のモチベーションはそこにあります。
矢島
誰のためにという答えをしますと、グッドデザイン賞というのは使われる方が対象です。国内海外ボーダレスです。使われるものとしてふさわしいか、ということを基準に審査をしています。
中村
僕は『デザインあ』という番組に関わっています。番組のテーマとしてはデザインなんだけど、もうちょっと拡げた感じで思っていて。例えばNHKって自然物を観察して「自然っていいよね〜」という番組がいっぱいあるじゃないですか。それの人工物版だと思っていて。「人がつくったものもいいよね〜」っていう。それがゆくゆく「つくるの面白いね〜」ってなったらいい。ペットボトルも醤油差しもデザインした人がいるんだけど、小学生や中学生のときは、そういう意識がない。でも、デザインを知っていくうちに、「あれデザインした人すごい!」と思うようになる。ミュージアムでデザインを知ることによって、「いいよね〜」となって、「じゃあ俺もつくろう!」と、そういう体験をしてもらえるといいなと思います。
川村
世界遺産もデザインの一部。人の手によって生み出されたもので、時代の風雪に耐えてきているものです。それを好きな時点で、デザインをすでに楽しまれているのかもしれないなと思います。
開催概要
「日本にデザインミュージアムをつくろう準備室vol.2」
日時:2019年11月16日(土)14:30〜19:00
場所:虎ノ門ヒルズフォーラム ホールB
イベント協力:有友賢治、河村和也、山下公彦(TYO.inc)
✳︎次回開催のお知らせなどはこちら
→公式WEB http://designmuseum.jp
→Twitter https://twitter.com/designmuseum_jp
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